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遅刻の言い訳 2

 あやすように優しかったキスも気付けばねっとりと濃厚なものに変わり、まるでこれからセックスでも始めようとするかのようなキスになる。 「ま、て……寛也……」  唇が離れた隙に抗議してみるが、寛也は聞いていないのかうっとりとした表情で優輔を見つめている。 「優輔不足なんだよ……もっとぉ……」  密着しているせいで知りたくも無かった寛也の情欲が優輔の体に伝わる。 繰り返されるキスにすっかり股間を昂ぶらせた寛也から腰を逃がそうとするが、がっちりとホールドされているので逃げ場がない。  巧みなキスに翻弄され、なけなしの理性をかき集めていた優輔だったが、そろそろそれも限界に近い。  固くなった前を擦り付けられるうちにすっかり優輔の股間も反応をしてしまっている。 「ひろ……」 「かわいい、優輔」  辛うじて立っているといった優輔とは逆に、寛也はその細腕で20キロ差のある優輔を支えている。  蕩けそうなキスに翻弄され、気付けば優輔は廊下に押し倒されていた。 「優輔……」  細長い指が先程締めたばかりのネクタイを解いていく。シャツのボタンを外され、首筋に寛也の唇が押し当てられる。 「ひろ……!ちょっと……待て……!」  出勤前にキスマークはまずい。キスマーク以前に押し倒される事事態に陥っている事を棚上げして、優輔は寛也の胸を押し返した。 「だめなの??」  とっても悲しそうな顔で寛也が覗き込む。まるでこの世界の悲しみを一身に背負ったような表情に優輔はたじろぐ。  恋人をこんなにも悲しませていいのか?いや、良い訳がない。  寛也を中心に回っている優輔の思考が偏った答えを出した。 「だ、だめじゃないんだが……」 「僕、夜まで待てない、優輔欠乏症で死んじゃうよぉ……」 「死ぬ?!それはダメだ!オレと寛也は一緒に仲良く100歳まで生きるんだからな!!」 「うん、だから抱かせて」 満面の笑みを浮かべ、優輔の頬に、鼻頭に、唇に啄むようなキスを落とす。 「いや、だから……」 「じゃあ、死んじゃうぅぅ……」 「ううう……それは困る」 「一回でいいよ、すっきりさっぱりしたいでしょ?優輔も」  クスクスと笑い優輔の股間を布越しに撫でる。その刺激で益々テントが高くなる。  こうなったら何を言っても恋人が意見を変えないのは、高校時代から数えて10年以上を共にする優輔には十分過ぎる程分かっていた。  寛也の言う通りすっきりさっぱりしたいのは優輔も同じだ。というかさっきからしきりに愛撫されている股間は取り返しの付かない状態になっている。  スラックスの上から擦っていた寛也だったが、優輔が抵抗しないと分かるやベルトを外し、前を寛げて直にペニスを扱き始めている。 「あー……寛也……ちょっと、待ってくれ……」 「さっきからそればっかりだなぁ、優輔は」  出来の悪い教え子を見るような困った表情の寛也だが、その表情とは逆に瞳は愛しい者を見るそれだ。  そんな目を見てしまうと優輔も絆され、流されてしまうのだ。寛也が計算でやっているのか、はたまた天然故なのか優輔には分からなかった。 「嫌な訳じゃないんだ……だから、その……」  もう一度ゆっくりと寛也の胸を押し返し、優輔は上体を床から起こした。  寛也も今度は無理に体を束縛するような事はせずに、優輔の体から離れる。  半身を起こし、寛也と向かい合い座る。寛也はちょっとだけ拗ねたような顔をしているが、それがまた愛らしくて優輔はでれっと鼻の下を伸ばしかけたがそれではいかんと機嫌を取るように寛也の頬に手を伸ばした。 「寛也」  二十代後半とは思えない肌のハリが指先に触れる。柔らかく弾力のある頬を両手で包むようにして、至近距離で覗き込む。  真っ直ぐに見つめれば、寛也は躊躇いがちに口を開いた。 「……優輔……」 「オレだって寛也が足りないよ」 「ホント?」 「あぁ……」  優輔からキスを仕掛ける。触れた唇から舌を入れれば、寛也がそれに応える。 口内で二人の舌が絡まる水音が耳に届く、朝からだとかこれから出社だとかそんな事が頭から抜け落ちそうになるキスだ。 「……優輔……」  唇が離れると、寛也は甘えるように優輔の胸に擦り寄った。さっきまで押し倒していた男とは思えない稚い仕草だ。  寛也の頬に額にキスを降らし、その細い体をぎゅっと抱きしめる。  抱きしめる度に愛しさが込み上げてくる。この腕にこの体を抱きしめる為なら会社などどうでもいい、とちょっとは思ってしまうのだ。  だが、やはりしがないサラリーマン。どうでもいいとちょっとは思っても、無断欠勤出来る程いい加減な神経は持ち合わせていない。  しかし優輔の勤務先は大学の先輩が興した会社で、出社時間に多少融通が利く。というか、出社時間、勤務日に融通を付けるのを条件にこの会社に入ったのだ、使っても文句はないだろう。 「じゃあ、ベッドいこ?」 「うん、でもその前に」 「なぁに?」  可愛らしく小首を傾げる。いい歳した男がやる仕草ではないが、寛也がやるとそれが滑稽に見えずまるで小動物のように愛くるしく見えるのだ。  だが、この小動物が実は狼である事を優輔は知っていた。  でも、この愛らしい狼に喰われるなら本望だ。 「遅刻の言い訳を一緒に考えてくれ」  寛也は目を丸くして、それから愉しそうに笑った。悪戯を仕掛ける前の子供のような無邪気な笑顔だった。 完

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