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第29話

お父さんはあの後、病院に入れられたらしい。 会うことは出来ないと言われた。 別におれももう会えなくてもいい。 あの人のことも聞いてみた。 お父さんを殴ったことは正当防衛とのことで逮捕はされなかった。 あの人の名前を教えて欲しいと言っても警察は規約が云々とかで教えてはくれなかった。 それから、おれは警察の人達とともに必要なものを取りに行くため一度だけ家に帰った。 もうこの家には戻って来れないんだろうな。 おれが書いた書き置きは床に落ちていてお母さんが帰ってきた気配はなかった。 書き置きを拾い上げる。 ……もしも、おれが書き置きをしたい、とか思い出のキーホルダー取りに行きたいとかって言わなかったらあの人と離れることはなかったのかな。 書き置きをぐしゃぐしゃにしてゴミ箱へ投げ捨てる。 考えたって無駄な事だ。 どうせ、結果は変わらないだろう。 どうせ、あの人とはもう会えないんだ…… ​─────── それからおれは児童養護施設へと入れられた。 入ったからと言ってもおれは誰かと仲良くしたりすることは無かった。 朝起きてすぐに飯を食べて学校へ。 学校が終わればすぐにバイトへ。 門限ギリギリに帰ってきて飯を食べて風呂に入り眠る。 家にいた時と変わらない忙しない日々を送っている。 施設の奴らだって最初は興味を示していたがすぐに興味を失ったのか話しかけてくることは無かった。 すごく静かだ。 あの人と会う前の日々と何も変わらない。 おれの日常だ。 ……なのになんでだろう。 時折胸が苦しくなるのは。 「……しくった。」 つい、いつもの癖で金曜日に休みを入れてしまった。 もう、お母さんが帰ってこないと分かっているのに。 学校に居続ける訳にもいかないし…… さっさと帰って部屋に籠るか。 そう考え施設へと足早に戻る。 施設に着くなり声をかけられた。 「おや、悠介くん学校おわったのかい? おかえり。」 「……ただいま。」 施設長の田口さんだ。 さっさと部屋に行こうとすると。 「悠介くん、今日はアルバイトお休み? 良かったら一緒にお茶でも飲まないかい?」 めんどくさいやつに捕まった。 「……そんなに嫌そうな顔しないでおくれ。 話をする機会もなかったし良かったらどうだい?」 「…………わかりました。」 断れるようなこれと言った理由もないので田口さんについて行く。

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