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8月27日(木)_01
8月27日(木)
目を覚ますと、目の前にのりちゃんが寝ていた。
だらしなくうつ伏せて寝た顔…
今にもヨダレが落ちて来そうに開いた口…
目元を見て、まつ毛が長いのが分かってちょっと笑える。
まったく…酔っ払いはこれだから嫌なんだ。
俺は体を起こして周りを見た。
俺を挟んでのりちゃんと反対側に、横になって眠る可愛い子を発見する。
「まもちゃん…」
そう言って彼の体に乗る。
「まもちゃん…起きて…」
彼の顔に呼びかけて、頬を優しく撫でる。
可愛い唇に我慢出来なくなって、体を仰向けに倒してキスをする。
「んふっ…北斗ちゃん…おはよ…」
そう言って、半開きの虚ろな目で俺を見つめるまもちゃん…かわいんだ。
彼の上に跨って、またキスをする。
のりちゃんが隣に寝てるのに…なんだか発情したみたいに、彼が欲しくなった。
「まもちゃん…したい」
俺がそう言って彼の股間を撫でると、まもちゃんはのりちゃんが居る事を知らないみたいに、俺の太ももからお尻をいやらしく撫で始める。
俺は、悪い子だから…
クスクス笑いながら、両手で彼のモノを撫でて大きくする。
「なぁんだ。北斗…何が楽しいの?まもちゃんのおっきくするの…大好きなの?」
まもちゃんはそう言って、すっかりエロモード全開になる。
体を起こして、俺のTシャツをハフハフしながら巻き上げると、俺の腰を強く抱きしめて、胸に舌を這わせる。
「んっ…はぁはぁ…まもちゃん…のりちゃんがいるよ?」
俺の乳首を優しく撫でながら、まもちゃんが聞き返してくる。
「ん…なぁに?」
「だから…あっ…ん、のりちゃんがいる。」
まもちゃんの顔を掴んで、のりちゃんが寝ている方向に向ける。
「ん、続けて…?」
すっかり目を覚ましていたのりちゃんは、そう言ってにっこり笑った。
まもちゃんは俺を体から降ろすと、布団をかけて俺を隠した。
こっそり覗いて見ると、まもちゃんはたこ焼きプレートをのりちゃんに返して、玄関のドアを開けている。
出て行けと言う事なのか…?
「何で?続けて良いのにさ、何で追い出すの?友達だろ?」
その考え方は…とっても危険だと思うよ。
直生と伊織もそんな考え方をするタイプだ。
のりちゃんはもっと見学したかったみたいに食い下がる。
「じゃあ、俺はこっちでコーヒーを飲んでるから、どうぞ?続けて?」
そう言うのりちゃんを玄関から追い出して、まもちゃんが鍵を閉める。
「北斗…知ってたのに、ダメなんだよ?お前のエッチな声を聴かれただろ?」
布団を捲りながら、まもちゃんがそう言って怒って俺に飛び掛かって来る。
「だって、俺の隣に寝てたんだよ?だから、知ってると思ったんだもん。」
俺はそう言って笑うと、覆いかぶさって来たまもちゃんの体に抱きついた。
「は?寝てた!?」
知らなかったの?
何度でも言おう。
だから酔っ払いは嫌なんだよ…
「そうだよ?俺が目を開けたら、目の前にのりちゃんの顔があったんだ。」
俺はそう言いながら、動揺するまもちゃんの首にキスをする。
彼は働かない頭で一生懸命考え中の様で、渋い顔をしながらジッとしてる。
「フフッ…まもちゃん、来て…?」
俺はそう言って、彼の顔を自分に向けて、彼の背中を自分に引き寄せる。
そのまま、彼にキスをして舌を絡めて誘う。
「え?隣に寝てたの?」
しつこいな…
俺は彼の体をベッドに沈めて、跨って座る。
「しつこいな。そうだって言ってるだろ?」
そう言いながら、Tシャツを脱いで、彼のTシャツを捲り上げる。
「何かされてない?」
「友達だろ?やめなよ。」
俺はそう言って、彼の体にキスを落とす。
「ん!しょっぱい!」
彼の体をひと舐めして分かった。
「まもちゃん、お風呂に入ろう…?」
俺はそう言ってまもちゃんの上から退くと、シャワーを浴びに向かった。
「なぁんで?俺は北斗の汗…ナメナメするの大好きだよ?」
それは自慢にも何にもならない…フェチだろ。
「やなの、まもちゃんのペロペロしたいのに、しょっぱいの、やなの…」
俺はそう言って、服を脱ぐと、さっさとシャワーを浴び始める。
「まもちゃんも、おいで~?」
お風呂の中から彼を呼ぶと、渋々入ってのそのそとやって来る…。
「あのまま盛り上がりたかったのに…北斗~…」
そう言って俺の体に纏わりついて、髪にハフハフするまもちゃん。
「まもちゃん。体洗いっこしよう?」
俺はそう言ってボディソープを泡立てる。
「ん~?洗いっこぉ?ん~どうしよっかなぁ~」
まもちゃんはそう言ってモジモジする…なんだこれ…ウケる。
「そだよ~?洗いっこするんだよ?ほら、ゴシゴシ~」
俺は可愛くまもちゃんの体を洗ってあげる。
「んふふ~、きもちぃ~!」
まもちゃんはそう言って、ぶりっ子して喜ぶ。
でも、何でだろう、何だか、無性にイライラしてきて聞いてみた。
「ねぇ、まもちゃん?それは誰の真似なの?」
まもちゃんは俺の顔を見て、黙ってニヤけた…
あったま来た!
「もう、まもちゃんなんか知らない!」
俺の真似して遊んでたんだ!フン!
