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8月17日(月)_01

8月17日(月) 目が覚めると、隣に星ちゃんが寝ている… やけにすっきりした頭で、手元のバイオリンケースを眺める。 縁に焼き印で押された、彼の名前を指でなぞる。 寝ている星ちゃんに話す。 「星ちゃん…おはよう…」 星ちゃんは俺の声に反応して、うっすら目を開く。 俺を見ると、目を細めて笑って髪を撫でてくれる。 「お腹が痛いのはどうなった?」 俺が尋ねると、笑って大丈夫と言った… 良かった…盲腸じゃなかったんだ… 「シャワー浴びてくる…ベタベタして気持ち悪い…」 俺はそう言って、ベッドから起き上がると、着替えを持って浴室へ向かった。 シャワーを浴びて、体を洗い、頭を洗い、顔を洗ってスッキリする。 そうして新しい下着を履いて、黒いジーンズを履いて、Tシャツを着る。 髪をドライヤーで乾かして、歯を磨く… 「北斗、ご飯食べて無いんだろ?お腹空いてない?」 寝室に戻ると、星ちゃんが寝ながら聞いて来る。 「後でみんなと一緒に食べる。今はこれを弾いて来たい…星ちゃんも来る?」 俺がそう聞くと、星ちゃんはまた眠ってしまった… 何だよ…聴きたいって言ってたくせに… まぁ、良いや。 可愛い星ちゃんの頬にキスすると、俺はバイオリンを持ってベランダに出た。 そのまま裸足で階段を降りて、湖の縁まで歩く。 バイオリンケースを開いて、彼女を見る… 昨日の出来事が嘘じゃないって…教えてくれた…!! 美しい輝きを持つ。俺だけのバイオリン… そっと手のひらで撫でる。 「あぁ…本当に…大好きだ!」 そう言って取り出して、抱きしめて、一緒に日の光を浴びる。 弓を取り出して、松脂の具合を見る。 「まぁ…大丈夫かな…」 バイオリンを首に挟んで、弓を美しく構える。 そのまま一旦、弦を響かせながら弓を引ききる。 松脂が粉になって俺の鼻をくすぐる… 「綺麗だよ。とっても良い。堪らないね。」 俺はそう言うと、弓を構え直して弦に下ろす。 そしてショパンのノクターン第一番をバイオリンで弾いた。 幻想的で好きなんだ… 朝なのに…まるで空が青暗くて、白い月が出てくる様な気がして、湖の上空に視線を上げながら、見えない月を眺めて、ノクターンを弾いた。 曲を弾き終えて、美しく弓を弦から離す。 「本当に大好きだ…こんな音色…他にない。」 そう呟いてバイオリンを撫でる。 次は何を弾こうかな… 俺は弓を構えて、ロシアのカチューシャを弾いた。 異国の風が吹く、悲しげな旋律のカチューシャを弾く。 歌う様に、ゆったりと、愛する人に思いを込めて、カチューシャを歌いながら弾く。 これは戦地に行った大切な人を想って、女性が歌った歌…ロシアの民謡だ。 メロディーを歌って、バイオリンで伴奏して、俺は朝からロシア語で歌う。 湖の向こうにいるであろう彼の事を思って、カチューシャを歌う。 「それは何語なの?」 意外と彼は、近くに居た… 「これは、ロシア語だ。」 そう言って振り返る。 「おはよう、まもちゃん」 「おはよう、北斗…」 微笑み合って、俺はバイオリンを掲げて見せる。 「見てくれ…美しいだろ?理久のバイオリンよりも美しく輝いて…綺麗だ。」 俺のバイオリンを一緒に眺めて、まもちゃんは微笑んで頷く。 「ねぇ、何か弾こうか?」 俺が尋ねると、まもちゃんは俺を見下ろして考え中の様子だ。 「北斗、昨日のあれ弾いてよ…雪の進軍」 俺は吹き出して笑った。 「そんなに気に入ったの?仕方ないな。歌も付けてやろう。」 俺はそう言うと、バイオリンを首に挟んで、弓を構えて、行進する。 そして、バイオリンで伴奏しながら、歌った。 ディス、イズ、マーチ!だ。 まもちゃんは、俺の後ろを行進しながらついて来る。 はたから見たら、相当やばい奴らだ… 曲が終わる時もマーチらしく、バシッと止まる。 そして、後ろで俺に前ならえするまもちゃんを、振り返ってみる。 「あははは、良い感じだった!」 そう言ってまもちゃんは、俺を見下ろして笑う。 気に入ったんだ…ウケる 「北斗は歌も上手だね。」 俺を見つめてそう言うから、恥ずかしくなってくる。 俺は視線を避ける様に彼の前から退いて、バイオリンをケースにしまうと、湖のすぐ側まで歩いて行った。 「北斗、いつも裸足だな…野生児だ。」 まもちゃんに言われて、俺は自分の足元を見て笑う。 「靴を履くのが面倒だった…」 ジーパンの裾をまくり上げて、湖に入って足を濡らす。 「ねぇ、まもちゃん。奥さんが…亡くなった時の話を聞かせてよ。」 俺はそう言って、大きな岩に腰かけて水を足で掻いた。 「…そうだな。原因不明だったんだ。何度も病院にかかったんだけど、結局原因が分からずじまいで…そのまま、亡くなった…」 「最期は…傍に居たの?」 湖の水が俺の足に纏わりつく様にしてジーパンの裾を濡らす。 「…居たよ。」 「どうだった?」 「なぜ、そんな事を聞くの?」 悲しそうにそう言って俺を見つめてくる。 俺はまもちゃんに手を伸ばして言う。 「ごめんなさい。知り合いの…大切な人が、もうすぐ死んでしまうんだ…」 彼は俺の手を掴んで、水際まで来ると俺を岩から立ち上がらせて、抱き寄せる。 「…自分が弱って行く姿を見せたら、残される彼が傷つくと思って…彼の面会を断るんだ…でも、それってとても怖いだろ…1人で死の恐怖を耐えるなんて…可哀そうだと思ってしまうんだ。でも、それは俺の考えで、その人の考えじゃない…」 俺の体を抱きしめて、強く抱きしめてくれるから…俺も彼の背中を抱いて、胸に顔を埋める… 「人っていうのは…難しいよね…」 俺はそう言ってまもちゃんを見上げる。 まもちゃんは俺を見下ろして、そっと唇にキスしてくれた。 「北斗はどうしたいの?」 「分からない…でも、俺だったら…1人で死にたくないよ…」 俺は目を瞑りながら彼の胸に顔を擦り付けて、うっとりしながら甘える。 