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第100話

 怖がってばかりではいけないと思っているんだ。  もしかしたらそれはとても楽しいことかもしれない。嬉しい気持ちになることなのかもしれない。好き、だったりするかもしれない。それを知らないから、わからないからと怖がって止まってしまうのはもったいないことだと思うから。  だから、怖がるのも、苦手なものを避けるのもやめにしたんだ。 「ちょっ、無理無理! まだ、HP全然減ってないんですけどっ」 「が、頑張ろう! あぁ! 正嗣、そっち! そっちの、それを」 「そっちとかそれじゃわからないですってばっ」 「だだだだ、だって、忙しい」  ちょっと難しい。  見てると簡単そうだったんだけど。 「ちょわああああああ!」 「マジか! 荘司、今、これっ、やるんで」 「た、助けてええええええ!」  けっこう疲れるぞ。  バーチャルを侮るなかれ。 「今度は、マジでタイミング合わせますよ!」 「わ、わかったっ」 「三」  ゼーハーしてしまってる。 「ニ……いーち!」  でもすごく楽しい。 「おめでとうございます。お疲れ様でしたああああ。今日一、盛り上がってプレイしてくれたお二人でしたぁ」  うん。すっごく楽しい。 「ふぅ」 「はぁ」 「お二人、すごいです! モンスター討伐、最速で成し遂げちゃいましたよー!」 「え、そうなんですか?」 「最強チームです!」  確かにそれはすごいな。俺一人では到底無理だっただろうけれど。  二人ともどうにか倒せたラスボスがサラサラと砂になって消えていくのを見届けてから、ゴーグルを外した。手に貼り付けられていたセンサーも、スタッフに手伝ってもらいながら外し終わった。手に張り付いていたセンサーは剣を振り回す様子を察知するためのものなんだろう。全ての装置を外し終わると、ようやくお互いに深呼吸ができた。  大袈裟かもしれないけれど現実世界に戻ってこれたぞ、なんて思ってしまう。安堵の溜め息だ。 「お疲れ様でした。最上さん」 「高梨さん」  メガネを外して、急に現実の、モンスターなんているわけのない世界に、目が驚いてしまっているのか、パチパチと瞬きをしていると、カメラを構えている高梨さんが立っていた。 「もう大丈夫ですか?」 「ぁ、はい」 「すみません。あまり体調良くなかったのに、俺、無理をさせてしまいましたね」 「! いえっ、全然っ、あの、無理なんてしてないですっ」  ちらりと隣を見ると、さっきまで一緒にモンスター討伐を頑張っていた正嗣がじっと俺を見つめてる。少し心配そうに、けれど、優しい眼差しで。 「ぁ……と……けど、ちょっと休憩、取るの忘れちゃってて」 「! すみませんっ、気が付かずでっ」 「あ、いえ! 自分でちゃんと隙間見つけて取るべきでした。大人なので。こちらこそ、すみません。急遽、抜けてしまったから、大変だったりしましたよね」  結局、倒れてしまってから、しばらくは立ちくらみがしてしまうかもしれないから手伝えなかったんだ。そうこうしているうちに、もうスポデイも終盤になってきて、他の広報の人が、あと少しなので、ってここ、バーチャルバトルのところでプレイしておいでって言ってくれた。 「あと、ありがとうございます」  高梨さんが、言っておいてくれたんだ。俺が、これをやってみたいって言ってたって。 「楽しかったですか?」 「はい、すっごく」 「ならよかったです」  ニコッと笑ってくれた。 「それに、執行役員の仕事は全然。あの、橋本さんって方、すごいですね」 「!」 「紙相撲で優勝してました」 「え、えぇぇ?」 「他の子サポの方々も、それぞれすごく楽しそうに挑戦しつつ、手伝ってくれたんです」 「!」  おかげでとても助かったんですって、笑ってくれた。 「そう、だったんですか」  みんなが助け舟を出してくれたのか。 「いいチーム、なんですね」  不思議だ。  きっと以前の俺なら、想像できなかった。けれど、今は想像できるんだ。とても簡単に。  橋本さんたちが笑顔でこのスポデイを手伝ってくれている様子を。 「はい。そうなんです」  今の俺には、みんなの笑った顔が容易に想像できるんだ。 「あ、そうだ! 広報誌に載せたいので、さっきプレイ中の様子を写真に撮らせていただきました」 「……ぁ」 「で、もう一枚、今、記念撮影、させてもらってもいいですか?」 「ぁ、えっと……」 「すごく楽しそうだったので」  それは、きっととてもありがたい申し出、なのだろう。そう言ってもらえたのなら、こんなにスポデイは楽しいものなんだと、伝えられるのなら、それはすごく光栄なことだけれど。 「荘司」  うん。そうだ。  以前の俺なら、まず、今ここにいない。ちょっと前の俺なら、大丈夫、せっかくなんだから、がんばれ、と、この申し出を断らなかったと思う。  本当は、マスクをしていないのなら写りたくないけれど、それではダメだ、って。 「すみません」  丁寧に頭を下げた。 「あまり、顔を出したくなくて。とても嬉しいのですが、写真とかは遠慮させてください」  まだ、それは怖いから。 「あ、バトルのは全然、写真使っていただいて大丈夫です!」  そして、この怖いは頑張って、無理に克服する必要はない、「怖い」だから。 「今日は本当にありがとうございます」  それは「怖い」、と言えたら、なんだかホッと胸の辺りが軽くなって、身体も軽くなった気がした。

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