「違うよ…北斗の真似っこしてないよ?」
「知らない!」
俺は自分の体を綺麗に洗い始める。
反省したのか、まもちゃんはシュンとして俺の背中を洗ってくれる。
「もうしない?」
後ろの彼に聞くと、まもちゃんは、うん。と言った。
だから俺は彼の体を洗ってあげる。
「お利口にしないと、ダメなんだからね?いい?まもちゃん。」
俺はそう言って、彼の大きな腕を綺麗に洗ってあげる。
俺の顔をだらしない笑顔で見ながら、まもちゃんは綺麗に洗われて行く。
「北斗?お利口にしないと、どうなるの?」
全く…
俺に壁ドンして、まもちゃんが聞いて来る。
「それはねぇ、怒ってプンってするよ?」
俺はそう言って、まもちゃんの顔を見上げる。
「ふふ…可愛い」
そう言って、まもちゃんが俺にキスをする。
あと、髪の毛と顔を洗いたいんだ…
だけど、まもちゃんは俺の体をいやらしく触り始める。
「まもちゃん…髪の毛と顔も洗いたいの…」
俺はそう言って、シャワーを彼に掛ける。
「あぁ~~!」
オーバーに騒ぐまもちゃんを無視して、俺は髪の毛を濡らす。
俺の背後にピッタリと体を付けて、俺の首筋に舌を這わせて、まもちゃんが耳元で囁いて来る。
「北斗…北斗、可愛い…大好き。大好きだよ…」
彼の体の熱が、俺の背中…一杯に広がって…ゾクゾクしてくる。
シャンプーを手に取って、泡立てて髪を洗う。
後ろを振り返って、まもちゃんの髪の毛も洗ってあげる。
「まもちゃん?目、潰らないと、アワアワが入っちゃうよ?」
俺がそう言うと、まもちゃんはニヤけながら目を瞑る。
お利口さんだ。
だから、俺は彼の髪を洗った後、そっと彼の唇にキスをする。
そのまま舌を入れて熱いキスをする。
可愛いんだ…堪らなく可愛いんだ。
キスしながら、シャワーを頭からかけてあげる。
溺れそうだ…
「ぷはっ!死んじゃう~!」
自分でやっておいて、俺は半泣きになって地団太を踏む。
俺の様子に笑いをこらえてまもちゃんが言った。
「グフッ!大丈夫だよ…北斗、ほら、拭いてあげる…」
俺の顔に付いた水を拭いて、キスして慰めてくれる。
顔を洗って、流して、まもちゃんを置いてさっさと浴室を出る。
体を拭いて、パンツを履いて、洗面所で歯磨きをして
そのままベッドに寝転がって布団をかぶって彼に呼びかける。
「まもちゃん!早く来て!」
俺の声が聞こえたのか、まもちゃんは急いで浴室から出ると、洗面所からこっちに顔を覗かせる。
「まもちゃん…早く来て?」
目が合ったので、首を傾げて彼に可愛くおねだりする。
「北斗ちゃん…」
まもちゃんはそう言うと、体を拭くのも適当に、ベッドの布団の中に体を潜らせて、俺の方へと向かってくる。
「んふふ!あはは…あっ!…ん、もう…まもちゃん…んふ…あっ…」
彼の濡れた髪が俺の腹にサワサワと触れてこしょぐったい…!
布団の中で、俺に覆い被さる様にして、最後に顔をチョコンと出した。
「んふっ!あはは!」
余りに見事に顔だけ出て来たので、俺は吹き出して笑った。
まもちゃんは俺を見降ろしながらうっとりとした目をして、俺の髪を撫でる。
「北斗ちゃん…可愛いね…もっと可愛くして?」
舐めるような声で俺にそう言うから、耳の奥がゾクゾクしてくる。
俺はまもちゃんの首に手を掛けながら、首を傾げて言った。
「まもちゃん…北斗と…エッチしよ?」
口元を緩めながらまもちゃんが俺にキスをする。
それは舌の絡まった、熱いキスで、体の芯がフルフルと震えて、腰が疼いて来る。
布団を剥いで、俺のパンツ越しに緩く勃ちかけたモノを撫でながら、俺の目を見つめてくる…その目が凄く…エッチだ。
俺は体を起こして、腰を後ずさりさせる。
「ふふ…何で、何で逃げちゃうの?」
そう言って笑いながら、まもちゃんが俺の腰を掴む。
何でか分からないけど、彼にちょっとだけ…抵抗してみた。
そのまま体を翻して、逃げる様に四つん這いになると、まもちゃんが本気を出してくる。
「こらぁ、北斗ちゃん~待てぇ!」
ふふふ…おっかしいんだ。
「んふふ、やだよぉ!」
俺はそう言って、彼の体から逃げる。
「ほい!」
それはあっという間にあっけなく終わる抵抗だった。
まもちゃんの足の間にピッタリと収まって、抱えられるような格好で掴まった。
「んふふ、掴まっちゃった~!」
降参だ!
「いけないね…北斗ちゃんにはお仕置きしないといけないね。」
背中でそう言って、まもちゃんが俺の体を撫でながら背中を舐め始める。
「ん~っ!や、ん…まもちゃん…」
思った以上にゾクゾクと感じる背中に興奮する。
それは彼も同じだったようで、俺の反応を面白がるみたいに、何回も背中を行ったり来たり舐める。
ゾクゾクして、背中が仰け反って、顎が上がる。
「ん…んん…あっ…あぁ…」
彼の大きな腕が俺の体を這って乳首を優しく撫でる。
「んんっ!あっああ…まもちゃん…」
ダメだ…凄く感じちゃう…
彼の息が背中にあたって、熱くて堪らない…!
背中の彼に頭を付ける様に仰け反って、甘える。
「まもちゃん…はぁはぁ…ん、きもちぃ…」
俺の唇にキスをしながら、彼の視線が俺の股間を見てる。
ダメだよ…そんなエッチな目をしないで…
そっと俺の勃ったモノをパンツ越しに掴んで撫でる。
腰が震えて、体中に電気が走ったみたいにビクビクする。
「あぁ…北斗。この体勢だと…お前が感じるのが…すごく良く分かるんだ。」
俺の耳元で、まもちゃんがそう言って笑う。
首筋に顔を落として、食むようにキスして、俺のモノを握って扱く。
「んんっ!あっ…あっああん…はぁはぁ…あっあっ…」
俺を抱きかかえながら、まもちゃんが俺の体に熱く愛撫する。
堪らない…!
パンツを脱がされて、ゆっくり俺のモノを扱いて、まもちゃんがキスする。
俺は快感に体を仰け反らせて、小さく喘いで震える。
彼の手のひらが、大事そうに俺の体を撫でて、愛おしそうに首筋を舐めて食む。
「ん…んん、まもちゃ…」
腰が緩く動いて、彼の素肌の胸板に、自分の背中を預けて甘える。
「ふふ…北斗、可愛い…すっごい気持ちよさそうだよ…」
だって、すっごい気持ちいいんだ…
彼の体に抱え込まれて、大事に愛されて…すっごく、気持ちいいんだ。
勃起した俺のモノはまもちゃんの手によって、あっという間に絶頂まで登る。
息が荒くなって、快感が強くなって、前のめりになる。
まもちゃんが俺の背中を食むようにして、キスする。
背中から…脇腹…首筋に戻って、俺の耳たぶを噛む。
「んふぅ…まもちゃん…らめぇ…イッちゃう…きもちぃ…んん、はぁはぁ…イッちゃうよぉ…ぁああ…ん」
彼の胸板に顔を擦り付けて、足で布団を掻く様に悶える。
だめだ…めちゃめちゃ気持ちい!!