「死ぬその時まで…その人が傷ついたとしても…一緒に居たいよ…」 そう言って彼の背中を抱きしめる。 「だって、その人が俺を愛していてくれたなら…きっと、許してくれるはずだから…」 俺の言葉にまもちゃんが泣きじゃくるから、彼の背中をさすってあげる。 「ごめんね…思い出させてしまった…知りたかったんだ…ごめんなさい…」 そう言う俺を抱きしめて、吐露する様に彼は言う。 「彼女が亡くなった時、俺は、何とも思わなかったんだ…!」 俺を苦しい位に抱きしめて、まもちゃんが言う。 「苦しむ姿を見ても…死んでいく姿を見ても…何とも思わなかった…」 俺は彼の体を抱いて、背中を撫でながら言った。 「おばあちゃんが死んだとき…親戚の人が言ってた。亡くなっても、看病も付き添いも、やりきった後は、スッキリするんだって…。まもちゃんも…そうだったのかもよ…」 彼は首を振って、俺の首に顔を埋める。 「それが…その事が、まもちゃんの傷になっていたの?」 彼は俺の目を見て大粒の涙を落として、小さく頷く。 「そうか…でも、もう良いよ。」 そう言って項垂れる彼の頭を抱いて慰めた。 「もう…良いんだよ。」 「北斗…大好きだよ…愛してる。一緒に居たいよ…」 そうだね…俺もまもちゃんと一緒に… 「それには…まもちゃんがバイオリンにならないといけないな…だって、俺がずっと一緒にいるのは、バイオリンだけだから…」 そう言って彼の涙を拭いて、笑いかけると、彼はボロボロ涙を落としながら笑って言った。 「頑張ってみる…」 何をだよ…! 俺が吹き出して笑うと、彼は俺の体を掴んで抱きかかえる。 そのまま別荘のベランダの階段まで連れて行こうとするから俺は怒った。 「わぁ!バイオリン!」 彼は笑うと、引き返して俺とバイオリンのケースを抱えて、ベランダの階段に降ろしてくれた。 「またね、北斗。」 「ん、またね。まもちゃん。」 そう言って別れる。 俺は彼が見えなくなるまで、階段の上から見送った。 胸が苦しい…愛してる。 可愛い人…欲しい。 そんな自分勝手な激情をひた隠しにして… 階段を上る… ベランダの椅子に腰かけて、朝日が照らし始める湖面を眺めて、彼の奥さんを思う。 とても素敵な人ですね… 女の子だったら…彼と結婚出来たのかな… 「北斗、おはよう。」 星ちゃんがベランダに居る俺に声を掛けて笑う。 寝ぐせが可愛く付いていて、ついつい追い掛け回しちゃう。 「ん、星ちゃん!おはよう。ねぇ、みて?バイオリン、綺麗になったよ?」 俺は星ちゃんにバイオリンを見せて、職人の面倒くささを教えてあげる。 まもちゃんの事は、話さなかった… だって、話しても面白くないと思ったから…。 「でもさ、それが職人の職人たる所以で、彼らにはその価値があるって事なんだよ?それは培われた技術であったり…」 あ~あ… 星ちゃんは伝統とか…文化とか…そういうのをリスペクトしすぎなんだよ… 彼の話が長くなりそうだったので、俺は右から左に聞き流しながら頷いた。 「だから、職人は多少気難しい方が良いんだよ。」 やっと終わった星ちゃんの話に、博も渉もげんなりしてる。 長い上に小難しい言葉がいっぱい出てくるから、俺の頭の中はパニックだ。 朝ご飯をとっとと済ませると、星ちゃんは俺の事なんて目に入らないみたいに夢中になって釣り竿を調整している… また行くんだ… 「この前、北斗が言ってた釣り場に行ってくる!」 「鱒釣って来るぞ~!」 「エイエイオ~!」 釣りバカ三人がそう言って盛り上がる。 俺は正直鱒はもう良かった… 味が淡白すぎて、飽きるんだもの… 「じゃあ行ってくるね。」 そう言って星ちゃんは、渉と博を連れて、ボートに乗り込む。 「気を付けてね?」 俺はそう言って、湖のぎりぎりまで行くと、彼らが見えなくなるまで、見送った。 俺も水が怖くなかったら、一緒に行けるのに… キラキラ光る湖面を見て、美しいと思うのに… 「北斗、今日は病院に行けるか?」 突然、後ろから声を掛けられる。 このぶっきらぼうな物言いに、すぐに誰だか分かった。 「うん、行こう!」 俺はそう言って振り返る。 直生と伊織が立っていて、俺を見下ろす。 「ちょっと待っていて。」 そう言って走って別荘に戻る。 小鳥の水笛を二つ持ってバイオリンのケースを持つ。 「歩~、ちょっとロココと遊びに行ってくる~!」 俺はそう言って、彼らの元に向かった。 「お待たせ~」 「なんだそのケースは…新しいバイオリンか?」 伊織が聞いて来る。 「よくぞ聞いてくれたな、これは俺のスペシャルだ。」 俺はそう言ってバイオリンのケースを愛おしそうに抱きしめる。 「聴かせてくれ…」 そう言う直生に言った。 「後でね。今はもっと大事な事をしよう。」 そう言って、俺は彼らの車に乗って瑠唯さんのいる病院へ向かった。 「北斗、この前、お前に言った“子猫ちゃん”と言うのは、どうも誤解があったようだ。」 車を運転しながら、唐突に直生が話し始める。 「誤解って?」 俺はバイオリンのケースを指でなぞりながら話を聞く。 「小猫ちゃんみたいに可愛いよって事だ…」 それの何が誤解なのか…分からなくて、首を傾げる。 「あの後、お前が悲しそうだったから…心配していた。」 そう伊織が言うから、俺は言った。 「普通14歳をまわしてセックスしない。お前たちは遊びでそうしてるのかもしれないけど、それは大人の遊び方だ。俺はそんな事をされて、傷ついている。」 そう言って教えてあげた。 「え…」 意外だったの? 凄く驚いた顔を二人でするから、逆に俺が驚いた… 「じゃあ、どうして瑠唯さんをまわさないの?そう言う事だろ?」 大切な人と、そうでない人… 特別な人と、そうでない人… そう言う事だろ? 大切に扱われなくて、嬉しく思う人なんて…いる訳無いのに。 「北斗…それは…」 「もう、良いんだ!自己完結してるもん…。ところで、今日はお前と瑠唯さんにお土産があるんだよ…?」 そう被せる様に言って、この話を止めた。 