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第47話 家族で映画鑑賞してる時、ラブシーンが始まると困ります。

 五月、大型連休明けに職場に行くと、橋本さんに声をかけられた。  仲良しに戻ったみたいで良かったわと嬉しそうにしてくれた。俺と、正嗣のことだ。連休始めにあった懇親会旅行の時に俺と正嗣は口をあまりきいていなかったから、気がかりだったんだと、ホッとした顔をしてくれた。もちろん職場では内緒にしている。だから正嗣のことを、正嗣、とは呼ばない。以前のように、樋野、と呼んでいる。  そう、樋野と。  そこで、ふと疑問に思ったんだ。 「ン……ん」 「上手。舌、絡められてます」 「ン……」 「もっとこうしてみて」 「んんんっ」  口の中を正嗣の舌が弄る。舌を吸われて、絡め取られて、擦られれば、じわりと潤んで、キスの音がはしたなく響く。 「ン、正嗣っ」 「もっと」 「ン、んくっ」  橋本さんからたくさんのトマトとナスをいただいた。夏野菜、これからはこのトマトとナス、きゅうりに、ゴーヤ。ゴーヤは止めどなくできるから、頑張って食べてねと、橋本さんが笑っていた。今日はそのいただいた二つの野菜でパスタを作って食べたんだ。それでご馳走様でしたって、食器を片付けて、オンデマンドでやっていた映画を一緒に見ていた最中だった。 「俺、好きですよ? 貴方のキス」 「でも、下手」 「辿々しいのが」 「あっ……ン」 「たまらないです」  神様が人間になったお話。人間になって一人の人間に恋をしたお話。人間になったばかり神様はたまにおかしなことをするから何度もクスクス笑ってしまった。けれど、恋のお話だから、やはり恋をするわけで。恋をしたらキスもしたりするわけで。  そのキスシーンを見ていた。  そのキスシーンを真剣に見つめていた。  どうやって上手にキスをするのだろうと。 「あっ、ふっ……ぅ、ん」  そして真剣に、上手なキスを習得しようとしていたら、キスをされた。  隣で一緒にその映画を観てた正嗣が首を傾げて、俺を引き寄せ、そっと唇を重ねた。  ――すごい顔でキスシーン観てますね。  そう言って、キスをくれた。  普通、なんとなく微妙な空気が流れたり、少し気にしたり、とかするのにって。確かに家族で映画を見ている時に突然始まるラブシーンは戸惑うけれど。父が新聞読み出したり、急に蜜柑食べ出したりはするけれど。  でも、だって、そりゃ真剣に観るだろう? あの、なんか、ちゅってする音とか、何度もこう啄む感じ? とか、それから最重要なのはキスしている時の表情だ。それをよく見習わないと。だからとても真剣に観察して学んでいたんだ。 「ん、ぁっ……ふっ……」  勉強していたのに舌に蕩けてしまう。柔らかく絡まり合って、濡れて、溢れてしまいそうだ。溢れたらはしたないから、恥ずかしいから、慌てて自分の唇をもっと深く正嗣の唇に重ねた。 『ずっと、一緒にいて……』  テレビの中の神様と人間のカップルがキュッと抱き合っている。なんだか、行為をなぞって真似てるみたいで、少し恥ずかしい。  気恥ずかしさに俯くと、追いかけるように正嗣が俺の腰を引き寄せ抱き締める。 「ンっ、んく……正嗣っ、あっ……そこ、はっ」  服の中に忍び込んできた手に撫でられて、キュッと摘まれた。そして、指で硬さを確かめられて、恥ずかしい。もう、だってそこは。 「乳首、硬くなってる」 「あ……だって、ぁン、キス、ンっ、してたら」 「キスしてると硬くなるんですか?」  乳首を爪の先でカリカリ引っ掻かれて、甘い疼きに身悶えてしまう。触られるとダメなんだ。感じて、止まらなくなる。 「じゃあ、こっちも?」 「あっ、……っ……っ」  ズボン越しに撫でられて身体がピクンと反応した。キスに乳首への愛撫に、もう。 「あっ!」 「可愛い」  キュウって摘まれながら、握られて、甲高い声が溢れた。 「最上さん……」 「あ、あ、あっ……ん、正嗣」  ふと、疑問に思った。 「あ、乳首、だめっ」  ふと、思った。 「あっ、正嗣っ」 「最上さん」  これだ。これ。  俺は正嗣って、名前で呼ぶのに。 「可愛い。最上さん」  正嗣は俺のことを荘司って呼ばない。 「あっ! あ、触ったらっ」  ほら、また最上って苗字で呼ぶ。  普通、下の名前で読んだりしないか? 交際している。その恋人のことを苗字で呼ぶものなのか? どうなのだろう。でも、俺は正嗣って呼んでる。交際をするようになって、関係が深くなってからは。 「あ、あ、あ、アンっ」  そう、深い仲なんだ。休みの日はデートをして、平日だってこうして二人で食事をして、キスをして、キス以上のこともする深い関係。  恋人だろう?  恋人なのだから名前で呼ばないか?  呼んでもいいと思うのだけれど。 「あ、……っ」 「最上さん」  ほら、やっぱり苗字だ。  なんでだろう。 「っ……ん」  荘司って。 「最上さん」 「?」 「映画の続きが気になる? 続きは後で観ましょう」 「ぇ? あっ」  集中してない、別のことが気になっている、のは映画のせいだと思ったみたいだ。  押し倒されて、ラグの上に寝転がった。映画を上映していたテレビは「ピッ」という電子音がしたと同時に沈黙になって。 「あっ」 「だから、こっちに集中して、最上さん」 「あ、っ……ン、ん」  映画に気を取られてたんじゃない。 「あっ……」 「最上さん」  そうやって俺のことを苗字呼びするから。恋人なのに。なんでだろうって。 「好きです」 「あっ……」 「すごく好き」  でも、ダメなんだ。触れると感じて止まらなくなる。 「あ、正嗣っ」  もっと欲しくなる。 「正嗣の、も、硬い……」 「そりゃ、最上さんに触られたら」  もっともっと欲しくなって。 「あっ……」  正嗣のそこをズボン越しに撫でると硬くて。 「熱い……」 「っ、触って最上さん」 「あ、あっ……ン」  触ったら、止まらなくなる。 「あ、正嗣」  もっともっと欲しくて、そのことしか考えられなくなる。 「あっ……ン」

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