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スポデイ頑張る編 7 ぐううう、じゃなくて、きゅううう
「あっ……」
恥ずかしい。人が見ているのに、声が出てしまう。
「わっ……あぁっ」
どうしよう。ドキドキしてる。
「あっ、ちょっ」
こ、こんな大きいの、無理だっ。
「お、ぉっ」
わっ、意外に、イケてしまった、って、映像だから俺が本当にイッたわけではないけれど。
「はーい。ゴールです!」
あ、この岩を登ったらゴールなのか。
「お疲れ様でーす」
本当に岩を飛び越えたわけではないけれど、でも、自転車は本当に漕いでいるわけだから案外疲れるものなんだ。
バーチャルダウンヒル。
目の前にはぐるりと囲うようにスクリーンが設置され、その中心部分でサイクリングマシンに乗っていた。スクリーンに映し出されたのは山の険しいサイクリングコース。大きな岩もゴロゴロあれば、行く手を阻むように倒木があったり。道も平坦なところなんて少しもない。
「お疲れ様でしたー」
その声とほとんど同時に目の前に映し出されていた大きな岩山が消えて、真っ白なスクリーンになった。岩がパッと消失したみたいで、驚いて瞬きをしてしまう。
「あ、ありがとうございます︎」
市民センターのちょっと古ぼけたサイクリングマシンが危険なダウンヒルに早変わりだ。実際に漕いでるから、かな。ただサイクリングをするよりずっと疲れた気がする。
「どうでした?」
「ぁ、えと……疲れました」
「けっこうリアリティあります?」
「はい。なら、よかった。これ子どもは楽しいと思うんですよ。あ、もちろんご高齢の方も。きっとこんな道、自転車で行けないから驚いて楽しんでくれるかなって」
「ですね」
橋本さんなら行けちゃったりして。
毎日、自転車で市役所に通っている。バスで来ることもできるけれど、バスだと時間の都合をつけないといけないから面倒なんだって。
「あ、次、こちらもやってみますか?」
そういって高梨さんが案内してくれたのは。
「あ、これ……」
「バーチャルバトル、チャンバラなんですけど」
スポデイの催し物一覧にあってやってみたいって思ってた。
「たぶん面白いと思うんです。俺は一度、やってみたんですけどけっこうリアリティがあって。対戦するのではなく、このメガネをかけると映像が映し出されるんです。モンスターが出てきて、二人で協力して倒すんですよ」
「えっと……」
「メガヒットが出ると剣から音が出たりして」
「あ、あのっ」
正嗣とやってみたいなって。
「すみません」
「……」
「あの、これはとっておきます」
「……」
「当日、やってみたいなって」
スポデイ役員だけれど、自由時間を設けてもらってる。その時間に正嗣と一緒に回ってみようと思ってたんだ。応援してくれたスポデイがどんな感じなのか一緒に体感したいなって。
「……そうなんですね」
「すみません」
会議があるとなれば、率先してその時間の代わりに仕事をしてくれていた。
会議が終われば、どんなでした? って話を聞いてくれた。一緒にスポデイ協賛の企業のホームページを見て、あれこれ盛り上がってくれて。
みんなが身体を動かすのを楽しんでくれますようにって、一緒に願ってくれた。
橋本さんだって、他にもたくさん。
子育て促進課からの役員は俺だけだけど、でも一人じゃなくてみんなで役員をやったって気がしてる。
一緒に、ずっと。
だから、楽しむのなら。
「すみません。今日は、視察に同行させてもらって」
正嗣と一緒に楽しみたいなって思う。
「あの、俺、このあと、用事があって」
子育て促進課のみんなとスポデイの成功を願ってる。
「なので、ここで失礼します」
「……」
「スポデイ、よろしくお願いします」
深く頭を下げて、企業の方にもお礼を言って、その場を後にした。
時計を見れば、そろそろ延長受付が終わる頃だった。お腹、空いたな。仕事の後にたくさん運動したから。何、食べようか。正嗣、何食べたいかな。この前、市役所からの帰り道、バスの中から見つけたカレー屋さんどうだろう。美味しそうって言ってた。
一緒に食べに行きましょうって。
市役所までの道のり、たったの十分。
「! 正嗣!」
走って、さっき来た道を戻ると、ちょうど職員用の出入り口から正嗣が出てきた。
「!」
俺の声にパッと顔を上げて、すぐに俺を見つけて。
「……」
胸がきゅんってするほど嬉しそうに笑ってくれた。
「お疲れ様です。どうでした? スポデイ視察」
「うん。すごく楽しかった」
「よかったです」
すごく本当に楽しかったよ。バーチャルダウンヒルにバーチャルアーチェリーもやったんだ。今日、視察体験をさせてくれた企業が「バーチャル」で色々なスポーツを体験してみようっていうイベント会社だったから、全部メガネをかけたりスクリーンに囲まれて体験するものだったんだけど。だからこそ全部一つのスペースでできちゃうんだ。小さな子どももご高齢の方も無理なく遊べる。
「あー、えっと、その、あの人は?」
いろんなのを体験させてもらいながらさ。
「あ、いや、気にしすぎでしつこいぞって思われそうですけど」
ずっと。
「でも、やっぱ気になるっていうか、荘司は本当に綺麗だから。あ、いや、外見だけじゃなくて中身も本当に。だから安心できないっていうか。信用してないとかじゃないですよ? でも、信用するしないとか関係なく、やっぱ気になるっていう……か……」
ずっと、今、俺がぎゅっと手を繋いだ正嗣と一緒にやりたいなぁって思ってた。
「……荘司」
「……」
「っ、もお、そんな可愛い顔しないでくださいよー」
「だって」
「飯、一緒に食べようって言ってくれたってことは、まだ夕飯、荘司も食べてないんでしょ? なのに、そんな可愛い顔されると」
されると?
「…………困ります」
「っぷ、あはは」
少し赤くなりながら怒ったような、困ったような顔をするのが愛しくて。
お腹がぐうううって鳴るよりも、そのお腹のもっと下、奥の方がキュッてした。もっと別のものが欲しいって、キュッてなった。
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