「北斗…良いよ。イッて…」
「…んんっ!はぁあん!!」
耳の傍で彼に囁かれて、堪らなくなって…俺は腰を震わせながらイッてしまった。
彼の手の中に吐き出された、自分の精液を眺める…
気持ち良くなってイッた自分のモノが、まだビクビクしているのを眺める。
「まもちゃん…気持ち良かったぁ…」
後ろの彼を振り向きながら、そう呟いて、顔を覗く。
まもちゃんは顔を赤くして、うっとりと俺の目を覗いて来る。
トロけた瞳が潤んで…俺と目が合うと、口元を緩めて笑う。
「北斗…めちゃめちゃ可愛いの…」
そうなの…?
俺はそのまままもちゃんにキスをして、彼の腕によってベッドに沈められる。
「堪んないの、北斗…堪んない…」
まもちゃんはそう言って、俺の首に顔を埋めながら、俺の穴に指を入れ始める。
熱い…!
むせ返るような熱いキスで、俺の頭の奥はジンジン痺れて、彼の指が俺の中に入って来る違和感に体が仰け反る。
逃がさない様に、俺の頭を手で抑えながら、ねっとりと熱いキスを続けて、俺の中を撫でまわす様に優しく刺激する。
彼の背中にしがみ付いて、俺を愛してくれる男の体を撫でる。
好き…好き…大好きだ…!
「まもちゃん!大好き!大好き!!」
彼の首に顔を付けて、猫みたいにスリスリする。
堪らない…!この人が大好きなんだ!
トロけた瞳で俺の顔を見ながら、足の間に体を入れて、自分のモノを扱く。
そのまま体を落としながら、俺の中にゆっくりとモノを押し入れて、口元を歪ませる。
体の奥に違和感が押し寄せて、苦悶の表情を浮かべる俺を見て、まもちゃんは口元を緩ませて言う。
「あぁ…北斗の奥…すっごい熱いよ…」
可愛い…!!
俺はまもちゃんの首に手を回して、彼の体を欲しがるように引き寄せる。
まもちゃんの腰が動くと、俺の中で彼のモノが擦れる。
それがどんどん気持ち良くなってきて、体が熱くなる。
「あっ…ああ…まもちゃん…まもちゃぁん…!」
堪らないの…彼が俺を見て…愛してくれるのが…堪らなく好きなの…
これが…この甘い時間が…あと4日で無くなるなんて…
耐えられない!
彼が身動き取れないくらいに、まもちゃんの体にしがみ付いて抱きしめる。
「…北斗、どうした…」
そう言って俺の顔を覗こうとするから、俺は彼の腕に顔を擦り付けて言った。
「俺…まもちゃんが大好きなんだ…」
俺の様子に、何かを察したみたいに、まもちゃんは優しい声で言う…
「北斗…俺も北斗が大好きなんだ…」
そう言って、彼の腕に顔を付けて、涙を隠す俺の首にキスをする。
そのまま顔で俺の唇を探す様にスリスリしていって、優しいキスをくれた。
俺が隠すから…見ない様に、目を瞑ってキスしてくれた。
「まもちゃん…大好きだよ…」
そう言って俺はまた彼にキスする。
そのまま彼の腰が動き始めて、また体中に快感が走る。
彼の目が…俺の目を見てどんどん潤んでいく…
彼の頬に手を伸ばして、優しく撫でると、口元を緩めて俺の手に頬ずりをする…
「はぁはぁ…んん、まもちゃん!あっああ…!気持ちい…!まもちゃん!」
快感に頭を支配されて、体が彼に夢中になって、心が溶けてグチャグチャになる。
何度もエッチしたのに…毎回違うんだ…
まるで演奏と同じだ。
「あぁ…北斗…イッちゃいそうだよ…」
まもちゃんの切羽詰まった声に、体中が興奮してくる。
「まもちゃ…来て…俺の中でイッて…!」
俺はそう言って、彼の背中を引き寄せる。
彼はそれに抵抗する様に体を反らせて、俺の中をねっとりと味わう。
ダメだ…俺もイッちゃう!
「あっああ!まもちゃ…ん!イッちゃう!!」
体を震わせて俺がイクと、すぐに彼のモノが俺の中でドクンと跳ねる。
そのままドクドクと震えて…俺の中に熱いものが広がっていく…
「はぁはぁ…北斗、可愛いんだぁ…」
そう言いながら、まもちゃんが俺の体に項垂れてくる…
俺はそんな彼に手を伸ばして、強く抱きしめる。
「まもちゃん…あったかいね…」
そう言って彼の首にキスをした。
まもちゃんにいつもの様にお尻を綺麗にしてもらって、服を着て、俺はベッドにうつ伏せに寝てる…
彼はそんな俺の上にのしかかって、俺のお尻のモチモチさを楽しんでる…
「こんなにモチモチしてるのは、何でだろう…?」
体の上からまもちゃんが俺にそう聞いて来る。
「きっと、若いからだよ…」
俺はそう言って彼のキャッキャする笑い声を虚ろに聞いてる。
バイブレーションの音がして、まもちゃんが俺の携帯を取って来てくれた。
「あ…やだな、母さんからだ。」
俺はそう言って、携帯の通話ボタンを押した。
「もしもし。ん。起きてるよ?スケジュール?ん、あっ!星ちゃんと餃子に行きたいんだ。いつでも良いけど…でも、え~。うん…でも、ん…だって…それはいつやっても同じじゃないか…うん………はい。」
短く話して電話を切ると、まもちゃんが俺を見て唖然としてる。
「なんかあったの?」
俺はにっこり笑って仰向けになると、まもちゃんに両手を伸ばした。
俺の方に体を寄せてくるから、ギュッと掴んで自分の方へ落とす。
「スケジュールの話をされて、俺の予定は破棄された。」
そう言って彼の体をギュッと抱きしめた。
「9月は星ちゃんと餃子に行けなさそうだ…。どうでも良い事の為に時間を使われる。俺の時間なのに…勝手に決められるんだ。」
腕の中のまもちゃんにそう言って話す。
彼は俺の胸に顔を付けて、目を瞑って聞いてる。
「あの人…怖いんだ。だから、いつも最後ははいって返事する。俺の意見なんて無いんだ。これが家の親なんだよ?これが音楽家の恵まれた家庭の実情だ。音楽の才能は伸びても、窮屈で、自由がない。自分の事すら決めさせてもらえない。」
俺がそう言って笑うと、まもちゃんが言った。
「可哀想…」
そうか…
ありがとう…
「まもちゃんのお母さんはどんな人だったの?」
腕の中の彼の顔を覗き込んで尋ねると、まもちゃんは俺を見ながら言った。
「うちの母ちゃんは…そうだなぁ…どんな人…ん~、北斗みたいな人。」
そう聞いて、俺は思った。
まもちゃんはマザコンなんだって…
「そうか…まもちゃんのお母さんは、有刺鉄線なんだな。」
俺はそう言ってクスクス笑った。
「違う、違う、優しんだ!」
全く、マザコンめ!
