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第55話 ごちそうさま

 子どもの頃、祝い事には手巻き寿司って決まっていた。  大人たちも楽だったんだろう。下準備をしておけば、あとの調理は子ども達が好き勝手にそれぞれでやるんだから。テーブルに並ぶのは刺身にイクラ、卵焼き、焼き肉にスティック野菜。何を巻いてもいい。いっぺんに全部巻いたって構わない無礼講のご馳走。  俺は少し苦手だったっけ。あっちからもこっちからも箸が横切ってきて、あれもこれもって忙しくて。目が回ってしまいそうで。  正嗣と向かい合わせでのんびりと手巻き寿司をしていたら、笑いながら楽しそうになのにって思うけれど。  ただの食事なのに疲れてしまうんだ。食べたー、って感じよりも、疲れたーって思ってしまってさ。  でも、確かにな。 「あっ、正嗣っ」  確かに二人でした手巻き寿司は楽しかった。  ――そんなに乗っけるのか? 正嗣。  ――? 俺のお祝いだから、全部とりあえず行こうかなって。  ――お、多いだろ。  ――そうですか? だってそしたらめっちゃ食べられそうでしょ? いっぺんに。  ――で、でも、それ口に入るのか?  ――んぐっ……っ……ぐっ。  ――ちょ! だ、大丈夫か? み、水! って、ワインしかなっ、あ! ああああ、それワインだぞっ。  一気にワインで、喉に詰まらせた手巻き寿司を流し込んだから、その後真っ赤になってたっけ。あんなに大きいのをいっぺんに口に入れるからだぞ、って言ったら笑って、「なんだかその言い方エロいです」なんてバカなことを言ったりして。  でも、楽しかった。  一緒に食べた手巻き寿司は、とても楽しくて、美味しかった。 「あっ……ん、正嗣っ」  そして思ったんだ。少し、残念だなって。下から突き上げられながら、ふと思った。 「どうしたの? 笑ったりして」 「いや……」  もっと楽しく食べればよかったなって。実家でもさ、自分の好きにしてよかったのにって。 「あ! もしかして、俺、今、エロ可愛い荘司に見惚れすぎてて、変な顔してました?」 「っぷ、してないよ。エロ可愛くないし。ただ」  そっと、身体を前に倒して、正嗣の食いしん坊な唇にキスで触れた。そしたら、体勢がズレて角度が変わるから、また中を柔らかく愛でられて、甘い声が溢れた。 「ン、ぁ、ただ、手巻き寿司、楽しかったなって思って」  せっかくのお祝いだったのに、俺は食べることだけしてて。不器用なんだろう。ただ食べてばかりで。俺だったり、従兄弟だったり、誰かのおめでとうを祝っていたんだから、もっと、ゆっくり食べればよかった。もっと楽しんで食べればよかった。 「正嗣は楽しかったか?」 「もちろん」 「んっ」 「楽しかったですよ。貴方といられたら、いつでも楽しい」 「俺と? 本当に? あ、あ、あっ……ん、ンっ……あン」  彼とゆっくり話をしながら食べてたみたいに。  素直にマイペースに。 「大好きですから」 「!」 「っ、荘司っ急に締め付けないでっ」  思わず、キュッとしてしまった。 「だ、だって、今、正嗣が、不意打ちするからっ」 「いや、不意打ち喰らったのこっち。っ、イッちゃうかと思った」  きゅぅんと中が締め付けてしまったんだ。だって急に大好きだからなんて言われたら、そんなの狼狽えてしまうだろ。 「イッちゃってもよかったのに。俺の中で」  言いながら正嗣のペニスに自分の内側を擦り付けていく。太くて硬くて、俺の中をいっぱいにしてくれるそれにギュって抱き着いて。 「あ、あぁっ……ん、おっき、ぃ……あ、あ、あ」  気持ち良くて夢中になって腰を揺らしてしまう。  俺も好きだよ。 「あ、あ、あ、あっ」  すごくすごく好きなんだ。 「もう、本当に貴方は……」 「わっ、ちょ、まだ、俺が動くっ」 「ダメ」  ぐるりと体勢が入れ替わる。ベッドに背中から沈みながら、正嗣の重さに喘いで、深く繋がったままの奥をまた角度を変えて攻められ、感極まってしまいそう。 「あ、ああああっ……ん、そこ、ダメ」  深く奥まで貫かれて、ずっと燻ってた熱が嬉しそうに正嗣のペニスにしゃぶりつく。 「あ、ん……ぁ、そこ、イクっ」  ずるずると引き抜かれたかと思ったら、太いところで前立腺を擦られて、背中を仰け反らせながらもっともっとって腰が勝手に揺れてしまう。 「俺に跨って、夢中になって腰をくねらせてエロいのに、お祝いは手巻き寿司とか言い出すとこが可愛いくて」 「あ、あ、あっ」 「反則でしょ」 「あ、あン、あ、あっ」  激しさに身悶えながら手を伸ばすと、その手にキスをしてくれた。  正嗣は、激しくしながら、喘いで悶える男の俺がベッドから落ちないように片手で抱き抱えてしまうんだ。 「あぁあっ!」  そのまま背中に手を当て、俺は腰を浮かせるように背中を外らせて、繋がったところを俺にも見えるように脚を広げられた。はしたない格好なのに。そのはしたない格好をしていることにすら興奮して、中をキュンキュンさせてる。 「恥ずかしっ」 「ダメ」 「あ、あ、あっ……あン」 「俺のお祝い、してください」 「あぁぁぁ」 「ご馳走、食べさせて」  反則なのは正嗣だ。  恥ずかしくてたまらないのに。 「あっ……ン、正嗣っ」 「荘司」  どんなはしたない格好をしても、どんな俺でも。 「好きです」  そう言って嬉しそうにしてくれるから、こんな格好でもしたくなってしまう。どんなだろうと、君に愛されてるって嬉しくてたまらなくなってしまうから。

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