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第29話 格別な
これは……するんだろうか。
する、んだろうな。
「……」
今、シャワーを、樋野が浴びている。
俺の髪が濡れてると気がついて、髪、ちゃんと乾かしてくださいって、その間に俺はシャワー浴びてきちゃうんでって。
寝ないで待っててくださいって、言われた。
だから、今、待っている。
その、シャワーを浴びてきちゃうんで待っててください、の意味を考えながら。寝ずに待っていたら、その……するのか? って考えながら、待ってる。
俺が要望した「続き」を樋野はキスの続きと捉えたのか、キスの行為の先の続きと捉えたのか。
そんなことを考えながら、すぐそこから聞こえてくるシャワーの音を聞きながら、待っていた。
「……ふぅ、さっぱりした」
樋野が出てくるのを。
「っ」
シャワーを終えた樋野が腰にタオルだけを巻きつけて出て来たのを見て、慌てて下を向いた。
裸だ。
って、そう思って俯いた。
俯いて、自分の耳が熱いのを感じて、きっと真っ赤なんだろうなって、少し恥ずかしく感じるけれど。でも、もう俺が未経験なのは伝えてるし、だからもう恥ずかしがったって、取り繕ったって意味はないって――。
その時、樋野がクスッと笑った。
「樋野?」
「いえ、なんか、最初のイメージと全然違うなって思って」
「……俺?」
「もっと怖い感じというか、近寄り難い感じがしたから」
「……」
そう? だったか?
「綺麗な人だから、怖い顔すると結構迫力ありました」
「俺は、綺麗なんかじゃ」
「今は、綺麗なだけじゃなくて、可愛いです」
「かっ、かわっ」
おかしなことを言うから思わず顔を上げてしまって、顔を上げたら、すぐそこに樋野がいて、心臓のところがぎゅっと縮こまる。
怖いとかじゃない。
ただ――。
「俺のこと、警戒しないでいてくれてるんだって、ちょっと嬉しくなったんです」
ただ、ドキドキしただけ。
「最上さん……」
「あっ……」
ただ、あぁ、する……んだって、思った。
「したら、ダメ? 最上さん」
「あ……えっと」
「最上さんがダメなら」
「その」
ベッドに乗り上げてくる樋野に心臓が大騒ぎしてる。
「つ、付き合って、キスまでは一ヶ月くらいなんだそうだ」
「はい」
「だから、まだ、こ、交際、を始めて一週間だとキスもすごく早いことになる」
「えぇ」
すごく、すごく、ドキドキしてる。
「かなり早いけれど」
引き寄せるのはどうしたらいいんだろう。服を着ていてくれたらその服を引っ張ればよかったんだけど、これだとそうもいかないから。腕を引っ張ればいいのか? それとも……でも、タオルは引っ張ったら取れてしまうから、触れてしまわないように気をつけて、そっと、首を傾げて、目を瞑った。
そしたら、樋野がキスをした。
唇が触れて、少しだけ啄まれてから、ちょっとだけ離れた。
薄く目を開きながら、その触れたばかりの唇を見つめながら。
「早いけれど、でも……したい」
そう、小さく小さく答えた。
「やっぱ、ヤバイ」
「あっ……ン……んっ」
見つめていた唇が動いて、俺なんかのことを可愛いと呟いて、反論する間もなく、今度は深くキスをした。
「……ン」
舌が差し込まれて、絡め取られて、くちゅりと甘い音がする、濃いキス。
「ン、あはっ……」
首筋にキスをされるとたまらなくくすぐったい。
「あっ」
けれど、そのくすぐったい中に、ゾクっとしたものが混ざってて、変な感じ。ほら、声だって。
「あっ……はっ、ン」
手が樋野に思わずしがみついたら、素肌だから少しびっくりしてしまった。びっくりして、触れた瞬間手を離したけれど、首筋にまたキスをされて、今度はちゃんとしがみついた。
「あ、あ、あっ」
くすぐったいけど気持ち良くて、どうしたらいいのかわからない手の置き所に戸惑ってた。戸惑ってるのが、この至近距離だとバレてしまうのかもしれない。目が合ったら、今日、すでに何度かしているキスを唇にくれながら、持参した家着を捲り上げられ、乳首を――。
「あ、あぁっ、あ、舌っ」
そこは、少しだけ知ってる。
「あっ、気持ち、いっ」
乳首は気持ちいいって、知ってる。でも、舌で舐めてもらうとこんなふうなのは、知らなかった。
「やぁ……ン」
舐められて、濡れるとこんなに気持ちいいなんて。ローションを指につけて自分で摘んだりするのと全然違う。
「あ、あ、あ、あっ……あっン」
コリコリってぷっくり膨れて硬く勃った乳首を舌先でもてあそばれるのは、たまらなく気持ちいい。
「最上さんの乳首、敏感ですね」
「ン、だって、舌、気持ちい……あ、あ、あっ」
吸われると、ぎゅっと切なくなった。
「やぁ……ん」
舌で転がすように上下に、左右に、嬲られるとたまらなくなった。
「あ、あ、あ、あ、それっ」
反対側は指でぎゅっと摘まれて、指で押し潰されて、指先にクリクリといじられて、感じて、蕩けてしまう。
「アッん」
「最上さん、声、エロい」
「あ、やだ……噛んじゃったらっ」
それは知らない快感。
「あ、やだやだ、これ、すごい気持ちいっ」
自分じゃ噛めないから。自分じゃ舐められないから。指しか、自分の指でしか気持ちよくなったことないから、たまらない。
「あ、樋野っ」
樋野にしてもらうのは、格別気持ちいい。
「指、挿れてもいいですか?」
「あ、ローションがカバンの」
恥ずかしいけれど、少しだけ期待して持ってきてたんだ。キスだけかもしれないけれど、そこから先もあり得るかもしれない。備えあれば憂なし、って言うから。だから。
「俺も持ってきてます。使わないかもしれないけどって思いつつ」
「あ」
「年下の奴なんてやっぱり無理って言われるかもって、思いつつ」
「そ、そんなこと言わない」
そこから先もあり得るかもしれないって、樋野が思ってくれてただけでも飛び上がりそうになるほど嬉しいのに。
「言わない、から、だから、指……」
「最上さん」
「ンっ……っ」
持参したローションを持って戻ってきた樋野がキスをしながら、俺をベッドに押し倒した。自分の家とは違う、少し跳ねる感じがするスプリングの強いベッドに沈んで、持参した家着の下を樋野が指先に引っ掛けてずり下げる。
「あっ……やだ、見ちゃ」
反応してるところを見られてる。
とろりと滴り落ちたローションで指を濡らした樋野に、胸を躍らせてるのもきっとバレてしまってる。
「あっ……」
恐る恐る開いた脚。
「あぁっ!」
孔に触れた指は自分のじゃないから。
「あ、あ、あっ……ン、ンンっ」
「っ」
「やぁっ……あ、あ、あ、樋野っ、樋野っ」
信じられないくらいに違うから。
「あ、ン、樋野の指、すごっ……あ、あ、あ」
信じられないくらいに格別な快楽だった。
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