彼は俺の上に覆いかぶさると愛おしそうに見つめて、俺の頬を撫でる。
「北斗…とっても綺麗だ…」
そう言って俺の唇にキスをする。
虚ろで…官能的で…儚い
「ねぇ?今日はお店の後、何して遊ぼうか?」
彼の頬を撫でながら聞くと、にっこりして答える。
「馬に乗りに行こう!」
マジか!嬉しい!
俺は満面の笑顔になった後、ちょっと意地悪な顔をしてまもちゃんに言った。
「馬なら、さっき乗った。」
俺がそう言うと、まもちゃんは俺を見下ろして、真顔で言った。
「へぇ~」
そして、勢いよく俺の脇腹をこしょぐった!
「だ~!ははは…あはは!やめて!やめてっ!」
体を丸めて暴れても、まもちゃんは笑いながら手を緩めない。
「ブヒヒン!もう!許さないヒヒン!」
そう言いながら俺の隣に寝転んで、背中を抱きしめて、ハフハフする。
だから、俺は彼の方に寝返りをうって、そのまま彼の上に跨って乗る。
両手を掴んで、手のひらを恋人繋ぎにして、頭の上に持ち上げる。
俺を見上げて、ニヤけるまも~るに宣告する。
「ふふ…やられたらやり返すんだ…!」
そう言って、思いっきり彼の脇をこしょぐる。
「ぐははは!だめ!北斗ちゃん!だめ!ぐへへ!」
濁音多めに暴れる暴れ馬に乗りながら、俺はロディオした。
「あはは!どうだぁ!まも~る!まいったか~!」
そう言って、彼の締めた脇に手を滑り込ませて、思う存分こしょぐってやるんだ!
足の裏の恨み…そして、先ほどの恨み…晴らさせていただきます!
上に跨って笑う俺を、まもちゃんがジッと見つめてくる。
だから、俺は手を止めて彼を見下ろした。
「どうした…もう、降参かい?」
俺はそう言ってほくそ笑んで、彼を見下ろした。
まもちゃんは俺をワナワナした目で見上げると、あっ!と驚いた顔で、視線を逸らした。
何かあるのかと思って、俺もそっちを向いた。
「だははは!甘いんだよ!坊ちゃん!」
そう嬉々として言って、まもちゃんは俺の脇腹に両手を差し込んで入れた。
「あ…」
それは一瞬だった…
がら空きだった俺の脇の下に両手を入れて、彼は俺の顔を見つめる…
いつでも…やれるんだぞ?
そう言ったメッセージのこもった目をして、俺を見つめて口元を緩めて笑う。
「く…卑怯だぞ…!」
俺はそう言って、唇をかみしめる。
「甘いんだ…甘すぎるんだよ…まるでお砂糖みたいだぁ…。全く、そんなんで俺が倒せると思っていたのかい?」
まもちゃんは恍惚とした表情でそう言うと、少しだけ指先を動かす。
「…くっ!」
俺は苦悶の表情を浮かべて、体を少し捩る。
まるで安全装置を解除された銃を向けられている状態だ…!!
「どうする…?」
そう俺を嗤う様に聞いて来る男に、俺は視線を外すことなく言ってやるんだ!
「死なば、諸共じゃ~~~!!」
俺は彼の脇の下目がけて両手を突っ込んで行った。
「うはぁ~!」
まもちゃんは歓喜の声を上げて俺の脇をこしょぐる!!
「だははは!!」
俺は自分の肉を切らせた。
そして…奴の、骨を断つんだ!!
しかし!目前にして、本機は撃墜される…!!
こしょぐりポイントにクリーンヒットして、体が捩れてしまった!!
「あはは!だめ!だははは!参った!参った!!」
まもちゃんはバイオリン職人だから…指先が器用なんだ…
そんな手でこしょぐられたら…たまったものじゃない…
俺の様子を注意深く見ながら、まもちゃんは俺の脇の下から手を抜いた。
「もう…まもちゃん、こしょぐるの無しだよぉ…?」
そう言って彼の体の上に覆いかぶさる。
まもちゃんは俺の腰を抱きながら、まだ警戒心を捨てないでいる。
「ね?無しだよ?」
そう言って彼の目を見つめて微笑んで、両手をそっと掴むと…まもちゃんはぐっと力を入れて、俺の自由にさせないでいる。
俺は彼の目を見つめながら言う。
「どうしたの…何が怖いの」
まもちゃんの目が笑う。
「…何も怖くない…!」
口元を緩ませながらそう言って、気を取り直してキリッとした顔に戻る。
「じゃあ…大丈夫だろ?」
俺はそう言いながら、まもちゃんの首に顔を落として彼の首筋をペロリと舐める。
彼の腕を掴んだまま、俺はまもちゃんの首筋をチュッチュとキスしながら、舌で舐めてエッチに愛撫していく。
口から漏れる吐息を彼の耳に聴かせて、興奮させていく。
「んふ、北斗ちゃん…いいよ、いいよ~」
堪らなくなったまもちゃんの体の力が抜けて、俺に全集中する。
俺はその時を見逃さなかった…
「スキあり~!」
そう言って彼の手を上に上げると、思いきりこしょぐってやった!
