12 / 15

第7話

散々乳首を弄られ、慣らされた体は熱の捌け口を求めていた。少し触ったきりで放置されていたそこは大きく立ち上がり、涙を溢していた。 「……ひろ……」 「優輔、かわいい……」  うっとりと呟き、寛也は漸く胸元から顔を上げた。 手を胸から腹筋へと反らし、濡れた茂みに指を這わす。 「……そうだ、やっぱりここ剃ろうか……」 「え?な、なんで……」 「だって心配だし……優輔にその気がなくても変なのが寄ってきたら困る」  困ると言いながら、情事の最中とは思えない程幼い表情でむくれ顔を作る。愛らしく思うが言っている事は真逆だ。剃られてはこちらが困る。 「ジムでサウナとかお風呂入るでしょ?銭湯だって行くじゃん、優輔……」 「……入るけど……お前が心配するような事はないって、銭湯はお前も行くだろ?」 近所には大きな露天風呂を併設したスーパー銭湯があり、たまに行くのだがその事を言っているのだろう。 「……オレも優輔の体は好きだよ、逞しいしとっても格好いいって思う……」 鍛えるといっても趣味の範疇だ。だが、それなりに筋肉の付いた優輔の体はジムへ通って作り上げたもの。 「初めてじゃないんだし、今剃っちゃう?」 「初めてじゃないからいいだろ、もう……それより……寛也が欲しい」 「優輔……」 嘘は言ってない。欲しいのは本当だ。 ジムの後はサウナに入るのがルーティンになっていた優輔。それは今も変わらないが、一年程前、ジムで知り合った男と飲みに行ったのだが寛也はそれが気に入らず、心配だからと無理やり優輔の陰毛を全て剃ってしまった。下の毛という毛全部だ。足までつるつるになり暫くジム通いを休んだのは、思い出したくない記憶だ。 心配する事はないのに。確かにそれらしい誘いを受けた事は学生の頃から幾度かあった。優輔の逞しい肉体と男らしい風貌は一種の男性からもてる。でも男に興味はない、というか寛也と付き合っているので、男女共にどんな誘いも断ってきた。 そんな事は寛也だって分かっていそうなものなのに。むしろ自分の方がもてるだろうと言いたい。 だが、心配というより独占欲が強いのか、嫉妬深いのか、兎に角優輔が自分の知らない男に裸を見せるのが嫌、というのもありなるべくサウナや風呂には入らないようにはしている。でも入りたいので入るが。 「寛也」  下から見つめれば、観念してくれたのか諦めたような苦笑を寛也は浮かべた。 「優輔……」  目を閉じれば直ぐに唇が塞がれた。最初は触れるだけのキス、だけどそれが深いものへと変わるのに時間は掛からなかった。今日帰って来てからの二人の齟齬の時間を埋めるように、舌を絡め求め合った。 「……ふ……ん……」  唇を離し、寛也は半身を起こしトレーナーを脱ぎ捨てた。白い陶器のような肌はいつ見てもすべやかで、その感触を楽しめないのがもどかしい。 「……ひろ……これ……」  これ、と言って縛られている手首を持ち上げようとすれば、簡単に抑え込まれてしまった。 「お仕置きプレイって言ったよね?」 「……本気か……?」 「うん……でも、お仕置きじゃなくて緊縛プレイ位の気持ちでいいと思う、いじめたい訳じゃないし」 「……」  縛られている時点でいじめなのではと思ったが、突っ込むのは止めた。  恋人が一度言った事を取り消すとは思えないし、それに。 「……分かった、好きにしてくれ」  諦めた訳ではなく、受け入れたいと思ったから言葉は自然と優輔の口から出ていた。 「……うん」  ありがとうもごめんねとも取れるキスをして、また寛也は美しく笑った。 *** 「ねぇ、ガトーショコラはどこで作るつもりなの?」 「ん?あぁ……うちで作るつもりでいたよ、当日は有休取ってるから」 「お休みなの?」 「あぁ」 ベッドで二人して寝転がる。優輔の胸板を枕代わりにしていた寛也は顔だけを上向かせ微笑んだ。 「次の日土曜日だっけ」 「え?あぁ、そうだな……」 何だかにこにこしているので優輔も釣られたように笑った。寛也の肩から頭に掛けて、優しく撫でれば更に笑みが増す。 情事の後はいつも寛也は優輔に甘えるように身を委ねる。これでは抱かれる側と抱く側が逆転している、なんて思うがこんな風に甘えた様子を見られるのは嬉しいし、可愛いと思ってしまうのだ。 「バレンタインの夜は楽しみだねぇ……」 「ん?」 さっきまで散々弄られた乳首に寛也の指が触れる。今日は痛い程噛まれたり吸われたりしたので、些細な刺激にも敏感に反応してしまう。 「ひろ……」 「バレンタイン、少し遅くなっちゃうかもだけどちゃんと待っててね……」 「あぁ、勿論」 こんなに楽しみにしてくれてるのだ、絶対失敗などしないよう作らねば。そう、心に誓う。 「夜はそのお礼にいっぱいいっぱい優輔の事気持ちよくしてあげるからね」 「え?」 次の日が土曜日で良かったよ、なんて言う寛也は無邪気に笑うが言っている事は無邪気さの欠片もない。 「ふふ、あぁそうだ、ホワイトデー何を優輔にあげようかなぁ……楽しみにしててね」 「……あ、あぁ……ありがとう……」 何を贈られるのか怖いが恋人との誤解も解けたし、何をされたって何を貰ったって自分が寛也を好きな以上拒めないのだ。それににっと、嬉しいと感じてしまう。 もう一度寛也の髪を優しく撫で、優輔は目を閉じた。 「おやすみ、寛也」 「おやすみ、優輔」 これで日常が戻ってくる。やはり隠し事はしたくないな、穏やかな気持ちで優輔は眠りについた。 完  

ともだちにシェアしよう!