これ以上、不毛な話をするほど、俺は強くないから… もう話したくなかったんだ… 俺はつがいの鳥の水笛を手のひらに乗せて見せる。 「可愛いだろ?コロンとして…水を入れて優しく吹くんだ。そうすると、ヒョロヒョロって小鳥が鳴くんだよ?これを二人にあげる。」 俺がそう言って手のひらに乗せた小鳥を満遍なく二人に見せる。 直生も伊織も、微妙な顔をして小鳥じゃなく、俺を見る。 「な、なに?不満なの?小鳥が可愛くないの?」 意外な反応を受けて、少し戸惑う。 「北斗…お前の事を特別に思っている。」 直生がそう言って、俺に手を伸ばすから、俺は体を避けて手のひらの小鳥を落としてしまった。 「あっ!」 慌てて拾うけど、陶器製の小鳥を落とすなんて、危ない事をした… 割れなくて…良かった。 「せっかく買ったんだから、もっと喜んでよ…」 そう言って、すねて、窓の外を眺める。 すっかり静まる車内に居心地が悪くなる。 ホスピスについて、俺は直生に言う。 「この鳥ちゃんの下に、何か描いて?例えば~、猫とか~犬とか~?」 俺はそう言って、彼にペンを渡す。 「なぜ?」 「だって、その方が良いと思うから…」 俺は直生の顔を見て言う。 彼は俺の目を見ると、渋々水笛の裏に、音符を書いた。 「んふふ、良いじゃん…エモい。」 「エモい?」 「じゃあ行ってくるね~!」 俺は二人に手を振って、ホスピスへ向かう。 今日は具合…どうかな… 受付のお姉さんに、瑠唯さんに面会に来たことを伝えて、待つ。 「北斗、来てくれたの?」 後ろから名前を呼ばれて、笑顔で振り返る。 「うん。具合はどう?」 「今日は少し怠い…」 俺は彼を椅子に座らせた。 「それはバイオリン?」 俺のバイオリンのケースを見て、瑠唯さんの目が輝く。 「そうだよ。最近手に入れたお気に入りのスペシャルちゃんなんだ。片時も離れたくなくて、連れて来ちゃった…」 俺はそう言って、笑う。 「北斗、見たい…見せて?」 どうしようかな… 弾けない事が、悲しくならないかな… 「良いよ…」 俺はそう言って、バイオリンのケースを開けた。 「あぁ…!綺麗だね。」 瑠唯さんはそう言うと、俺のバイオリンに手を伸ばす。 「酷い所に居たんだ。だから譲ってもらったの…昨日直してきたばっかりだよ?」 俺はそう言って彼にバイオリンを持たせる。 「わぁ…可愛い…」 「そうでしょ?すごく可愛いんだ…」 「弾きたい…」 「…良いよ」 俺は弓を彼に渡した。 彼は俺のバイオリンを首に挟むと顔を歪めた。 「痛い?」 顔を覗いて聞くと、彼は頷く。 でも、俺は言った。 「弾いてみて…」 彼は頷いて、愛のあいさつを少し弾く…でも痛くて首からバイオリンが落ちてしまう。 「落としてしまいそうだ…ごめんね。北斗の大事なのに…」 そう言って俺にバイオリンを返すから俺は言った。 「首に挟まなければいい。」 そう言って、俺は自分の腹にバイオリンを抱えて、チェロの様に弾いてみた。 「ふふ。これでも楽しいよ?」 瑠唯さんは声を出して笑って、目を輝かせる。 「その手があったか!」 二人で笑って、チェロの様にバイオリンを弾く。 「弓をもっと短くすれば、もっと細かく弾けるかな?」 「北斗は面白い事を言うね…確かにストロークが短くなれば…なんてね…」 そう言う瑠唯さんは楽しそうで… やっぱりこのバイオリンは凄いなって…俺は思った。 「そうだ、今日はお土産があるんだよ?」 俺はそう言って、さっき直生に描かせた水笛を出して言った。 「小鳥ちゃんだよ?」 「あ、コロンとして可愛いね。」 瑠唯さんは手のひらに乗せて、小鳥の水笛を愛でている。 「それ、裏側見てごらんよ。」 俺がそう言うと、小鳥を摘まんで裏側を見て固まる。 「だ~れだ!」 俺はそう言って、彼の顔を覗く。 彼は少し目を潤ませて俺を見て笑う。 その笑顔が…込み上げてくる思いを抑える笑顔で、こちらまで目頭が熱くなってくる。 「もう一羽いるの。その子とつがいなの。直生にあげるから、瑠唯さんも何か描いて?」 俺はそう言って、彼にペンを渡す。 「え…」 動揺して固まる瑠唯さんに、小鳥を持たせて言う。 「模様でも良いし、名前でも良いし、マークでも良いよ。」 すると、彼は俺を見て笑うと、スラスラと何かを書いた。 「北斗、見てみて?」 瑠唯さんが裏返した小鳥にはチェロのイラストが描かれていた。 「うわ、上手だね。イラスト、上手だね!可愛い!」 本当に上手なイラストだった… 「この子を直生にあげるね。でも、この2羽はつがいなんだ。だから、あんまり離れると、寂しくて悲しくなるんだ…だから、たまに会わせてあげて欲しいの。」 俺はそう言って、瑠唯さんを見る。 「この2羽を会わせるために、直生がここに来ることを許して…?」 俺がそう言うと、瑠唯さんは大笑いする。 そして、俺を抱きしめてくれた。 「どうして?どうしてそんなにするの?」 瑠唯さんのその声が泣いてるみたいで… 俺は彼に抱かれたまま答えた。 「分からないんだ…好きな人と離れて、寂しい思いをする事のどこに…意味があるのか分からないんだ…俺がガキだからかもしれない。でも…たとえ、直生が傷ついたとしても、瑠唯さんの事を愛しているから、許してくれるって思うんだ…」 俺はそう言って、彼の不自然に腫れた首元に顔を埋める。 「全て、愛してくれると思うんだ…」 そう言って彼の体を抱きしめる。 俺の肩で瑠唯さんが泣いているのが分かる… 俺は彼の痩せた背中をゆっくり撫でた。 「今度短い弓を作ってもらうよ…凄腕のバイオリン職人を見つけたんだ。」 俺は彼の耳にそう言って髪を撫でた。 「楽しみにしてる…」 瑠唯さんがそう言うから、俺は頷いた。 「北斗、この小鳥…大事にするね。」 「うん。たまに吹いてみて?綺麗な鳴き声だったよ。」 俺は笑って瑠唯さんにそう言う。 バイオリンをしまって、また来るね。と挨拶を済ませて、俺が出口に向かおうと体を動かしたその時… 「直生に…直生の小鳥に…会わせても良いよ。」 彼がそう言った。 俺はバイオリンのケースを床に置いて、瑠唯さんの所に行って、彼を抱きしめた。 