「ねぇ、俺の勝ちだろ?」
俺はそう言って彼の背中に背中でもたれる。
「違う。俺の勝ちだよ?」
背中の彼はそう言って揺れる。
「嘘だぁ…絶対、俺の勝ちだよ?」
俺はそう言って彼の背中に甘えて抱きしめる。
ガチャガチャ…
お店のドアを開けようとする音が聞こえる。
「あ…ヤバイ、後藤さんだ。」
俺はそう言ってまもちゃんの背中から離れると、厨房を出て、お店のドアの鍵を開けに行く。
「うふふ、ごめんね。いらっしゃい。後藤さん。」
俺はそう言って笑うと、常連客の後藤さんをお店に招き入れる。
「んも~、今日もお休みかと思っちゃったよ?北斗ちゃ~ん。」
いつものテーブルに後藤さんを案内して、メニューを渡す。
「もうすぐ、東京に帰っちゃうの?俺は寂しいよ…北斗ちゃん…」
そう言って、目を潤ませる後藤さん。
ダメだよ…そんな風にしないで。
だって、俺も寂しいんだから。
「今度はいつ来るの?」
俺の胸がズキンと痛む…
だって…分からないんだ。
“今度”がいつ来るのか…俺には分らないんだ。
親の言いなりの自分には…
自分の予定を決めることも出来ない、自分には…
今度がいつ来るのかなんて…分からなくて。
「来れたら、来るよ…」
そう言うしか出来なかった。
「北斗ちゃ~ん!これ、お土産だよ?食べてね?」
そう言って後藤さんが焼きプリンをくれた。
「わぁ!ありがとう!」
俺がそれを受け取ると、後藤さんはさり気なく俺の手を撫でる。
全く…こういう事には凄い注力するんだな…
半分呆れながら、焼きプリンを受け取ると、厨房の冷蔵庫にしまいに行く。
「まもちゃん、後藤さん、今日はハヤシライスにするって。」
俺がそう言うと、まもちゃんは背中で、ほ~い。と、返事をした。
ランチタイムの混雑が始まって、忙しくなる。
「北斗、これ食べて…」
常連さんが、やたらと俺に何かくれる。
その度に冷蔵庫にしまいに行くから、イライラしたまもちゃんに聞かれる。
「北斗…さっきから何してるの?」
俺は冷蔵庫の中をまもちゃんに見せた。
「何か…要冷蔵の物を沢山頂くんだよ…」
そう言って、まもちゃんと眺める…
焼きプリンから始まって、ショートケーキ…アイス、生チョコ、チーズケーキ、滑らかプリン…
「凄いな…もう冷蔵庫入らないよ…上に持っていきなさい。」
「後で持ってく…今は忙しいから…」
俺はそう言って、お客さんに注文を聞きに行く。
「北斗、これあげる。」
またか…
俺はありがたく頂いて、注文を取る。
「北斗?東京のどこに住んでるの?」
俺の顔を見上げて、常連のお姉さんが聞いて来る。
「世田谷だよ~」
俺はそう答えて、お姉さんにメニューを渡す。
「世田谷って…広いよね~」
お姉さんはそう言って笑うと言った。
「昔、玉川上水に住んでたんだ~。」
おっ!知ってる。昔、理久と逃避行した時、電車でそこの近くの公園まで行ったんだ。
「ふふ、そうなんだ。」
俺はそう言って笑うと、お姉さんの注文を取る。
注文を取って、まもちゃんにお伝えする。
「まもちゃん、オムライス2つとポークソテーが1つ。」
「ほ~い」
返事を聞いて、冷蔵庫に頂き物をしまう。
「入らないよ…もう上に持って行って!」
とうとう、怒られた。
「は~い」
俺はそう言って、頂き物をいくつか抱えて二階に急いで上がる。
「俺のせいじゃないのにさ。」
ぶつくさ言いながら二階の冷蔵庫に入れる。
それを二往復して、やっと冷蔵庫が落ち着く。
これでまもちゃんがキレないな。
「だから、北斗は東京の子で、もうすぐ帰っちゃうんだよ~、分かった?」
「ん~、北斗ちゃん、北斗ちゃん…」
俺は老いた人間に好かれるんだ…
常連のおばあちゃんの手を握って、なぜか拝まれる。
「中学生は夏休みが終わると、忙しいんだろうね~。」
そんな話を振られて、適当に相槌を打つ。
もう…みんな、俺の夏休みが終わった後の話ばかりするね…
やんなるよ。
やっとランチの混雑が緩和され始めた頃。
直生と伊織が二人でご入店する。
「ん?いらっしゃい。今日はお客さん?」
俺が尋ねると、笑顔で頷くケルト神。
丁寧にお席に案内してあげる。
メニューを手渡して、それとなく直生を見る。
「北斗~、お会計して~」
お客さんに呼ばれて、俺は注文を取る前に会計に向かう。
「良い?変な人には付いて行かないんだよ?」
「んふふ、分かってるよ。それは小学生に言う事だろ?」
全く、何歳だと思ってるんだ。
常連さんを見送って、直生と伊織の席に戻る。
「決まった?」
俺が尋ねると、頷いて答える。
「オムライスと…チキンソテーにしよう。」
はいはい。
俺はメモを取って、メニューを預かる。
「北斗、一緒に食べちゃっていいよ?」
厨房からまもちゃんが声を掛けてくる。
俺は直生と伊織を見下ろして聞いた。
「俺もここで一緒に食べても良い?」
2人は俺を見上げて頷くと言った。
「もちろんだよ…」
じゃあ、俺はポークソテーにしよう…
3人分の注文をまもちゃんにお伝えして、俺はお客さんのお水を足しに行く。
ちょっと離れた場所から、伊織と直生を見てうっとりする。
格好良いんだよね…
やっぱり雰囲気がさ…こう…上等なアンティークなんだ。
「北斗?また、来年、来るんだろ?」
レジでお会計をするお客さんに、今日、何回も聞かれた言葉を掛けられて、首を傾げて答える。
「ん~、分かんない。でも…来れたら来る。」
そんな俺の様子を見ながら、直生と伊織がコソコソ話し込んでいる…
いつも兄弟で行動してるせいかな…
頭の中が子供のままみたいに、こういった行動にアンバランスな幼稚さを感じる。
それがギャップ萌えに繋がるんだろうな…
あの兄弟の親に会ってみたいもんだ。
本当に…北欧の神々だったらどうしよう…
マタギの様な父と美しい母なのかな…?
