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第38話 のぼせちゃう

「あっ」  背中にキスをされて、腰をしっかり掴まれて、期待に胸を躍らせる身体を、太くて、硬いのが。 「あっ……あぁぁあっ」  さっき口の中で感じた大きさが、熱さが、入ってくる。 「あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ!」  身体の中で感じただけで、挿し貫かれただけで、すごくすごく気持ちよくて。 「あ……あ、はぁっ、あっ」  達してしまった。 「あ、ンっ」 「最上さん」 「あぁっ」  イってしまったから、中がすごいきゅうきゅうしてる。正嗣の大きさとか太さとかがすごく確かめられる。中で、感じる、太くて、硬くて、熱いって。 「ンっ……あ、正嗣っ」  ほら、きゅぅんって。 「……し、て」  気持ち良くって、中が悦んでたまらなくて、思わずシーツにしがみついてしまうくらい。 「っ、最上さん、キス、あんなに上手じゃないのに」 「あ、あ、あっ」 「もう、ホント……中はっ」  今も、ほら、また。 「あ、あ、あ、ン、そこ、あぁあっ」  中がきゅうぅんって正嗣の太いのにぎゅっと気持ち良さそうにしゃぶりついて、そんな俺に正嗣は困ったように顔をしかめながら。 「あ、あっ、あぁっ、ン……ン……ん」  深く深くキスをくれた。、まだ上手に応えられない舌まで可愛がるように、逞しい腕の中で何度も俺をイかせてくれた。 「なんか、最上さんの場合だと風呂場が広いのもエロく感じる。やらしいことしやすそうで」 「な、なんでだっ! する訳ないだろ! 風呂場で!」  大きな声を出したら、客人であるはずの正嗣に「シーっ」って叱られた。マンションだけれど、風呂場で大きな声を出したらご近所迷惑だろうと。そして背後からぎゅっと抱きしめられて、湯船がちゃぷんと小さく波立つ。  二人で入るにしては狭いバスタブの中、ちょっとでも身じろぐとお湯が忙しそうに波音を立てて、湯を踊らせてる。それはまるで、二人でお風呂に入るってことに、この煌々と明かりのついたバスルームにいるってことに緊張して仕方のない俺みたいだ。 「……ただの風呂なんだから」  風呂場は体を洗って頭を洗って顔を洗うところだと説明を付け加えると、なんだ残念って、笑った声が背後から聞こえてくすぐったい。 「そ、それに広くない、だろう」  男二人で湯船に入ったらもう身動きできないくらいの狭い風呂だ。その狭い風呂の中だとわかっているのに、いくらなんでも男二人でここに入るのは窮屈だって、見ればわかるのに、それでも一緒に入ってる俺たちはなんだかすごくカップルっぽくて、くすぐったい。 「これで広くないって、俺の部屋の方の風呂場どうするんですか」 「そんなに狭いのか?」 「ここで狭いのなら、あそこは狭いなんてものじゃないですよ。じゃあ、今度一緒に入ります?」 「……」 「なんちゃって」  三回目もあるんだなって、今の会話と発言から、そんなことを確認できた気がして喜ぶ自分がいる。そんな時すごく正嗣のことが好きだなって思う。 「ざ、残念、なのか?」 「……ぇ?」  振り返ったら、正嗣が赤い顔をしていた。狭い風呂場だし、正嗣は広いって言ってたけれど、でも、湯気とかのせいもあって、のぼせたのかなって思ったけど。でも。 「……」  のぼせたのではないみたいだ。 「残念、だった?」 「……最上さ」  背中にちょっとだけ当たるそれがなんだったのかわかって、のぼせたんじゃないってわかったから。 「風呂場で、その、やらしいこと、してなくて」  今、こうしてることにくすぐったくなるのが自分だけじゃなくて正嗣もだってわかると、またもっとくすぐったくて、もっと、正嗣を好きになるんだ。 「あ、そうだ。八代から今日は楽しかったですってメール入ってました。また飲みましょうって言ってたけど」  風呂場でもしてしまったせいで、少し気だるくて、俺は足腰に力が入らないからベッドで横になっている時だった。 「? だめなのか?」  そこで言葉を終わらせるから、何か不味かったのだろうかと思った。言ってたけど……なんて。 「だめです」 「な、なんでだっ!」  なんでそこで少し怒った顔なんだ。俺、何か失敗したのか? 何かやらかしたのか? 迷子にもなってないし、そうチグハグなこともしてないと思うけれど。 「最上さん可愛いから」 「おま、またそういうっ根拠のないっ」  笑って、あるんだけどな、って小さく呟いて、正嗣は足腰の立たない俺の頭にキスをひとつしてキッチンへと向かった。少し喉が渇いたから水をいただきたいと礼儀正しく断りを入れてから。  礼儀正しく、所作がスマートで。そして話しかけやすい。 「……正嗣は、モテるんだろうな」 「最上さん?」  だって、あの身体、普通にかっこいいだろう? 俺も男だけれど、服、というか脚の長さとか標準サイズでは少し足りてないほどのスタイルの良さなのだから。  俺のだとサイズが違っていたから、寝巻きは道を挟んだ向こうの自宅アパートに取りに戻った。  家は近所だけれど、今日は泊まっていくんだ。 「あの、どうしたんですか? 急に」 「……なんでもない」  しかも顔も良くて。 「モテるかどうかで言ったら、最上さんの方だと思いますけど」  こんなに、なんというか、その色々上手で。 「俺はただの田舎者だ」 「……」 「人見知りもすごいし」 「そうですか?」 「そうだよ。今日も、少し緊張した」 「あいつには緊張なんて」 「田舎育ちだからかな。世間知らずなんだ。そのせいか、まぁ動画の一件もあるけど、怖がりだし」  動画のことだけじゃない。怖がりで臆病なんだ。 「怖がりなんですか?」  怖いことは大嫌いだし避けたい。もうあんな怖い思いはしたくないって、すごく思うから。 「怖がりだよ。すごく」  一瞬心臓が止まるような。身がすくむ恐怖。 「たとえば?」 「たくさんある」 「たとえば?」 「んー」  本当にたくさんあるんだ。あれもこれも、言い出したらキリがないかもしれない。何をやるのも最初はおっかなびっくりで、だめでいいから一度やって見なさいと勧められるのがとにかく苦痛な子どもだった。 「本当にたくさんある。ジェットコースターに」 「えー、楽しいのに」 「お化け屋敷」 「お化け、本物じゃないのに」  違うぞ。数年前だけれど実際に出たって噂を聞いたし、なんだったら俺の実家の方では夏祭りに肝試し大会があるけれど、なんとその現場で――。 「そういう問題じゃないんだ」 「……」 「怖いのは」 「じゃあ、その怖いの、克服しましょう!」 「は?」  足腰が今のところだめなんだ。はしゃぎすぎて、風呂場でもしてしまったから。ちょっと調子に乗ってしまった。だからやっぱり慎重に慎重を重ねて気をつけねば。 「俺と! その怖いを!」  すごく臆病だから。 「は、はい?」  すごく怖がりだから。 「克服! するんです!」  だから、一瞬、正嗣が出した提案にぽかんとしてしまった。

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