「ありがとう…俺の為に…ありがとう…」 そう言って泣いて、お礼を言った。 車に戻ると車内が険悪な雰囲気になっていて、ウケる。 「どうしたの?喧嘩でもしたの?」 助手席に座って二人に尋ねる。 「北斗が良いなと思ったのは俺なのに、直生がそうしたからいけないと言っていた。」 伊織がムスくれた顔でそう言って、前髪の隙間から直生を睨んでいる… 「俺も北斗が良いなと思ったからそうしたんだ。」 そう言って、涼しい顔で言いながらムスくれて顔を逸らしている… あぁ…俺が言ったことを引きずっているんだ… 「そんな事どうでも良いよ。お前たちが俺をまわした事に変わりは無いじゃないか…。共有してるセックスフレンドってやつだろ?大人はそういう事、するんだろ?その程度の相手だからそうしたんだろ?それ以上でもそれ以下でも無いじゃないか…」 その現実は変わらないのに、認めたがらないのは卑怯だと思った。 自分の事を聖人とでも思ってるのか? ただの変態ロココだという認識が無いらしい… だから俺はコテンパンに言ってやった。 「大体、いまさら何を言おうと性欲のはけ口にした事に変わりは無いじゃないか…それを言い訳で飾っても、やった事は変わりないんだよ。そう言うのを詭弁って言うんだ。もういっその事認めろ、俺達はロリコンのコスプレ趣味の変態ですって認めろ。」 そう言って笑う。 「俺は変態じゃない」 「変態だよ。」 直生が俺に怒った顔をする。 だから俺は言った。 「怒ってもお前は変態だ。だから、怒るな。」 「そうだ、俺も前から直生は変態だと思っていた…」 伊織が急に勢いを付けてくる。 「お前だってそうじゃないか…なぜ自分は違うと思うの?」 「え…」 俺は伊織の前髪を掻き分けて、目を見て教えてあげる。 「お前も変態だよ?」 「そうだ…俺も伊織は前から変態だと思っていた…」 きりが無いな。 「直生、小鳥ちゃんを預かってきた。」 俺はそう言って直生に瑠唯さんから預かった小鳥を渡す。 裏側に書かれたチェロに目頭を熱くしている。 「それが…好きな人に思う気持ちだよ…俺には思わないでしょ?別に責めない…。俺だって、他に好きな人がいるから。」 そう言って、直生に伝える。 「この小鳥と、瑠唯さんのもってる小鳥はつがいなんだ。だから、たまに会わせてあげて欲しいの。瑠唯さんにも同じことを伝えた。そうしたら、彼は良いよって言ってくれた。つまり、お前が来ることを許可してくれたんだ。だから、次からは自分で行け。」 俺はそう言うと、直生に向かって微笑んだ。 「分かったね?」 直生は俺を見てシトシトと涙を流した。 伊織はそんな直生を見て、もらい泣きする。 俺は変態ロココにお灸を据えれたのと、瑠唯さんが直生に会う事を受け入れてくれたことが嬉しかった… だって、彼は…俺の自己満足に付き合ってくれたんだ… こんな幼稚なガキの理想に…付き合ってくれたんだ。 「バイオリンを腹で弾くのもなかなかオツだったよ?」 走り出した車の中で俺がそう言うと、直生が言う。 「そんな風に弾けるのか…」 「どんな風だって弾ける。弦と弓があれば…。こだわりを捨てれば可能性は無限だ。」 俺がそう言うと、伊織が言う。 「北斗…好きだよ。」 俺はそう言った伊織を見て、鼻で笑った。 「ねぇ、今度…チェロを聴かせてよ…」 そう言って、彼らを見ると二人同時に言った。 「北斗の頼み事なら、何でも聞くよ…」 そうか…それは心強いな。 久しぶりに彼らの演奏が聴きたいよ… 素晴らしいんだ… 直生はどうしてか、まもちゃんの店の前で俺を降ろしたがる… 「ここじゃない!あっちだって、この前も言ったのに!」 俺がそう言ってアホの直生に話していると、お店から彼が出てきてしまった… 腕を組んで、車内の様子を見ている様子だ。 その表情は…どちらかというと、怒っているような雰囲気にもとれる。 「もう、良いや…ここで降りる。良い?行く時は小鳥も連れて行くんだからな。」 俺はアホの直生にそう言い聞かせて、伊織にキスすると車から降りた。 「またね~!」 手を振って見送る俺の後ろにまもちゃんがいる。 そこはかとなく不穏な雰囲気を感じているんだ。 「北斗、どこ行ってたの?」 来たよ… 「ホスピス~。」 俺は悪い事なんてしていない。 彼の方を向いて、笑って全部、教えてあげるよ。 「ん、なんで?」 まもちゃんは普通を装って、俺に食い下がってそう聞いて来る… 隠す必要もないよ。 「ん~、あの人の大切な人がそこに居るから。」 俺はそう言って、バイオリンのケースを持ち上げて言う。 「ホスピスに居る人はバイオリニストだったんだ…今日このバイオリンを弾かせてあげたの…この子は凄いよ?その人の表情が朗らかになったんだ…やっぱりまもちゃんのバイオリンは素敵だね。」 俺はそう言って笑いかけるけど、まもちゃんは真顔のまま聞いて来る。 「あのうちの、どちらとしたの?」 「両方だよ。3人でした。」 俺は直球で返した。 固まるまもちゃんを他所に、俺は両手を上げて伸びをする。 「…今も?」 俺に、今もセックスをしてきたのかと、まもちゃんが聞いて来る。 どうしてそうなるのかな… 「今は、ホスピスに行って来た…さっきそう言った。それに、もうするつもりはない。一時の気の迷いだった…彼らもそれは分かってる。」 俺はそう言って、少し不機嫌になる… 自分はさっちゃんとしてるくせに、なぜ俺にばかり貞操を求めるの? 「北斗、ちょっとおいで…」 俺の手を掴んで、まもちゃんが引っ張る。 「何で?痛いから離してよ!」 俺は怒って彼の手を払う。 バイオリンケースと言う武器を持ってるんだぞ! 怒らせるんじゃないよ! お店が開いたままなのに、まもちゃんは俺を担ぐと、二階の自分の部屋に連れて行く。 「なんで?なんで?」 俺はそう言ってまもちゃんの上で暴れる。 彼は何も言わないで、俺を運ぶ。 鍵を開けて、俺を部屋の中に丁寧に下ろす。 俺はブスッとして彼を見上げる。 「なんで連れて来たの?