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雨雲の中の稲妻

 オレは慎重に、月村先輩につきまとう。  一定の距離を取り、近くにも遠くにも行かない。  月と地球(ほし)が一定の距離でお互いの周りを回るように、オレと先輩はお互いの周りを回り続ける。  そうやって、オレは月を眺め続けた。  そうして、眺めながらオレは月村先輩の中に入りこむ。  その場所にいて落ち着くように、なくてはならないように。  お気に入りの気のきく後輩。少し天然で、勘違いをしたりする。  それがオレが自分に振った役だ。 「な〜。明日暇?」  先輩が机の上に石を並べて眺めながら言った。  時々こうして見て、ほこりがついたら拭いたりしている。  本気で集中して見ているから、オレには先輩観察の時間だったりする。 「特に用事はないですけど」  先輩に優先する用事はない。例え誰に誘われていたとしても。 「ん〜ミネラルショーに行こうかなと思って。星影も行く?」 「ミネラルショー?」 「こういうの売ってる」  先輩がお気に入りの水晶を差し出す。5センチくらいの両錘水晶。黒い色が雲のように入り込んで、ヒビの入った部分が虹色に光っている。  まるで雨雲の中の稲妻のように。 『雰囲気あるだろ?』  そう言って前にも見せてくれた。 『うわ。なんですか。すっごい綺麗だ。どうやってこんな形になるんだろう。両方尖ってる。削るのかな』  オレが素で感動して見ていると、嬉しそうに微笑んだ。 『これは天然。折れた水晶が空間や水中で育つとそんな風な形になるんだ。黒い雲みたいなのは炭素で、虹色に光るのはレインボーって光り方。微妙にヒビが入っててそこが光を反射してる。これはすげえ綺麗に虹が入ってる。透明度もよくて、俺のお気に入り』  先輩は真面目な顔で聞いた。 『なあ、なんか感じる?』  オレはキラキラする水晶を回して見ながら言った。 『なんか癒されるっていうか……なんだろ。凄いなあ。言葉に出来ない。でも、この石、先輩が好きですよね。そんな気がする』  先輩を見ると、机に腕を組んで頭を乗せていた先輩がゆっくりと微笑む。それはとても綺麗で、今持っている水晶のように複雑で、言葉に出来ないような雰囲気をまとっていた。 『わかるんだ?』  オレは顔が赤らむのを感じた。  きっとこんな顔で女を口説くんだろうと思う。 『なんとなく。そう思っただけですけど』  先輩が手のひらを差し出す。オレはそっと水晶を乗せた。 『俺もそう思ってる』  そして、もう一度真っ直ぐにオレを見て微笑んだ。  水晶を受け取りながら、その時のことを思い出してドキドキする。あれから先輩は時々石の話をしてくれる。  透明に金色の針の入った石がルチルという名前だとか、針は金じゃなくてチタンでいろんな色があるんだとか、灰色の石の赤い結晶がガーネットだとか。地球の中のマントルに浮かんで天井を見上げると、そこには黄緑色ペリドットがびっしり張りついているんだとか。 「石に興味あればだけど」 「彼女と行かなくていいんですか?」 「星影だったら連れて行こうかなって感じなんだけど。なんとなく一緒に行ったらいい石が拾えそうな気がすんだよな」  アメジストを机のライトで透かして見ながら先輩は言う。 「お前、石に夢中になってても怒らなさそうだし」 「なんで怒るんですか」 「お前のそういうとこ、いいよな」  ちらっとオレを見て言う。 「じゃ、決まり?」 オレが頷くと、微かに微笑んで、先輩は持っていたアメジストをまた眺めた。

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