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スポデイ頑張る編 9 それはまるでヒーローのように

 スポデイ、当日――。 「すみませんっ、ダウンヒル、けっこう人が並んじゃってますっ」  あっちこっちに設営されたスポーツイベント会場はまぁまぁ盛り上がってくれている。  よかった。  空は快晴。あったかくて、桜の蕾が今日で一段と膨らんでくれそうな陽気になってくれた。 「最上さん!」 「は、はいっ!」  声をかけられて急ブレーキをかけて止まると高梨さんが長蛇の列と向かい合わせになって、こっちに手を振っていた。 「すみません。ちょっと対応を手伝ってもらってもいいですか? あっちのノベルティの野菜チップスがなくなっちゃったので」 「あ、俺、取ってきます!」 「けど、重いですよっ」 「大丈夫ですよ!」 「じゃあ、それお願いします。で、そしたら休憩してもらって大丈夫ですよ。すみません。休憩時間、ずれ込んじゃってて」 「とんでもないですよっ」  駆け足で市民センターの関係者控え室へと向かう。途中、市民センターの庭にある大きな時計を見ると、そろそろお昼のニ時だった。  そっか。もうこんな時間だったのか。  あっちこっちを見回ってて時間、忘れてた。  広報の人たちは今日のイベントを後日広報誌に載せるため、あっちこっちの賑わいの様子を写真に収めたり、レポートしたりと忙しそうにしている。高梨さんもそんな広報の仕事をしながら、参加者の対応までしていて、お互いに忙しくて、今日まともに話もしていないくらいなんだ。  イベントの催し物に不備がないか。みんながちゃんと遊べているだろうか。トラブルは起きてないか。 「えっと」  市民センターの中もすごく賑やかだった。小さな子でも遊べるようにとキッズスペースには未就学児用の身体測定イベントが行われている。背を測ってみたり、ジャンプ力を測ってみたり。ただそれだけのことでも小さな子たちは楽しそうにしている。  すごいな。  みんな笑顔だ。 「って、俺はノベルティだってば」  うちの課のみんなも遊びに来てるって言ってたけど、会えてないな。どこにいるんだろう。  市役所勤めの全員がこのイベントで仕事をしているわけじゃない。役員だけで、他の職員は通常通りに今日は休みになっている。だから休みの中、遊びに来てるわけだけど。 「……ぁ」  メッセージ来てた。ズボンのポケットに入れておいたスマホにはいつの間にか正嗣からメッセージが届いていた。  忙しくて、ちっとも気が付かなかったな。  ――さっき、頑張ってる荘司見かけましたよ。市民センターの駐車場のとこ。俺も橋本さんたちと一緒に回ってるんで。時間があったら、合流しましょう。一緒に、バーチャルバトルの、やれたら、ぜひ。  うん。ぜひ。  本当に慌ただしくて、水も飲めていない中で、正嗣からのメッセージにふわりと表情が和らぐ。カラカラに乾いていた土に水が注がれたように、じんわりと胸の辺りが潤っていくような。 「あった! ノベルティの野菜チップス」  どこかにいるんだろうな。正嗣も。  どこかにいるんなら。  返事したいけれど、まずはこれを届けなくちゃだ。長蛇の列になって参加者が待ってるんだから。 「よいしょっ」  あとで会えるかな。  これ置いて、他のノベルティの在庫数も確認した方がいいかもしれない。確かに思っていた以上に参加者が多いみたいだ。予想よりも人が多いから、みんなも休憩を取らずに対応しているくらい。  あと、もう一回、ここ、市民センターに戻ってきてから。  楽しみにとっておいてるんだ。この前、視察でイベント会社の人がやっていいですよって言ってくれたけど、正嗣とやってみたかったからさ。  お昼休憩はまだ取れそうにないけれど。  これを運んで、それから、紙相撲の様子も見に行きたい。今、同じ市民センターにいるけれど、こっちのノベルティを追加しに行くの優先させないとだし。  あとで、もう一度、市民センターに戻って来て。 「いいよー。配信始めて」  その言葉に、心臓がドキンと跳ねた。 「っ、わっ、っ」  思わず、ノベルティの詰まった箱を落としてしまうくらいに。  たった、その「配信」の単語にこんなに飛び上がるのか。 「えーっとぉ、今、俺たちは……」  びっくり、した。  動画配信者だ。  スポデイに参加してる様子を撮ってるのか。声のする方を見てみると、配信者が二人いた。一人は今の様子を伝えていて、もう一人がスマホを片手に、その配信者の彼を追いかけている。 「あははははっ」 「あ、やべー、あっちこっちでいい匂いもしてまーす」  なんだ。  そうか――。  配信、とか――。 「……」  あ、れ……。 「……」 「っと、ととと」 「……?」  ぐらりと身体が揺れた気がした。大波の中を浮き輪に掴まりながら、ぐらんと揺られるような。 「……ぇ?」 「びっくりさせないでよ」 「正嗣?」  大きく揺れたんじゃなかった。  ノベルティの入った箱を落っことして拾おうと屈んだ瞬間、頭が地面に向かって沈んでしまうというか。 「既読付いたから、少しはスマホを見る時間ができたのかなって思ったら」  倒れそう、になってた。 「全く、貴方は」  そこをギリギリで正嗣に助けてもらったところだった。

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