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第5話

手首の戒めを解く気はないようで、捲られたトレーナーもそのままにいつもより激し目の愛撫は続いた。 もはや愛撫なのか、噛み付かれているだけなのではと優輔は思っていたが、それでも相手が寛也だと思えば痛みも我慢出来るし、愛しくさえ思えた。 「うっ……っつ!」 引き千切る気かと思われる程の力で乳首に噛み付かれ、痛みで涙が滲む。 「……優輔」 声は甘いと言うのに、その目は憂いで曇っていた。手を伸ばし抱き締めたいのにそれすらも叶わない。 「ひろ……手を……」 「だめだよ」 「う……っ……」 乳輪に歯を立て、体のあちこちに噛み痕を残していく。痛い、痛い。でも、体の痛みよりも心が痛くて泣いた。 「そんなに泣かないでよ……」 綺麗に笑い自分を拒絶する寛也。泣きたくて泣いている訳じゃない。 寛也は白い手を優輔の濡れた頬に伸ばし、この日初めてキスをした。目元に落とされたそれは確かに愛情の欠片で、これが痛め付けるだけの行為ではないと言っているようだった。 「……ひろ……」 「……オレ以外としたの?」 「……え?」 それなのに、視線はどこまでも冷たく閉ざしたものだった。 質問したくせに答えなど求めてないのだろう、寛也は体を起こし優輔の腰を掴むと掃いていたズボンを下着ごと足首へと下ろし抜き取る。 剥き出しの下半身が冷気に晒され、勝手に体が震えた。 いつもなら寛也の愛撫で起立する優輔だが、今日はしゅんと縮こまったままだ。 「……ここまた剃る?」 「や、止めてくれ……!」 ここ、と言いながら下生えをさわさわと撫でたかと思うと、反応を示さない優輔をやんわりと握りこんだ。 「……ここ、オレ以外で使った?」 「つ、使う訳ないだろ」 「じゃあ、後……?」 ペニスから手を放し、優輔の体を捻り腰から下を反転させ、まだ慣らしてもいない後孔に指を這わした。 「!」 入られはしなかったが、孔の周りを指がなぞる。 「ひろ……まだ……」 「今日はしてないとしても……ここ、オレ以外としたの?」 「してない!本当だ!!」 「じゃあ、優輔が入れる方?」 「それもしてないって!本当だ!!」 「……本当に……?ねぇ……オレはどうやって信じたらいいの……?!」 覆い被さるように優輔の体に乗り上げ、見下ろしてくる寛也の目が訴えてくる。言葉と同じだけの想いで。 「……ひろ……」 オレだって信じて欲しい、だけど、訳は話せない。 言葉にして全部話さなければ通じない、そんなのは分かっている。 「オレを信じて欲しい……」 「……優輔……」 「裏切ったりしない、絶対に……訳は言えない、なんて言っても……」 「……信じてるし裏切ってるなんて思ってない、でも、それでも……優輔を信じているのに……でも……信じきれない自分がいるのも、それ以上に優輔が誰かに触られるのも嫌なんだ」 悲痛な叫びに胸が締め付けられる。 隠したいのは驚かせたいという自分の欲求の為だ。寛也はきっと喜んでくれる、驚かせる必要なんてない。 そんな事より今大事なのは……。 「……わかった」 「……話してくれるの?」 「……あぁ……電話……するから、その、これ取ってくれ」 折れる、というのも違うが寛也の痛心を汲み、優輔は全部話す事に決めた。 「……優輔のスマホ……リビングかな?」 「え?」 「取ってくる」 晴れやかな笑顔で寛也は寝室から出ていってしまった。 残された優輔は重い溜め息を天井に向かい吐き出だした。 「……これ……早く解いてくれないか……寛也……」 先程見た笑顔に優輔の心も晴れる。初めからこうしていればよかったのかもしれない、苦笑を浮かべ自分の腕のネクタイを見つめた。

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