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スポデイ頑張る編 10 深呼吸
ノベルティの野菜スナックが入った箱を配布場所に置いてきたら、ちょっと、また市民センターに戻ってみよう。せっかく橋本さんたちが色々考えてくれた催し物の様子を教えてあげなくちゃ。
たくさん人が来ているといいな。
いや、たくさんじゃなくても、小さな子からお年寄りまで、幅広い人が一緒に遊べてる様子がちょっとでも分かれば嬉しい。
それから、他のエリアで問題がないかどうか確認して。そのあと、かな。休憩できるのは。
って、あれ? 今って、俺、野菜チップス届け終わったんだっけ?
でも、なんだか、野菜――。
「チッっっっっ……」
「びっくりした」
「…………プス」
ここは。
「気が付きました? ちょっと貧血っぽくなったんですよ」
「……ぇ……ぁ、正嗣」
「ギリギリセーフ。俺が王子様みたいに抱っこしたんで、倒れずにすみました」
俺、貧血? に?
「あ! 野菜チップス!」
「それなら橋本さんと他のうちの課の人たちが配りに行ってます」
「ぇ……」
「貧血でちょっと血の気が引いちゃったんだと思いますよ。まだ十分も経ってないです。それより、昼飯食べました? 今朝も、適当で行ったでしょう?」
そう、だった。朝、正嗣がちゃんと食べた方がいいって用意してくれたけれど、スポデイ当日で少し緊張してたんだと思う。なんだか食事が喉を通らなくて。今日、夜に食べるからとほとんど残してしまったんだった。それからお昼はまだ取ってなくて。忙しくてお腹が空いてる暇もなかったんだ。
「水、飲んでください」
「ぁ」
そういえば、水も飲んでなかった。
「水、飲むの忘れてた?」
「!」
「図星」
そう言って笑って、正嗣がまだ冷たいペットボトルの蓋を開けてくれた。
「……ありがとう」
「……どういたしまして」
静か、だな。
ここは……。
「市民センターの使ってない小会議室です。荷物置き」
本当だ。今朝、イベント役員と搬入に追われた会議室だ。
ほら、あそこの段ボールの箱……って、もっと山積みになっていたけれど。あそこのダンボールにもノベルティが入っていた。ずいぶん減ったんだな。それだけたくさんの人に届けられたんだ。
「…………荘司」
「?」
ぼーっとしながら、その山積み、とまでは言えなくなった、ダンボールの山を眺めてたら、名前を呼ばれて、ハッと我に返った。
まるで、朝起きたところからずっとフルスピードで回転し続けていた頭がどこかに着地したみたいに、今、静かでゆっくりと物事を考えている感じ。
「頑張るのってすごい大事ですけど」
今朝、あの段ボールを搬入するために、頑張って何度も階段を往復したんだった。
「無理はしないで欲しいです」
「!」
「できないことはできないって声、出してください」
「……ぁ」
「いつも貴方はちゃんと頑張ってる」
そう。頑張らないと、なんだ。俺は不器用だから上手くできないことが多い。怖がりだから、ずっと俯いて、なんでもやり過ごしてきた。けれど、それではもったいないことがたくさんあるとわかったから。もっと怖がらずに。
「けど、頑張りすぎるのはダメです」
「……」
「大変な時は手伝ってもらう」
けれど、それでは。
「自分のできる範囲で、無理にならない範囲で、頑張ってください」
けれど、それでは。
「俺のことも、橋本さんたちのことも」
けれど。
「頼ってください。貴方は一人じゃないし」
それでは。
「貴方は一人しかいないんだから」
「……」
「…………全く。めちゃくちゃ心配してたんですよ。最近ずっと頑張って、今日のことで頭いっぱいだったでしょう? 朝ご飯ちゃんと食べてください。それでなくても細いんだから。あと、昨日から始まってますよ?」
何が?
「荘司が見たいって言ってたドラマ」
え、えぇ、そうだったのか。法廷もので面白そうだったんだ。まだまだ始まらないと勝手に思い込んでた。
そっか、もう始まってたのか。
「ちゃーんと録画してあるんで。明日、一緒に見ましょうよ」
「……」
「明日は、ゆっくりテレビでも見て、のんびりしましょう。朝飯もしっかり食べて。ほんと、倒れた時、心臓止まるかと思ったじゃないですか。顔真っ青だし。って、うん……もう手、あったかいですね。さっきはめちゃくちゃ冷たかったんです。はぁ、マジでよかった」
「……ぁ」
じっと、見つめられて、少し、ホッとすると同時に、今日一日、気を張っていたのが、ふわりと緩んでいく。
「……えっと」
緊張してたんだ。
「……ぁの、ありがとう」
「どういたしまして。水、じゃ味気ないですかね。コーヒーとか自販機で買ってきます? あ、けど、逆に目が冴えちゃうか」
「……ぁ」
平気だ。もうさっきみたいにクラクラしていないし。もう起き上がって、仕事に戻らないと。
そう、言いかけた。
「? 荘司?」
けれど、その「平気」を引っ込めた。
「あの」
大変な時は手伝ってって声に出す。
自分のできる範囲で頑張る。
「……お腹が空いた、かも……知れない」
手伝ってって声に出すのは、勇気、とはちょっと違うけれど、ちょっとドキドキ、してしまう。
けれど、正嗣になら、課のみんなになら、言えるから。
「オッケーです。さっき出店で地元のパン屋さんが出店してくれてたんで、買ってきます。メロンパンがすっごく美味しかったんです」
そう言って笑ってくれる正嗣に、ようやく今日、深く大きく息をすることができた。
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