逆に、鬼子母神の様な母と、美しい父の場合もあるな。
そうこうしていると、最後のお客さんもお会計を済ませる。
「俺がいなくなっても通ってね~!」
そう言いながら手を振って見送る。
そんな俺の後ろにまもちゃんが来て、そっと体に触れて言う。
「北斗、ご飯出来たよ?」
「わ~い!」
俺は2人の席にスキップで向かった。
「あ…!これ、違うな…」
ニヤけた顔の伊織と、困った顔の直生を見て、テーブルの上を眺める。
まもちゃんによって、既に置かれた料理の場所が違うんだ…。
俺の席に置かれた、オムライスを直生に渡す。
直生の席に置かれた、ポークソテーを自分の席に戻す…。
あべこべになっていたんだ。
「ふふ…シュールだな。」
訝しげな表情の直生と、ソースでハートの描かれた俺仕様のオムライス…
伊織と一緒に肩を揺らして笑う。
「何か…可愛く見えるね。」
そう言ってクスクス笑う俺を、直生がじっと見つめて固まる。
そんな俺達の様子を見て、まもちゃんが愕然として立ち尽くしてるのが視界の隅に映る…。
直生は真顔でハートを崩すと、さっさと食べ始めた。
あぁ…おっかしい!ウケる!
「なかなか美味しいじゃないか…」
そう言って、直生が俺を見て笑う。
「だろ?まもちゃんのお料理はどれも美味しいんだよ?」
俺はそう言って、ポークソテーを切ろうと、ギーコギーコとナイフとフォークを頑張る。
見かねたまもちゃんが、俺のお皿を持って厨房に戻って行く。
「今、食べてるんだぞ?」
そう文句を言って、彼の背中を見送る。
「北斗、あれから、大丈夫だったか…?」
伊織が心配そうな表情で俺に尋ねて来た。
あれから…?
あぁ…瑠唯さんの事だ。
「ん、大丈夫だよ。直生は…」
言いかけて言葉に詰まる。
大丈夫…?なんて聞けない。
だって、大丈夫な訳ないんだからさ…
直生は固まって見つめる俺を見ると、微笑んで言った。
「大丈夫だ。傍に居れたから…大丈夫だ。」
そう言って、俺の髪を優しい手付きで撫でた。
「触らないで?」
まもちゃんがそう言いながら戻って来た。
そして、切り分けられたポークソテーのお皿を、再び俺の席にコトンと置いた。
トッピングに可愛いウインナーのハートが追加されている。
…プチトマトも多めに入っている!
「んふ、可愛くなったね~」
俺はそう言ってまもちゃんに笑顔を送りながら見上げる。
よく見ると、直生のオムライスにも、ウインナーのハートが乗っている。
完全に俺がオムライスを食べると勘違いしてたんだ。ウケる。
直生とオムライスの構図を見ながらニヤけて笑う。
ウケるんだ…シュールで。
「ところで、北斗。俺達はそろそろ次の場所に向かうんだ。」
直生はそう言うと、俺に1枚の紙を寄越した。
「なぁに?」
俺はそれを受け取って、中身を確認する。
「俺たちの連絡先だ。必ず少なくとも1か月に1回は連絡を寄越すんだ。まず、どこかに出かけたら、必ず写真を撮って、ここに送るんだ。良いな?」
何だよ…それ。
俺は彼らの連絡先をポケットにしまって頷いた。
「分かった。ありがとう。」
そう言って、注文を取るメモに自分の連絡先を2枚分書いて、彼らに渡す。
お土産の送付先として実家の住所もぬかりなく書いておく!
「ふ、ふ、藤森さんなんだな…」
伊織が俺の名字を見て笑って言った。
なんで、みんなそこにフォーカスするんだよ…。
「まもちゃんも俺の名字で笑うんだよね。変だよ。何でなの?」
俺は伊織を見て、そう聞いた。
「北斗は…ただの北斗ってイメージしかなかったから…藤森さんだと知って、驚いた。」
どういうことだよ…
「直生、これ、ちょうだい?」
俺は直生のお皿からハートのウインナーを取ると、自分のお皿に移した。
だって気になってたんだ…。
「北斗、お前の参加するコンクールは、どこで行われるんだ?」
伊織がにっこり笑って俺に聞いて来た。
「アメリカだよ…あそこの音楽院に飛び級で俺を入れたいんだ。親がね…。俺の意志なんてそっちのけでさ、自分が入れなかったから必死なんだよ…。もっと自由になりたいよ。お前たちみたいにさ…」
そう言って苦笑いする。
だって、俺の希望じゃないからな。
ダサいよね。言いなりなんだ。
「何だ…嫌なのか?あそこは素晴らしい音楽家の卵が沢山居るぞ?お前にピッタリだ。この年であの表現力。そして各方面の音楽に対する知識の深さに加えて、構成力が培われている。ピッタリだ。きっとご両親もそう思ってお前をコンクールへ行かせるんだ。」
直生が俺を難しい言葉で褒め称える。
「え…そうなの?俺にピッタリなの?」
褒められて悪い気はしない。
俺は鼻の下を伸ばして、称賛の言葉をもっと要求する。
「そうだ。北斗みたいな我の強いやつがコンマスになれば上手く行くんだ。」
直生はそう言って伊織と顔を見合わせて、ね~?ってする。
「どういうことだよ!褒めてよ、もっと持ち上げて、その気にさせてよ!」
俺はそう言って、直生のオムライスを一口盗む。
直生はじっと俺を見つめて、ため息を吐くとやっと俺を褒め始める。
「…例えば、理久と即興で演奏して彼の独特な奏法に引きずられないのは、きちんと自分の領分を理解しているからだ。曲全体を見通してどうやって仕上げていくか、おのずと考えられる力をお前は持ってるんだよ。それは長年音楽をやって来た人なら身に付けられる技術だ。なぜかお前は若くてそれが出来るんだ。譜読みにしろ、他のパートまで把握するのがいい例だ。」
そう言って直生は伊織に発言を促す。
「そうだ。北斗は可愛くて強いんだ!」
伊織はどうしたの?付属品なの?お兄ちゃんの相槌ばっかり打ってるから頭が幼稚園になっちゃってるの?
