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第37話

「なぁなぁ、悠介って高校卒業したらどーすんの? バイトやってっし大学行く予定?」 「……どうするか決めてない」 今までは今を生きることで必死で先のことなんて考えたことがなかった。 でも、今は考えることができる。 田口さんには奨学金借りながら大学に行きべきだって言われたけれど迷ってしまう。 大学に行くか就職するか。 「田丸はどうするんだ?」 「オレ? オレはかーちゃんが大学の費用出してくれるから進学するぞ。 のんびりバイトとかしながら大学でやりたいこと探すつもり。」 「……おれは、迷ってんだよな。やりたいことあるわけじゃねーけど就職したほうが安定はするだろうし。」 「確か徳丸は就職するはずだな。 でもアイツはやりたいことがあるからそのために就職するって感じだし。 ないなら大学行ったほうがいいだろ、経歴にも書けるし。」 「でも、大学入ってもその後の家とかのこともあるし……」 うじうじと悩んでいると田丸がバァァァンと机を叩く。 「悩みすぎ! 人生どうなるかなんて誰にもわかんねーんだから楽しめばいいんだよ! 就職しちまったら遊ぶ時間減っちまうぞ。 今しか遊べねーし、お前ほとんど遊んだことねーだろ? 友達作って遊ぶだけでも大学入った意味あるってーの。」 「そう、なのか?」 「悠介、大学決まってないならオレと一緒の大学受けよーぜ。 悠介の頭でも入れるだろうし、わかんねーところあったらオレが教えられるし。 あと、大学の寮入る予定だから他よりも安いしオレと一緒に入れるから怖いもんなしだろ?」 「……田丸って本当ににーちゃんなんだな」 「なんだよ」 「いや、おれも、田丸と同じ大学受けようかな。 だめだったら就職でもバイトでもしようかな」 「おーおーそうしよーぜ。 てわけで早速一緒に宿題しちまおーぜ。」 「ん」 ​─────── 「だぁぁぁぁ、もうわかんねーよ。 相手の気持ちなんかわかるのかってーの。」 「おれも田丸とおんなじところで詰まってる。 訳わからん。」 「そ、そこは前のこの文章を見て……」 「「徳丸、天才か?!」」 ​─────── 「悠介くん、バイトお疲れ様。 受験勉強大丈夫かい?」 「えー……田丸と徳丸に教えてもらいながらなんとかやってます。 バイトもあるんですっごい疲れます……」 「そっかそっか、頑張ってるねぇ。 今度高校三年生組で料理教室やるつもりだけど参加するかい?」 「参加します! 次は何にするんですか?」 「次はねぇ……」 ​─────── 「「徳丸、内定おめでとー!」」 「あ、ありがとう。 ふ、二人もついにあ、明日受験だよね。 が、頑張ってね。」 「おう! 当たって砕けてくるわ!」 「いや、砕けちゃだめだろ。」 「ぼ、ぼくがなんかき、緊張してきちゃった。」 「「いや、なんでだよ」」 ​─────── 「もしこれでどっちかが落ちてたらどうする?」 「やめろよ、嫌なフラグ建てんの。 お互いに合格してんに決まってんだろ。」 「あ、発表されたぞ!」 「「……」」 「せーので合格か不合格だったか言おうぜ。」 「……わかった。」 「「せーの」」 「「合格!」」 「「……!」」 「いよおっしゃー! やったな、一緒に合格した! 田口さんに報告しに行こうぜ!」 「おう!」 ​─────── 「……つい、この間悠介くんが来たような気がしてたのにね。 もう悠介くんもこの施設を出るのか。 感慨深いねぇ。」 「田口さん、一年とちょっとの間お世話になりました。 田口さんはまだこの施設にいるんですか?」 「うん、僕は悠介くんたちが大学卒業して就職とかしたあたり…… 悠介くんたちが二四歳になる年に僕も施設を卒業するかな。 ……また、いつでも帰っておいで。 ここは悠介くんの家だ、いつでも迎えてあげるからね。」 「……田口さんもお元気で! また会いに、……家に帰ってきます。 あ、あの! お願いが、あるんですが…… その、もし、おれの母さんか小暮さんが来たら連絡、もらえませんか。 ……小暮さんは無理だろうけど。」 「お母さんが来たら連絡ぐらいな、お安い御用だよ。 ……また、会えるといいね。」 「……はい! それではまた!」 笑顔で去っていく彼を見送る。 見えなくなったところで手を振るのをやめ下ろす。 「……こぐっちゃん、悠介くんは立派に成長したよ。 言わなくなったけど会えないのは寂しいと思うんだ。 ……ねえ、こぐっちゃん。 君は今どこでどうしているんだい。 僕は不安なんだよ……」 桜の花びらが舞い踊る。 悠介くんたちの旅立ちを祝うかのように。 つぶやきをかき消すかのように……

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