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第2話

「わー、可愛い、優輔!!」  キラキラとした瞳を向けながら寛也はスマートフォンを手にすると、徐に写真を取り始めた。 「寛……!」 「記念写真だよ~、可愛い優輔のメモリーだよ~」 「……」 「ほらぁ~、ポーズ取ってよ、優輔」 「……」 「こうだよぉ」 「……」  極上の笑みを向けられても折れた心は簡単には回復しないのだ、寛也、お前ちゃんと見えているのか、このオレの姿が……。  筋肉隆々とまではいかないが、180センチオーバー、体重はだいたい80キロ前後。自分でもスーツよりもつなぎが似合うのではと思う、どちらかといえばガテン系な体格だ。  滑稽以外の何物でもないだろう己の姿を、嬉々として写真に収める恋人に引き攣った笑顔を向けてみるも、シャッター音は途切れない。  軽く握った拳を顔の高さに持っていき、小首を傾げ「にゃんにゃん」などと言っているのが寛也なら可愛いの一言で済むが、オレみたいな長身でどこからみても可愛げのない野郎がそれをやったら不気味でしかない。  なのに、寛也は笑みを崩さずに「可愛い」などと連発する。 ……恋は盲目とはよく言ったものだ……一体寛也には自分がどういう風に写っているのか、たまに恋人の頭の中を見てみたくなる。 「優輔、お手」 「……」 「お手」 「……寛也、猫はお手はしないぞ」 「お手だよ、だって優輔は賢いんだもん、お手位するでしょ?」 「……お手ね……」  ここまで来たら何をしても同じだ。諦めの境地で寛也の差し出した手の平に、グーのままの手を乗せる。 「いい子だね、優輔」  ご褒美、とでもいうのか寛也が頭を撫でてくる。優しい手付きが気持ちよくて、うっかりゴロゴロと猫のように喉を鳴らしそうになった、鳴る訳ないのに。 「お代わり」 「ん」 「ん、ってー……にゃん、でしょ?」 「……にゃん」  相当な羞恥プレイだ、寛也分かってるのかな?そう思いながら、ヤケになって反対の手を乗せる。だが、寛也の要求はエスカレートする一方だ。 「お座り」 「にゃん」 「伏せ」 「にゃん」 「お座り」 「にゃん」 「優にゃん、いい子だね~」 「優にゃん??!」  ご満悦の寛也だが、優輔の顔は引き攣りっぱなしだ。 「ねぇ、優にゃんは猫なのに服を着てたらおかしいよね?」 「……いや、オレは賢い猫だから服を着ているんだぞー」 「でも、ご主人様の前で服は着たらだめしょ?」 「……ご主人様?」 「そーだよぉ、僕が優輔のご主人様でしょー?」 「……にゃん……」  頷くしかないじゃないか、満面の笑みだが、瞳だけ笑ってないんだぞ、逆らえる訳ないだろ。  身の危険を感じた優輔は来ていた服を脱ぎ、躊躇いつつも下着も脱いで全裸で床に正座した。勿論猫耳はつけたままだ。 「優にゃん、ほら、ポーズ」 「……ひろ……」 「優にゃん、ご主人様の言う事聞けないの?」  寛也は先程までの笑みを消し、世界の終わりのような顔を作る。  今度は泣き落としか?!潤んだ瞳を向けられると、怯んでしまう。どんなに滑稽だと分かっていても、見ているのは恋人の寛也だけ。  その寛也が望むのだ、もう、どうとでもなれ、という開き直りで優輔はポーズを取った。 「にゃんにゃん」 「優にゃーん、かわいいー!」  お前の方が可愛いっちゅーの!と叫びたい。むらむらとしてしまったのが正直に出てしまったようで、優輔の股間は素直に反応してしまった。 「優にゃん、かわいい、でも、猫なのに優にゃんには足りないものがあるよね」 「え……?」  股間をどうしようかと気を取られている内に、優輔は押し倒されてしまった。  背中には毛足の長いラグの感触、くすぐったさを感じたが起き上がろうにも腹の上に陣取られてしまったので、簡単には起き上がれそうになかった。 「寛也?」 「優にゃんに足りないもの、なーんだ」 「なんだって……」 「考えて……」  低く甘い声で囁くと、寛也は妖しく笑った。ベッドの中で見せる雄の顔にぞくりとする。 「ひろ……」 「優にゃんは賢いんだから分かるよね……」  クスクスという笑い顔が近付いて焦点が合わなくなるほどぼやけると、唇に柔らかい寛也の唇が触れた。思えば寛也が帰って来てから初めてのキスだ。  堪能するように時間を掛けて舌を絡め合い、お互いの体を擦り合う。  まだスーツ姿の寛也のネクタイを外し、シャツのボタンを外そうとする優輔の手を制止するようにやんわりと寛也が握る。 「優にゃん、僕はいいから……」 「あ……」  冷たい指で乳首を弾かれ、思わずといった声が優輔から零れる。  慣らされた体はそれだけで欲望を増す。下半身に熱が集中するのが分かるが止められない。  寛也は起立した優輔には触れずに、固く尖った乳首を指の腹で潰すように捏ね、もう片方をきつく吸い上げた。 「……はぁ……ひろ……」  舌で転がされ、歯を立てられる度に腰が揺れる。だが、寛也は乳首だけを執拗に責める。  幾ら焦れても寛也が態度を変える事がない事を知っている優輔は、自らに手を伸ばそうとした。 「だめだよ、優にゃん、まだ足りないもの、分かってないでしょ?」  さっきみたいに寛也の手に止められてしまい、優輔の熱は燻ったままになってしまった。 「……寛……分からないよ、ごめん、思った程賢くなかったみたいだ……」 「もー……簡単に諦めちゃうの?」 「……寛也、分からないよ……」  触ってくれないのならば触らせてくれ、素直にいかせてくれ。喉から出そうになる言葉を飲み込み、優輔は分からないと繰り返す。  寛也は愉しそうに目を細め、仕方ないねと呟いた。仕方ない、なんて思ってなんていない顔だが、優輔はこれで解放されるのだと思っていた。  腹の上から寛也が退く、触ってくれるのだと思っていたのにいきなり両足を開かされた。 「寛也?!」 「石鹸の匂いがする……お風呂、入ったんだよね……?」  寛也の一言で優輔の顔が朱に染まる。寛也の言いたい事が分かったからだ。 「……入った……」 「うん……いい子だね、優にゃん……僕が欲しかった……?」  誘導尋問というよりも催眠術だ。寛也の言葉に逆らえない。羞恥で顔に熱が集まるのを感じながら優輔は震える声を振り絞る。 「……あぁ……寛也が……欲しい」 「……優にゃん、かわいい……」  うっとりと呟くと、寛也は持ち上げた足首にキスを落とした。

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