俺はこれから別荘に戻って、バイオリンのメンテナンスをして、寝るんだから。忙しいんだよ?」 まもちゃんは俺がそう言ってるのにもかかわらず、靴を脱いで部屋に上がると、俺を抱えてベッドに押し倒した。 「ん!まもちゃん!やめてよ!」 暴れて体を捩るけど、まもちゃんに抵抗なんて出来る訳も無くて、彼は俺のシャツをまくると、体に舌を這わせてきた。 「まもちゃん…待って、何で今なの…」 俺の乳首を舐めて体を激しく求める様に、腰を俺に擦り付けてくる。 彼の髪に触れて、彼の息遣いを感じて、体と頭が興奮してくる。 俺はベッドに仰向けに寝転がったまま、彼に好きにされる。 抵抗するつもりは…端からない… 「まもちゃん、まもちゃん…はぁはぁ…」 彼の柔らかい髪を撫でて、彼の顔を覗く、そのままキスして舌を絡める。 まもちゃんは俺の股間をズボンの上から撫でて、既に興奮している俺のモノを緩く扱く。 「あっ!んん…まもちゃん…はぁはぁ…あぁ…まもちゃん…まもちゃん…」 彼の背中に手を伸ばして、抱きしめる。 もう離れてしまいたくない…このまま絡まって死んでしまいたい… 彼は、俺のズボンを脱がして、パンツを脱がす。 俺は、体を起き上がらせて、Tシャツを脱ぐ彼の唇に熱くキスする。 首に腕を絡めて、彼の頭を抱えて咥える様にキスする。 「北斗…北斗…可愛い…ずっと抱きたかった…」 俺だって、ずっとまもちゃんに触れたかった… 彼の大きくなったモノをズボンの上からいやらしく撫でて、ご褒美に彼にキスしてもらう。俺、これが大好きなんだ…まもちゃんの… 早く挿れて欲しい…! 彼の胸板に舌を這わせて、彼の肌を感じる様に、いやらしく吸って舐める。 そのまま彼の首に顔を埋めて首から耳まで舌を這わせて舐める。 「まもちゃん…大好き…まもちゃ…」 彼が俺をベッドに押し倒して、俺の股の間に顔を埋める。 快感が一気に襲って来て腰が震える。 足を腕で掴まれて、快感から逃げられない…! 「あっああん!まもちゃん…んん…きもちいい、はぁはぁ…きもちいいよぉ…」 俺の脇腹を指で愛撫しながら、まもちゃんが俺のモノを咥えて口で扱く。 頭を振って、快感に耐えるけど…感覚だけじゃなく、大好きなまもちゃんに抱かれている状況に興奮して…すぐにでもイッてしまいそうになる… 「まもちゃん…だめ、だめぇ…イッちゃいそうだぁ…ああん…はぁはぁ…だ、だめぇ…」 背中が仰け反って、腰がビクビクと震える。 俺の乳首をまもちゃんがいやらしくこねて、つねると悲鳴を上げて俺はイッてしまった… 「はぁはぁ…ぁあ…ん、まもちゃぁん…イッちゃったよぉ…」 俺は目がとろんとトロけて…口がだらしなく開く。 そのまま口から喘ぎ声が止まらなくて…気持ちよくなる…! 「まもちゃぁん…はぁはぁ…中に挿れて…俺の中に挿れて…」 彼の顔に自分の顔を摺り寄せて、彼におねだりする。 額から汗を垂らして、目をぎらつかせたまもちゃんは酷くいやらしく見えて、その顔を見ているだけで、堪らなくなるんだ… 「まもちゃん…大好きだよ…大好き、大好き…」 そう言って彼にキスする。 堪らないんだ…かっこよくて…堪らなく好きなんだ… 俺の体も頭もおかしくする、毒みたいな人… 彼は俺の穴に指を入れて中を刺激してくる。 俺の腰が跳ねて足がブルブルと震える。 「はぁはぁ…んん…はぁ…まもちゃ、だめぇ…ん…気持ちい…気持ちいよ…」 彼の体にしがみ付いて、彼の素肌に触れて、彼を独占して、彼を愛してる。 堪らなくて、このまま死んでしまいたくなる。 俺の中に入る指が増えて、快感が増していく。 ベッドでうつ伏せになって、腰を少しだけ浮かせて、彼の指に中を丁寧に広げられていく…俺の背中を舐める彼の舌が、いやらしく何度も同じところを舐める。 俺の首から背中に舌を這わせて、腰を震わせて喘ぐ俺の声を楽しむみたいに、何度も感じる所を舐める。 「まもちゃぁん…もっと…もっと愛してよ…俺だけ俺だけ…愛してよ…」 そう言って彼のベッドのシーツを掴む。 彼の枕に顔を埋めて、彼の匂いに興奮して、彼に抱かれる。 堪らないだろ…すごく興奮するんだ。 「北斗…たまんない…挿れても良い…?」 良いに決まってる! 「まもちゃん、早く、早く…して…」 俺はそう言って彼を求める。 俺を仰向けにすると、彼は俺の足を広げて体を中に入れる。 俺の顔を見ながら、ゆっくりと、中にモノを挿入させる。 ズブズブと音が鳴りそうなくらい強く抵抗を感じて、俺は怖くなる。 まもちゃんは俺の顔を見ながら、俺の腰から胸にかけて手を這わして、いやらしく撫でる。それが気持ちよくて、体が跳ねる。 俺の顔を覗き込むように体を屈めると、一気に奥まで挿れてくる。 「んんっ!!はぁはぁ…あっ…はぁはぁ…ん、まもちゃん…くるし、い…」 彼のモノが奥まで来ると、俺のお腹に圧迫感を感じて、苦しくて、彼の肩を掴んで、堪える。 「北斗…ん、きもちいよ…」 俺の表情をじっと見つめてトロけた瞳でそう言って、ギラギラした眼光の彼がたまに吐く吐息に、酷く興奮する。 堪らない…堪らない…! 「まもちゃん、まもちゃん…気持ちいい…あぁああん、はぁはぁ…中、きもちいよ…」 段々と中が気持ちよく感じるようになってきて、彼が腰を動かす度に女みたいに喘ぐ。 頭が真っ白になって、両手で顔を抑えて喘ぐ。 気持ち良くて腰から背中までビクビク体が反って震えて止まらない… 「北斗…可愛い…俺の北斗…誰にも触らせるなよ…俺のだろ…お前は俺のなんだから…誰にも触らせるなよ…」 そんな事言わないでよ…すごく興奮するんだ…俺がまもちゃんの物ならそんなに幸せなことは無い… 「まもちゃん、好き、好き…大好き…まもちゃんが大好き…!!」 俺の腰が震えて、勃起したモノは何回イッているのか…ぐちゃぐちゃによだれを垂らして震えている。 堪らないよ… 「北斗…北斗…もうしないって言って…俺以外としないって言ってよ…耐えられないよ…こんなに可愛いお前が…ほかの男とするなんて…考えただけで、嫉妬でおかしくなりそうだ…頼むから…もうしないで…お願いだよ…北斗。」 