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スポデイ頑張る編 4 頑張りたいなって

「っ、はあああああああ?」 「! び、くり、したっ、って、あぁぁぁっ!」  急にものすごおおおい溜め息を正嗣が吐くものだから、紙相撲の二人が同時にパタパタと倒れてしまった。  これは、えっと、両者引き分け? いや、厳密には正嗣の方の紙力士のほうが早く倒れたから、正嗣の負け? そもそも、指でトントンするはずが溜め息で薙ぎ倒したから、反則負け? 「ああああ! じゃないですよ! あああああ」  ああああ、じゃないって言いながら、ああああって呟くのはどうなのだろう。  今、二人で、紙相撲対決をしていた。  いや、別に、これはプライベートで趣味でやってるとかではなくて、今日の昼間に、高梨さんから言われて、試しに。  ソファに座って、二人の間に空のお菓子箱を土俵の代わりに置いて。  紙相撲なら、誰でもできそうじゃないだろうかと。  これは橋本さんの意見。  高齢者の方々がもっと参加しやすいものはないかって考えてたら、休憩の時に教えてくれた。俺は、身体を動かす、というテーマに固執したからか、どうにも良い案が思い浮かばなくて。そしたら、こんなのどうかしらって。これなら車椅子の方でも指先を動かすだけで良いし、けっこう盛り上がると思うのよって。土俵にはお菓子の箱がいいですよって、これもうちの課のママさん職員さんが教えてくれた。ちょうど、保育園でやったらしくて。その時も空のお菓子箱を使ったって。空になった厚紙の箱をひっくり返して使う。中が空洞になってる方がトントンと音がするから雰囲気も出る。それに案外コツがいるから楽しい、らしくて。  じゃあ、試しにやってみようと夜、正嗣と一緒にやってみたのだけれど。 「ああああ、俺が広報に話聞きに行けばよかった。荘司の代わりに」  それは、ダメじゃないか? 俺が今回、うちの課の代表として、主任の代わりとして、この担当を引き受けたのに。 「だって! なんすか、その子サポ課に綺麗な人がって! 子サポってなんなんですかっ」 「子育て促進、だから、子サポ」 「それをいうなら、こそく、じゃありませんっ?」 「それは……ちょっと……ネーミング的に」  なんだか姑息な課、みたいじゃないか? 卑怯なことをしそうというか。姑息課って……。 「っていうか、一番の、もおおおおお、は、荘司ですっ」 「ええええ? 俺?」 「マスクしてたんでしょうね? ちゃんと」 「し、してるに決まってる!」 「気合い入りすぎて、マスク外したりしたんじゃないでしょうね! マスク外しちゃったら、またファンできちゃうじゃないですか! インフルだってまだ流行ってるし、ほらほら、花粉だってまだまだその辺飛びまくってるんですよ!」  花粉症、じゃないし。  インフルは確かに怖いけれど。  でもマスクならちゃんとしてたし。それに――。 「別に俺の顔なんて」 「出た! またそんなこと言って! 謙遜は日本人の美徳、なんて言いますけど、全然です! 全然、そんなのいらないんで。マスク外したら二、三人、ぶっ飛ばせるんだって、認識してくださいよ」  そんな、なんだかそれじゃ、俺の素顔はすごいみたいじゃないか。例えば、口さけ女的な。妖怪か? 俺は。 「……無自覚」  けれど、本当に。 「いつも言ってますけど、充分、魅力的なんですってば。俺の人生はとりあえず変えちゃったんで」  別にファン、なんてできるほどの魅力はないんだ。  確かに「ソウ」の時に、顔をチラッと出すと褒めてもらえた。口元が色っぽいだとか、目が綺麗だとか。けれど、開けてみたらただの、普通の、怖がりな奴で。趣味なんてものもないし。取り柄があるわけでもない。人と話すのがとても上手なわけでもない。正嗣みたいに人を惹きつけるものを持ってるわけでもない。 「わかってますか?」  わかってないよ。  けれど。 「荘司」 「前にも言った、けれど」 「?」 「別に、他の人は……別に」  ただ、正嗣が見つけてくれたから。  正嗣にだけわかる、何かがあればそれでいいとは、思ってる。 「荘、……」  そっと口付けた。  別にヨソの誰かに好かれたいとは思ってない。好きになって欲しいなんて少しも思ってないけれど、正嗣にだけは魅力的だなって思ってもらいたいんだ。  君にはずっと好きでいて欲しいから。  だから、頑張りたいなって思ってる。 「紙相撲、明日、案として出してみよう」  今回のスポデイだけじゃない。他も、なんでも。 「だから、今日はもう……」 「……もう?」  君に威力的だなって思ってもらえること全部、頑張ろうって思ってる。 「……ん」 「荘司」 「あっ、ンン」  お菓子の箱でできた土俵をそっと正嗣がテーブルに置いて、ソファに並んで座る俺を引き寄せてくれた。 「じゃあ、今日はもうこのままベッドに行きましょうか」 「あっ」 「それとも、ここで紙相撲じゃない、別の一回戦、しますか?」 「っ」  引き寄せられると嬉しくなる。 「ン、うん」 「?」 「する、ここで、一回戦」  キスしてもらえると、胸が躍る。 「相撲じゃない一回戦」  君が俺のことを魅力的だと思ってくれると、世界で一番、幸せな気持ちになる。 「ぜひ、しましょう」  そして、きゅっと、その首にしがみつきながら、唇で耳にキスをした。 ――

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