俺がジト目で見ると、伊織はきちんと俺を褒め始める。
「そうだな…俺達と演奏している時、お前の眉毛が上がると俺達は強く弾くようにしてる。お前の目が細くなると、俺達は弱く弾くようにしてる。…つまり俺達と演奏をしても、その曲をコントロールしてるのはお前だって事だ。」
驚いた。
「そうなの?俺がコントロールしてるって?ぶはは!ありえないよ。だって俺はお前たちに合わせて弾いてるんだもん。」
「いつもポルカを弾いた後、何て言ってるか知ってるか?」
直生が俺の方を向いてオムライスを食べながら言う。
「あと、ここにアコーディオンが欲しい…だ。」
確かにそうだ。あと一音、決定的に足りないんだ。
「それこそ、構成力だ。」
直生がそう言ってご馳走様する。
口をナフキンで拭きながらこう言う。
「北斗、音楽は演奏するだけじゃない。構成して、イメージを音に落とし込む作業が無ければ演奏はバラバラになってしまう。指揮者…もしくはコンサートマスターが居て、まとめ上げるから一体になるんだ。そして、俺達のトリオ演奏の時はお前がコンサートマスターだ。それは初めてお前と一緒にポルカを歌った時から変わらない。」
「本当?」
目から涙があふれて落ちる。
嬉しいんだ…こんな素晴らしい賛辞。頂いた事が無い。
この凄い奏者を自分がコントロールしていたなんて…信じられない。
「本当だ。あのテンポをお前が足で俺たちに教えた。そしてアクセントをつける前にお前は俺達を見て笑う。そこがポイントだ。笑うから良いのかと思うと、ムッとする。だから、俺達は工夫してお前の望む音を探す。ピッタリくると、嬉しそうに笑って踊りだすんだ。あぁ…これが欲しかったんだと理解して、次はこうしようとなる。今まで弾いて来た曲の完成度が高いと思うのなら、それはお前の納得のいく演奏を俺達に伝えられていたと言う事だ。」
俺は席から立ち上がると直生の元に行って彼を抱きしめる。
それはもう彼がつぶれるくらいに強く抱きしめる。
「うれしい!うれしい!!」
そう言って抱きしめて、伊織がもじもじしてるから一緒に抱きしめる。
「ありがとう…!なんかやる気出て来た…!いじけないで、やる気出て来た!」
俺はそう言って直生と伊織を両手で抱きしめる。
俺がそう言って泣くと、伊織が涙を拭って直生が頭を撫でてくれる。
まるで千手観音だ。
ホクホク笑顔で向かい合いながらおしゃべりを続ける。
直生と伊織にコーヒーを淹れてあげる。
まもちゃんはちょっと離れた場所で俺の渡したコーヒーを飲みながら、俺達の様子を…監視してる。
「いつ、行くの?」
俺がウインナーを食べながら尋ねると、直生が言った。
「お前に挨拶したら、行こうと思ってた。ボスだからな。」
そう言って二人で俺を見て、微笑んだ…
そうなんだ…
もう、行くんだな。
「また…会えるよね?」
そう言って顔を上げると、知らないうちに涙がポロポロと落ちて、手元を濡らす。
そんな俺を見て、直生は目を潤ませた。
「会えるよ…絶対だ。またトリオを組もう。ボス。」
直生がそう言って笑うと、伊織が席を立って俺を上からそっと抱きしめる。
「北斗…愛してるよ。」
俺の顔を持ち上げてそう言って、うっとりと潤んだ瞳でキスをした。
「あ~~~!ちょっと、待ってぇ~?」
まもちゃんが怒って向かって来るまでの間。
伊織は熱くて情熱的なキスを俺にくれた。
「俺はお前の2号さんだ…」
そう言って微笑む伊織の目から、大粒の涙がポロリと落ちる。
生暖かい涙が、俺の頬を伝って落ちていく。
まもちゃんが躊躇なく伊織をどつくから、俺の体まで揺さぶられて、持っていかれる。
伊織が少し苛ついて、まもちゃんをどつき返す。
「喧嘩しないで。彼らはもう遠くに行っちゃうんだ。」
俺は手を伸ばして、まもちゃんを止めて、鼻息の荒い伊織を席に座らせた。
仕方が無いんだ…自嘲気味に笑ってそう言って、伊織に教えてあげる。
「俺も31日に東京に戻るんだよ…だから、気が立ってるんだ。お互いにね、ふふ。」
まもちゃんに抱きついて、体を撫でる。
暖かくて大きな体…力強くて、大好きだ…
まもちゃんの腕の中、ぼんやりしながら彼らを見てポツリと呟いた。
「また会えるのかな…ねぇ、また会えるのかな…」
言った途端に涙があふれて、視界を歪ませる。
俺がそう言って彼の胸の中で泣くと、まもちゃんが怒った声で言う。
「会えるだろ?会うに決まってる!何でそんな事を言うの?」
だって…
だって、分からないんだもの。
何もかも…自分の事なのに、分からないんだ。
だから、怖いんだよ。
決められたレールの上で、ただ言いなりに動く自分には、この先どうなるかなんて分からないんだ。
俺の大切な物を…また蔑ろにされそうで。
今まで諦めて来た事達の様に…諦めさせられるんじゃないかって…怖いんだ。
まもちゃんに抱きついて、彼の体に自分を沈めて甘える。
彼らに対して言った言葉を、まもちゃんは自分に対して言った言葉だと思った様だ…
怒った表情が、彼がこれからも生きていくと…確実に俺に教えてくれた。
良かった…
彼はもう大丈夫だ。
まもちゃんの体から顔を上げて言った。
「まもちゃん…実は、伊織は俺の2号さんなんだ…」
そう言って伊織と見つめ合って、ね~?とする。
「ダメだよ~、北斗~。2号さんなんて…そんな言葉をどこで覚えたの?」
俺にしがみ付いてハフハフするまもちゃんを抱きしめる。
「じゃあ、まもちゃんは俺を離さない様にしないとね。」
まもちゃんは俺を見下ろして、愛おしそうに目を細める。
「離さないさ。」
そうだね。離さないでよ。
俺が戻らなくても…離さないでよ。
「ふふ…嬉しいな。」
俺はそう言って、まもちゃんに笑いかけて言う。
「まもちゃんが、大好きだ!」
そう言って、2人の目の前でまもちゃんに熱いキスをする。
俺達は夫婦だから。
こんな事をしても良いんだ。
「俺の為に弾いてよ。まだデュオを聴いていない。」
俺は車に戻る彼らの背中にそう言って引き留めた。
直生と伊織は顔を見合わせて笑うと、車の後ろからチェロを取り出して店の中に戻った。
さぁ…聴かせてもらおう。
俺の待ちに待った、俺の為の彼らのデュオだ…
まもちゃんは着替えに二階に行ってしまった。
もったいない…馬鹿な奴だ。
彼らの演奏を独占して聴けるめったにない機会だっていうのに…!!