俺の体に項垂れる様に体を付けて、泣きながらまもちゃんが腰を振る。 それに酷く背徳感を感じて、興奮して、俺は彼の体を強く抱きしめた。 そして、彼の腰に合わせて自分の腰を動かして、彼のモノを強く求める。 「まもちゃん…まもちゃん…大好きだよ…まもちゃん…もうしないよ…もうしないから…俺だけ愛してよ…俺だけのまもちゃんになってよ…ねぇ、お願いだよ…耐えられないんだ…あなたがほかの誰かとするなんて…考えただけで、死んでしまいたくなる…わかるでしょ…」 俺はそう言って、彼の唇にキスする。 彼は俺のキスに応えて、激しく舌を絡ませて、熱心に愛してくれる。 このまま二つが一つになればいいのに… このまま消えてしまえば良いのに… そう思った瞬間、まもちゃんの腰が震えて、俺の顔を見る。 目が合って、彼のだらしのないイキ顔を見て、興奮した俺がイク… そのまま二人抱き合ってベッドに沈んでいく。 「まもちゃ…すご…い激しい…」 俺は彼の体を抱きしめて、足でホールドしてしがみ付く。 腕のたくましい彼が俺を覗き込んで、また腰をゆるゆると動かし始めるから、俺は堪らなくなって彼にキスする。 「もっとする?もっとするの?まもちゃん…」 俺がそう聞くと、彼は息を荒くして、俺の首に顔を落として耳を舐める。 そのままガンガン激しく腰を動かして、俺の中を突き上げてくる。 中がすごく気持ちよくて、首が仰け反る。 「んん~~っ!まもちゃあ…ああん!あっあっ!あぁん!まもちゃん!きもちい…!」 俺の頭を抑えて逃げて行かない様にして、彼が下から突き上げてくる。 堪らなく気持ちよくて、俺はトロけた瞳で彼を見つめる。 俺を見下ろす彼の目がいやらしくて、興奮する… 「北斗…気持ちいいの?俺の気持ちいいの?ねぇ…可愛い北斗…」 俺の目を見つめながら、そうやっていやらしい言葉を掛けてくる…そんなまもちゃんがエッチで好きなんだ… 「ん、きもちい…まもちゃんの、大好き…気持ちいの…はぁはぁ…」 腰に溜まる快感が全身に広がって、足の先まで震えていく。 彼のモノが俺の中でどんどん大きくなって、硬くなる…俺の中に吐き出された彼の精液がグチュグチュといやらしい音を立てて、俺の鼓膜に届いて、興奮させる。 「まもちゃ…ん、イッちゃう…イッちゃうよ…はぁはぁ…ダメ…だめ…イッちゃう!」 俺は彼の体に抱きついて、腰を震わせてイッてしまう。 彼の髪の匂いに興奮して、頬ずりして、ヨダレを垂らす。 俺のだらしない顔にまもちゃんが興奮して、俺の中をもっと気持ち良くする。 「ん~…まもちゃん…だめ、だめだよ…気持ちいいのが止まらないの…イッちゃう…こんなんすぐ…イッちゃうから…」 俺は首を振りながら彼の与える快感に耐える。 「北斗…イッてよ…俺ので感じてイッて…お前のイキ顔…堪らなくエロい…大好きだから…もっと見たいんだよ…ね?可愛い北斗…まもちゃんのお願い聞いてよ…」 堪らない…! 何でこんなにエロいの… 俺の頭の中が彼の低くて良く響く…素敵な声で溢れていく。 「まもちゃん…!まもちゃ…!だめ…だめだよ…イッちゃう…イッちゃうよ!!」 俺はそう言って彼にしがみ付いて、彼の胸の中でまたイッてしまった。 俺にキスしながら、まもちゃんは腰をねっとりと動かす。 舌の絡まる気持ち良さと、彼がすぐ傍に居る喜びと、彼に愛されている興奮が混ざって頭が真っ白になる。 俺の目を見て、彼の顔が歪む、腰の動きが強く、早くなって、彼の息が荒くなる。 その顔…すごくエッチだ… うっとりして、彼を見上げて、嬉しくて笑ってしまう。 彼は俺を見て、腰を震わせると、俺の中で激しくイッた… そのまま、また突っ伏して、俺は彼にしがみ付いて抱きしめた。 重たい体に押しつぶされても、彼の素肌に触れて興奮する… 「まもちゃん…気持ちいいね…大好きだよ…まもちゃんが大好き…」 俺はそう言って彼にキスした。 ふと、下から誰かの声が聞こえる… 「すいませ~ん。まもちゃんさ~ん、いますか~?」 俺はこの声が誰だかすぐにわかった… 「まもちゃん…下に、星ちゃんが来てる…」 俺はそう言うと、まもちゃんの頬を包んで、舌を入れてキスする。 まもちゃんは俺の中からモノを出すと、俺に言う。 「用が済んだらすぐ戻るから…ここに居て…帰らないで…!」 俺の中にはまもちゃんの精液がたっぷり入ってるんだ… 綺麗にしてもらうまでは…動きたくても動けないよ… 「分かった…」 俺はそう言って、慌てて服を着て、ドアから出て行く彼を見送った。 外から聞こえる星ちゃんの声… 「鱒を沢山取ったのでおすそ分けします。どれが良いですか?」 マジか…そんなに、大量にとったらネッシーに祟られるぞ… それに…俺は、鱒は一回で飽きた… 「じゃあ…これを頂こうかな…」 義理堅いね…鱒なんておいしくないのにさ… 俺はそう思いながら体を起こした。 ベッドに置かれたティッシュをお尻にあてて、立ち上がって、ふらふら歩く。 大きなスピーカーに繋がったプレイヤーの電源を入れる。 スピーカーから音が聴こえて、生きていることを確認した。 「何が入ってるのかな…」 プレイヤーに入った音楽をそのまま再生する。 バイオリンの美しい音色が部屋に広がる。 CDジャケットを見て、好きな曲までスキップして、スピーカーの前に座る。 裸のまま、お尻にティッシュをあてて、スピーカーの前で惚ける。 「凄い…凄い良い音だ…」 口からよだれが出そうなくらい…鼓膜を震わせる美しい音色にうっとりする。 カンカンと階段を上がる音がして、まもちゃんが戻ってくる。 「星ちゃんが…鱒を大量に釣ってきた。」 俺にそう言うから、俺は言った。 「フィッシュアンドチップスなら良いんだ…。ただの焼き魚にしたら急に淡白すぎて、飽きたんだ…どうやって食べればいいの…飽きちゃうよ…鱒なんて…飽きちゃう…!」 まもちゃんは俺のすぐ傍に来て、服を脱ぎ始める。 そのまま俺の体を抱えて、浴室に行く。 