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第31話 抱き合える

 きっと、自分は誰とも抱き合わないだろうって思ってた。  ずっと一人なのだろうって、思ってた。  生まれ育った町では到底そういう相手を見つけるなんて無理だ。異性愛が当たり前で、結婚して子どもがいて新しい家族ができる、っていう場所だったから。  けれど、上京してきてからも相手を探す気になれなかった。  友人たちが楽しそうに恋愛をする様子を、楽しそうにその恋愛の話をするのを、ただ眺めてるだけだった。  だって、あんなふうには誰ともなれない気がしたから。  ソウ、だってわかったらさ、あんなに日向の似合う恋愛はきっとできないと思った。  もちろん、同性愛者同士が出会うきっかけになりそうな場所にも行ったことはなかったし。行ってみようと考えたこともなかった。  だってあの時、カラオケ屋で俺をソウと気がついて声をかけてきた男の目つきは薄暗くて。  怖かった。  記憶に残ってるのは、日向どころか湿り気のあるカビでも生えそうな日影みたいな目つき、だったから。  だから――。 「あっ……ぁっ」  誰とも、抱き合えないのだろうって。 「平気? 最上さん」  こんなふうに優しく名前を呼ばれることなんてないと。 「……ぁ」  思ってたんだ。 「最上さん」  温かい手がそっと頬を撫でてくれた。大きな手だ。 「樋、野……」 「……信じられる?」 「?」  何がだ?  そう尋ねようとする俺の唇を指先がなぞって、また頬を、今度は手の甲でそっと、そーっと撫でた。 「貴方とこうしてるなんて」  俺と? 「嘘みたいだ」 「あっ」  樋野が前に上体を倒して、俺の額にキスをした。身体の体勢が変わったせいで、中にいる樋野が僅かに身じろいで、中の別の場所を擦って、それにまた声が溢れる。 「俺も、嘘みたいだ」 「最上さん?」 「抱き合うのって、あったかくて気持ちいいんだな」 「……」 「自分でしか、その、したことないから、知らなかった」  樋野はあったかくて、すごく熱い。 「自分でやらないと気持ち良くないのしか、知らないから」 「……」 「ぁ、っ、それに、ディルドよりも、樋野の、大きくて、全然ちが、あっ! ん、ぁっ、中で、おっきくっ」 「っ、そりゃ、なりますよっ」  なぜか怒ってる樋野に腰をキュッと掴まれて、甘い甘い悲鳴が溢れた。 「大きいとか褒められて」 「ほ、褒めてな、あっ」  ゆるりと中を擦られて、ゾワゾワって、気持ち良い。樋野の太いのが中をいっぱいに広げて、行き来をゆっくりでも、少しずつ早く、またゆっくり、また早く、繰り返す。 「だって、ほ、んとに、全然違う、んだ。自分の、指、じゃ、こんなに気持ちよく、ないっ」 「っ」 「それに、熱くて」  きゅぅんって、中が樋野のペニスにしゃぶりつく感じ。 「樋野の、気持ちい」 「っとに、もうっ」 「あ、樋野っ、んっ、イッたばかりなの、にっ」 「ごめん、でも、最上さん、煽るからっ」 「そ、じゃなくてっ」  激しくされると、声が溢れ落ちるのが止められない。奥を突かれると、たまらなく気持ちいい。 「イッたばかり、なのに、また、イ、きそ、う」 「っ」 「やぁぁっンッ」 「だから、あんまり煽らないで、くださ」  中が欲しがって仕方がないから、手を伸ばして首にしがみついた。樋野ともっと抱き合いたいから。 「あ、あ、あ、ん」  太いのが中を擦ってくれる。大きいので中がいっぱいになって、熱がすごくて。 「平気。樋野の、熱いの、が」  自分の体温でしか温められない玩具じゃない。 「気持ちいっ、もっと、擦って」  自分で動かさないと気持ち良くない指じゃない。 「俺、自分でしか、イッたことない、の」  最中にキスだってしたことない。 「だから、樋野に、して、欲しい」  怖かったんだ。あの時、俺をソウだって気がついた男の目つきに恐怖したんだ。得たいの知れない欲望に乱暴されそうで、怖かった。好き勝手されて痛くされるんじゃないかって、すごく怖かったんだ。 「樋野、の、好きに、して」  でも、違った。  樋野は違ったんだ。 「最上、さん」 「あ、あ、あっ、あぁぁぁっ」  熱いので、中を激しく擦られた。 「あ、樋野っ」  何度も行き来されて、奥を貫かれて、樋野に揺さぶられてる。 「あっ、ンッ……樋野っ」 「正嗣(まさつぐ)って呼んで」 「あっ、正嗣っ」 「っ、あのっ、最上さんっ」  中がきゅうんって、またなった。 「俺の名前呼びながら、中、そんなに締め付けないで、最上さん」 「あ、あ、あ、あっ」  ぶわりと快感が広がる。 「正嗣、だって、今、おっきくしたっ、あ、あ、あっ」 「だって、最上さんが可愛いから、でしょ」 「あ、あ、ダメ、そこ、したら」  イッちゃう。そこ。 「ふぅ……ン、ぁ、正嗣っ」  正嗣のペニスの一番太いところで中を擦られて、熱くて硬いのでいっぱいに広げられた中の一番奥を、突かないで。 「あ、あ、あ、イクっ」  気持ちいい。 「あ、正嗣、また、あっ、イっちゃう」  蕩けそう。 「最上さん、すごい、好きです」 「あっ、あ、ああああああああああ!」  ズンって激しく奥を貫かれた瞬間、込み上げてくるのを止められない快感に達しながら手を伸ばしたら。 「あっ、ンッっ」  しがみつけた。 「あ、正嗣っ」  手を伸ばしたら抱きつくことができた。 「あっ……ン」  たくさんイッた俺を抱き締めてくれる腕があった。 「ん、好き」  それがたまらなく、嬉しかった。

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