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第36話

椅子の上で三角ずわりになり顔を埋める。 すんすんと鼻が鳴る。 恥ずかしくて顔があげられない。 「……悠介くん、ちょっとお茶飲もうか。」 「……」 「悠介くん」 田口さんが話しかけてきているのはわかるけど返事をしたくない。 情けなくて悔しくて顔をあげられない。 「悠介くん」 「……」 「悠介!」 びっくぅと飛び上がる。 むっと怒ったような顔をした田口さんと目が合う。 いや実際怒っているだろう。 「悠介くん、悲しいのも寂しいのもわかる、けど! それで物や人に当たるのはだめなんだよ。 自分が傷ついているのと同じように相手を、物を傷つけちゃだめだよ。 また相手に自分と同じような思いをしてほしいの?」 「……じでほじぐないっ」 「悠介くんならわかるでしょ? 無視してしまったら相手になんて言うの?」 「……だぐちざんっ、おれ、むじ、じでっ、ご、ごべんなさいっ!」 泣きながら、でも田口さんの顔を見て謝る。 「……うん、僕もごめんね。 キツイ言い方して。」 「おれ、がっ、わるいからっ、 田口ざんわるぐないっ」 なんかおれ、ここきてからずっと泣いてる気がする。 田口さんの前で泣いてばかりだ。 「おれ、ないでばっかりでっ、ごべんなざい……」 「いいんだよ、子供は泣くことが仕事っていうからね。」 「おれ、ぞんなこどもじゃない」 「ああ、ごめんね、そうじゃなくてええっと…… 泣くことで人は成長するからね。 悔しくて泣いたら次はうまくやるぞって思えるし、悲しくて泣くのも次に進むために必要なことなんだよ。 感情の成長っていうのかな、必要なことなんだ。 逆に泣かないと大人になったときにうまく感情が現せなかったり泣きたいときに泣けなかったりするからね。 今の悠介くんには必要なことなんだよ。」 ズッと鼻をすすりながら田口さんの話を聞く。 なんかうまいこと丸め込まれてる気がする。 でも今のおれに必要なことなら、泣いてもいいのかな。 「そして僕たち大人はそんな子どもたちの成長を見守るんだ。 時に叱って、時に慰め、時に褒める。 だからいっぱい泣いていいんだよ。 いつでも僕たち大人が受け止めてあげるから。」 「……ん」 「でも、物や人にあたったりすることはだめだからね、そういうときはちゃんと謝ること。 さ、落ち着いたらちゃんと田丸くんと徳丸くんに謝ろう。」 「……はい」 部屋を出て田丸たちのところへ行こうと思っても勇気がでなくて行ったり来たりしてしまう。 謝るってどうすればいいんだろうか。 迷惑かけてごめんって言えばいいのかな。 掃除してくれてありがとうとか? なんか全部違う気がするし、言えそうにもない。 どうしようか…… 「あー! 悠介やっと見つけたー!」 「ゆ、悠介くん、大丈夫?」 おれが行くよりも先に見つかってしまった。 二人がなにか話しかけているけれど頭がぐるぐる回ってしまう。 えっと、ええとおれが言わなきゃいけないのは…… 「た、田丸、徳丸ごめん!  おれがビチャビチャにしたところ掃除させちゃって……」 言ってしまった。 なんか面と向かって言うのがすごく恥ずかしい。 絶対今のおれ顔真っ赤だし顔を見れないし。 二人ともなにもしゃべてくれないのがすごく怖い。 永遠にも感じるような沈黙。 を破ったのは 「……な~に言ってんだよ! 気にしなくていいってんの! それよりも大丈夫か? 服すっげー濡らしてただろ。」 「そ、そうだよ。 そ、掃除くらい気にしないでよ。」 「……ありがと。」 「もう掃除とか終わっちまったしさ、暇なら今からトランプしようぜ。 大富豪やろーぜ、悠介やったことあっか?」 「え、いや、おれやったことないしルールも知らない……」 「じゃ、じゃあぼくが教えてあげるよ! 行こう!」 「ちょっ、引っ張るなよ!」 二人に引っ張られるようにして連れて行かれる。 さっきまで泣いていたのが嘘のように笑って二人と走る。

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