中に入って、ティッシュを取ると、俺の中からドロドロとまもちゃんの精液が垂れてくる… 「うわぁ…あぁあ…ドロドロのが…出てくるのが分かる~」 俺がトロけた瞳でまもちゃんに言うと、彼は笑いながら俺を見下ろして言う。 「可愛い北斗、今から綺麗にしてあげるね…」 うん…綺麗にして…まもちゃんに綺麗にしてほしいよ… 「まもちゃん…大好き…大好きだよ…」 俺は彼に抱きつきながら、シャワーを浴びたままお尻を綺麗に洗ってもらう。 「まもちゃん…?綺麗にしてるの?気持ちよくしてるの?どっちなの?」 彼にキスしながら尋ねる。 だって、すごく気持ち良くなってくるんだ… 「ふふ…どっちかな…隙あらば気持ち良くしていこうと思ってるかもしれない…」 何だよ…それ。 「んふふ、なんだそれ…変なの…」 そう言って彼の胸に頬を付けて、力を抜いて、彼に甘える。 彼と居れることが…うれしくて仕方がない… シャワーを浴びて、タオルで体を拭いて、洋服を着なおす。 付けたままで音を流すスピーカーの前に行って、しゃがんで音を浴びる。 「良い音するね…好きだよ…」 シャツを着る彼を見て、スピーカーをほめる。 「スピーカーが好きなの?俺が好きなの?」 そんな事を聞いて来るから…俺はデレて言う。 「んふ~、どっちかと言うと、まもちゃんの方が、生き物だから好き。」 そう言ってふにゃけて笑うと両手を伸ばして、彼に抱きしめてもらう。 「あ~、北斗…可愛いね…星ちゃんにもこんな感じに甘えるの?」 「星ちゃんは俺の聖域だよ。」 俺はそう言って彼の胸の中で笑う。 「妬いちゃうよ…北斗…」 そう言って俺を抱きしめるまもちゃんが、可愛い… あぁ…幸せだ… まもちゃんが傍に居る… 俺の大好きな人…まもちゃんが傍に居る。 俺を見て笑って、俺を愛してくれる…甘くて…トロける。 堪らなく大好きなんだ。 「ちゃんとお仕事してね~。」 俺はまもちゃんにそう言って、手を振ってバイオリンケースを片手に家路につく。 まもちゃん…かっこよかったな…やっぱり素敵なんだ…大好きだ… 1人思い出し笑いしながら、ふらふらと歩いて帰る。 まるで千鳥足の酔っ払いみたいだ… 俺が別荘に着くと、星ちゃんが表でクーラーボックスを洗っている。 「大漁?」 傍に行って星ちゃんに聞くと、にっこり笑って親指を立てる。 「何が釣れたの?」 星ちゃんの隣にバイオリンを抱えて座って、顔を覗いて聞いて見る。 「北斗が言ってたエリアで、鱒が6匹も連れたんだよ~!みんな絞めたから…しばらくは食料に困らないよ?」 マジかよ~。そんなに釣ったんだ~。 項垂れる気持ちを隠して…俺は喜んで星ちゃんに言った。 「凄いね~!重くて持って帰ってくるの、大変だったでしょ。」 俺は星ちゃんにそう言うと、クーラーボックスを洗う彼の背中に乗っかる。 彼は全然お構いなしに、一生懸命クーラーボックスを洗っている… 彼がゴシゴシ洗うと、俺も一緒に揺れる… 「ギッコンバッタン…ギッコンバッタン…」 そんな効果音を付けて、彼の作業を補助する。 「北斗~!」 後ろから声を掛けられて、星ちゃんと一緒に振り返る。 「あ~、理久~」 車で乗り付けて、歩いて来る理久を見つける。 茶色いチェックのシャツを腕まくりして、茶色のズボンを履いてる。茶色尽くしの理久。 口元を緩めて、俺に手を振る理久。 直生と伊織の話だと…昔、一緒の楽団に居たんだよな。 自分から言わないって事は、聞かれたくない事なんだろうか… お前の動向が意味不明過ぎて…理解が出来ないよ。 俺がぼんやり理久を見ていると、彼は俺の持ってるバイオリンケースを見て言った。 「おや、バイオリンケース買ったの?随分素敵じゃないか。」 俺はバイオリンケースを抱えると、理久から離れて言う。 「これは俺の大事なバイオリンだから、返さないよ?」 そう言って俺は、クーラーボックスを洗う星ちゃんの後ろに隠れた。 「…それは、もうお前が貰ったものだろう?本当、あんな無茶して…直生さん達の悪い影響を受けてるよ。」 そう言うと、理久は近くの椅子に腰かけて言う。 「なぁ、北斗、一曲弾いてくれ…」 仕方ないな… 俺はバイオリンケースから、美しい俺のスペシャルなバイオリンを取り出すと、弓を持って姿勢を正した。 「何が聴きたい?」 そう理久に尋ねる。 彼は既に決まっていたように、迷うことなく即答した。 「パラディスのシチリアーノ」 へぇ… 俺はバイオリンを首に挟んで、弓を美しく構えると、シチリアーノを弾く。 繊細で美しいメロディ…で、上品な気品を感じさせるこの曲。 意外だった… 理久がいつも聴きたがる曲と少し違うから、違和感を感じつつも、上品に弾きあげる。 弓の調子がすこぶる良くて嬉しい… 松脂の粉も、朝に比べるとだいぶ落ち着いてきた。 こんなに美しく変わったこのバイオリンを見て、理久は何か思うかな… 俺を見つめて複雑な表情の理久。 それは怒っている様な…困っている様な…慈しむようないろんな風に読み取れる、不思議な表情。 昔そうした様に、彼の顔をぼんやりと見つめながら曲の流れに集中した。 俺の目を見つめて、まるで、一緒に旋律をたどるようなその表情が…好きだった。 柔らかく…繊細に眉毛を上げ下げして、俺に雰囲気を伝えて来るんだ… たまに、極まりすぎておかしな顔になるけれど、彼の両手が滑らかに動いて、俺に教えてくれるんだ。 ここは、こう弾くと良いよって… だから俺はそれを頼りに、曲を弾いていく。 彼の好みに…彼の求める旋律を奏でて、シチリアーノを弾いた。 それは美しくて…荘厳な旋律に仕上がった。 …弓を弦から離して戻した。 「そのバイオリン…本当にあの時の、バイオリン?」 理久が俺のバイオリンを覗き込むようにして見る。 「そうだよ…すごいだろ?こんなに美しい音色…俺は聞いた事がない…。」 そう言って俺はバイオリンを抱きしめて指先で撫でる。 彼のバイオリン… うっとりする… 愛しい人の作ったバイオリン… 「こんなに…早く弾けるようになると思わなかった。