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恋に落ちて 第1話

 優輔(ゆうすけ)が帰宅した時、寛也(ひろや)は珍しくソファーで転寝をしていた。 寛也が休みの日、いつもなら優輔が帰ってくるなり飛びつくように出迎えてくれるのに今日は違うようだ。  それを残念に感じるが、寛也の寝顔に疲労の影を見つけ優輔は起こすのを躊躇ってしまった。  静かに寝室に入り、スーツから部屋着のスウェットに着替えると、ベッドから毛布を掴み寛也のいるリビングに戻った。 二人掛けのソファーに半身を横たえ寝ている恋人を起こさないように気を付けながら、毛布を掛けてやる。  ソファーの前に置かれているテーブルの上には、ワインのカタログとワインに纏わる薀蓄を載せた実用書や雑誌が数冊置いてある。休みの日でも寛也は仕事の事を常に考えている。  寛也の職業はホストだ。女性を振り向かせる甘いマスクに巧みな話術だけでは指名は取れない。店の中で常にトップ3以内に入る売り上げを維持しているのはルックスだけでなく、努力の賜物であった。  気前良く、気持ち良くお金を落として欲しい。お金を払わせるのだからそれに見合った働きを、いつも寛也が言っている事だ。  接客もそうだが、選んで貰う酒にも拘りたい。客に自分が指定した酒を飲んで貰う事も多い、ただ高いだけの酒を飲ませるのではなくて客の好みや気分に合わせて酒を出したい。  それには酒に詳しくなくてはならない。店側も寛也の意見を参考に酒の種類を豊富に取り揃え始めた。  どんな要求にも応えられるようにならなければ、居酒屋よりも高い金を出して呑みに来てくれるお客様の為に。  最近家に居る時はワインの勉強をしているようだ。かなり本気でソムリエの資格を狙っているようだった。  頑張っている姿は純粋に応援したくなる。たとえそれで寛也を好きになる女性が増えるのだとしても。  金髪に近い茶色の髪はいつもきれいにセットされているが、今日は洗いたてで無造作に流れるままだ。長めの前髪が頬に掛かっている、優輔はそっとその髪に触れた。  肌理の細かい白い肌はいつも女性から羨ましがられているそうだ。元々の肌も綺麗なのだが、メンズエステにも通っているしたまに寝る前にパックのようなものを貼り付けているのを見た事もある。  ホストなので容姿には人一倍気を遣う。特に顔にニキビなど出来たら大変なので、手入れを怠る事はない。  二人は同い年なので互いに27歳だが、歳相応に見える優輔に対し寛也の外見はまだ二十代前半に見られる事が多い。  可愛らしさは高校の時から変わってない、そういえばこんな風に可愛らしい寝顔を見て自分の恋心を自覚したのだっけ。  優輔は寛也の穏やかな寝顔を見ながら、懐かしい記憶を思い起こしていた。

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