どこの工房に預けたの?」 意味深に聞いて来るから、俺はその話題を避けた。 彼に、まもちゃんの家の事を知られたくなかったんだ… 理由は分からない。 ただ、まもちゃんの事、全てを、理久に知られたくなかった。 「理久、次は何を弾こうか?」 俺がそう尋ねると、彼はまた迷う事無く言った。 「じゃあ、結婚行進曲。」 ふぅん… 「理久も…とうとう、結婚するの?」 俺が笑いながらふざけて聞くと、彼は微笑みながら言った。 「今度の日曜日に、幸恵さんが教会を貸し切ってお披露目ガーデンパーティーをするんだ。その時の奏者に北斗が指名された。報酬は凄いぞ。どうだい?やるかい?」 へ? バイオリンを持つ手にグッと力がこもる。 クーラーボックスを洗っていた星ちゃんが、立ち上がって俺を心配そうに見つめる。 「え…俺を?指名したの…?なんで?」 そう聞いて…自分の声が裏返って震えている事に気付く。 動揺してるの…? 理久は俺の顔を見て、眉間にしわを寄せる… 探られている様な…そんな不快感を覚えて、俺は動揺を隠す様に平然と振舞った。 「俺は彼女に嫌われているよ?指名される謂れが無いよ~。」 ヘラヘラと理久に笑いかけて…誤魔化す様に首を傾げる。 「お前が、優秀な奏者だからだよ…」 嘘だ… 俺の視線を避ける様に、伏し目がちに足元を見ながら理久はそう言った。 彼女は…まもちゃんとの仲を…俺に、見せつけたいんだ。 この前、壇上で結婚報告をした時の様に…俺を、どん底に突き落としたいんだ… でも、彼女は俺とまもちゃんの事を知らない…そうだろ? 勝手に俺を敵視して、勝手に嫉妬してるんだ… お前さえ、何も言わなければ…知る事なんて、何も無いんだ。 「理久は…どう思うの?」 理久の心情を読むように、彼に視線を向けて様子を伺う… 理久は、俺を見つめて嘘つきの笑顔で言った。 「良い話だと思うよ…?」 …そうか 「では、お受けしよう…理久が言うんだ…俺はお前に従うよ。」 そう言って彼に嘘つきの笑顔で微笑み返す。 まるで腹の探り合いの様に、相手の顔を見ながら…騙し合う。 俺達はどうして…いつから、こんな風になってしまったの…? 理久は俺から視線を逸らして、俺の演奏を促すように手を出した。 俺はバイオリンを首に挟んで、弓を構える。 そして、彼のリクエスト、結婚行進曲を奏でる。 よくある結婚式の曲… 弾いていて…空しくなってくるよ こんな事をするなんて…本当に意地悪な女だ。 嫉妬心…? 俺がまもちゃんと体の関係を持っている事なんて…知らない筈だ。 それならどうして…色目を使ったとか、彼の事が好きなの?なんて意地悪にけん制されたんだ…? どうして彼との結婚発表を目の前で見せつけられたんだ…? 彼女が俺に執拗に嫌がらせをするのは、バイオリンの扱いを注意したからじゃない。 歩がそう感じた様に…彼女もまた、まもちゃんが俺の事を好きだと…感じたんだ。 そして、俺も彼の事が好きだと感じたから…こんな事をするんだ…。 嫉妬だ。 理久が袖で言った言葉を思い出す。 嫉妬がどれほど恐ろしいか、お前は知らない。と… 酷いじゃないか…俺は彼の事が大好きで堪らないのに。 そんな俺にこんなものを弾かせるなんて…酷いじゃないか…酷いじゃないか…! そう、泣きわめいて、取り乱して、動揺する俺が見たいんだ。 動揺するなよ…北斗。 動揺したら…お前はただの負け犬になる。 絶対、彼女のやる事に動揺なんて…してはならない。 曲を弾き終えて、理久に言う。 「うろ覚えの所がある。楽譜が必要だ…用意してくれる?」 俺が言うと、理久は頷いて答えた。 金持ちの…さっちゃんの犬。 そんな風にお前を思いたくないよ… 大好きだったんだ。 理久… 「使用する予定の楽譜を全て用意するよ。」 「ん、ありがとう…」 そう言って俺はバイオリンを抱きしめる。 まもちゃん…心が張り裂けそうだよ… こんなに辛い事…引き受けても平気なのかな。 …でも、 逃げたくないんだ。 だから… 手元のバイオリンを見つめる。 …一緒に居て…俺の大好きな人… 「用はそれだけ?」 俺はそう言って、平然を装ったまま、バイオリンをケースにしまう。 理久は気を取り直すように、明るい声色で俺に話しかける。 「北斗、この前のおばあさんを覚えてる?彼女が今サロンに来ていて、お前に会いたいって言ってるんだ…良かったら一緒に行かないか?」 「星ちゃん、サロンって何?」 クーラーボックスを日向に置いて、腰に手を当てる星ちゃんに聞く。 星ちゃんは首を傾げて、言う。 「サロン、ド、プロ?」 俺も一緒になって、星ちゃんと向かい合って首を傾げながら、クスクス笑う。 その様子を見て、理久が笑いながら言う。 「お金持ちの社交場みたいなもんだよ。」 庶民でいう所の公民館の座敷かな…? 先程とは違う、彼の自然な様子に少しホッとする。 「良いよ。おばあちゃん、好きだから。」 俺はそう言うと、理久の手をわざと握った。 俺はお前を信じてるって…伝えるために、手を握った。 「星ちゃん、ちょっと行ってくるね~!」 「いってらっしゃい~」 魚くさい彼に手を振って、俺は理久と手を繋いで歩いて車まで向かう。 「ねぇ、理久。このバイオリンの音色、素晴らしいだろ?本当に大好きなんだ…こんなバイオリンに出会えただけでも、この旅行は大収穫だと思うんだよ。」 俺は隣の彼の顔を覗き込んでそう言う。 理久は口元を緩めて笑いながら言う。 「気に入ったからって、コンクールでは使うなよ。癖が強すぎる。」 そうか… 「んふふ。分かった~!」 俺は頷いて答える。 俺はまだ警戒心を解かないよ。 お前の真意が分からないから… それでも、お前の笑顔を見ると分からなくなるんだ。 子供の頃一緒に居たお前が…大好き過ぎて、分からなくなる。 間違っているのは、自分の方なんじゃないかって…分からなくなってくるんだ。

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