「さぁ、北斗…待たせたね。何が聴きたい?」
直生が笑ってそう聞いて来る。
そうだな…
「ビバルディ…四季“冬”バイオリン協奏曲第4番ヘ短調。俺のコンクールの曲なんだ。先生…私に、これを弾いて聴かせて下さい。」
俺がそう言うと、彼らは今までに無い位に破顔して、顔を赤くした。
先生って言ったのが…照れたのかな…
変態だから、どこがポイントだったのか読めない。
「もちろんだ…北斗のお願いなら何でも聞こう。」
そう言って、二人は同時に弓を構える。
息の合った構えから、一気に弾き始める。
その瞬間、体中に振動が走る!!
「あ…」
息の合った細かい弓の振れが、まるで重なって一つの音になって向かってくる。
強い衝撃波の様に俺の体中を襲って、宇宙線みたいに体を通過していく。
立っていられないくらいに、強いインパクトを受けてふらつく。
「凄い…凄い…」
目を見開いて彼らを見つめる。
こんなすごい演奏…気迫のある演奏…力強いチェロを見た事がない…!
直生の髪が乱れて、伊織の髪は逆に目が露出する。
その表情が、真剣で…痺れる。
かっこいいんだ…惚れる。
力強さと繊細さが兼ね備わった演奏…最高に痺れる。
曲を弾き終えて、彼らは俺を見つめる。
俺は彼らを交互に見て惚けた顔で言った。
「凄い…」
そんな馬鹿みたいな言葉しか出て来なくて、体中が震えたまま彼らを抱きしめる。
言葉は出てこないけど、尊敬と憧れの念を持ちながらギュッと抱きしめた。
こんな素晴らしい人たちと演奏が出来たんだ…
俺は、なんてラッキーなんだ!!
「じゃあ、気を付けてね。また…どこかで。」
俺はそう言って、直生の体を抱いた。
彼は優しく俺にキスをする。
「北斗…瑠唯の事。ありがとう。あの鳥は俺が引き取った。だから、安心しろ。」
そうなんだ…良かった。
俺は直生と離れて、2号さんと抱き合う。
口を尖らせているから…まもちゃんとキスした事にいじけているんだ。
「伊織…もう小さい少年に悪戯しちゃダメだよ?」
俺はそう言って、伊織を抱きしめて彼の胸に顔を埋める。
優しくて、大きくて、不器用な、ケルト神たち。
「北斗…もう一回キスしたい。」
そう言うから、俺は顔を上げて伊織のキスを受け取った。
彼の前髪を分けて、可愛い目を覗く。
伊織も俺の前髪を分けると、同じようにして、お互いの目を見つめた。
そうして、笑いながらキスをして体を離した。
「またね…」
いつもの様にそう言って、車に乗り込む大きな背中を見送る。
楽しかったな…
この人たちと居て、本当に楽しかった。
間違ったセックスの相手…
俺のお師匠さん…
そして俺がコンマスを務めるトリオの仲間…
彼らの車が見えなくなるまで手を振り続ける。
目から涙がボロボロ落ちて、前が見えなくなる…
いつの間にかまもちゃんが俺の後ろに立っていて、背中を優しく撫でた。
彼らと別れるのに、こんなに辛いのに…
俺はこの人から離れることが出来るんだろうか。
「まもちゃん…」
そう言って彼の体に抱きついて、両手で彼の背中にしがみ付く。
この人から離れたくない…
ずっと一緒に居たい…
東京に戻ったら…二度と会えなくなるんじゃないか。
親の言いなりになって、ここに戻って来れないんじゃないか…
そのまま彼らに忘れられていくんじゃないか…
段々と不安になってくるんだ。
不安…いや、恐怖だ。
自分の大切な物を、他人に蔑ろにされる恐怖。
抵抗できない諦め…。
もしかしたら、俺が一番、不自由なのかもしれない。
まもちゃんの体にしがみ付いて、離れたくない。
このまま…死んでしまいたくなる。
「これ、食べきれないよ…」
二階に上がって、冷蔵庫の中のお土産を見て固まる…
「まもちゃん、何食べたい?」
ベッドでゴロゴロするまもちゃんに尋ねる。
「ん、チーズケーキ。」
それだけ?もっと食べないと悪くなっちゃうよ…
大量のスイーツの箱に冷蔵庫はパンパンだ。
途方に暮れて立ち尽くしていると、まもちゃんが言った。
「歩の所に持って行きなよ。皆なら食べられるだろ?若いんだし。」
まぁ、一理ある。
「じゃあ、お馬さんの所に行くついでに寄ってよ。その時渡すから。」
俺はそう言って、滑らかプリンとチーズケーキをテーブルに置いた。
ゴロゴロするまもちゃんの手を引っ張って、テーブルに連れてくる。
なんだよ、何でこんなに脱力してるんだよ!全く。
体も態度も重たくて、引っ張って来るのに力がいる。
「凄かったよ?彼らの演奏を聴いた?俺、ビビっちゃった!」
俺はそう興奮して話しながら、プリンを一口食べた。
んまい!
「聴こえたよ~!凄い振動だった~!」
まもちゃんはそう言いながら、不満そうな顔でテーブルに着いて、チーズケーキの周りのセロハンを外した。
俺が彼らとイチャイチャしたのがムカついてるんだ…。
彼は、勢いに任せてチーズケーキを掴むとそのままムシャムシャと食べ始めた。
「まもちゃんは俺よりもワイルドだね、そんなに付けると…ペロペロしちゃうよ?」
俺はそう言って、彼の口の端に付いたチーズケーキを舐めて取った。
「んふぅ~!」
まもちゃんはそう言って後ろに倒れると、脱力して天井を見上げてる。
「ねぇ、何でこんなに沢山くれたのかな…今日は異常だよ。」
俺はそう言って、寝転がりながらチーズケーキを食べるまもちゃんに尋ねる。
彼は俺の方を見て、大きなため息をひとつ吐いた。
「北斗って…本当に鈍感なんだな。」
そう言って体を起こすと言った。
「お前が…もうすぐ帰るから、だからみんな、美味しい物食べさせてやろうって…持ってきたんだよ?」
そうか…そうなんだ。
「ふふっ!そうだったんだ…。なんか、今日は凄いなって…思ってたんだ。」
俺はそう言ってクスクス笑うと、体を倒して、まもちゃんの口の端に付いたチーズケーキを舐めた。
俺の舌が舐めると同時に、まもちゃんが俺の口に舌を絡めてキスをする。
そのまま俺を押し倒して、上から見下ろす。
いつになく真剣な表情で、まもちゃんが俺を見つめる…
胸がドキドキして、締め付けられるような痛みすら感じる。
「北斗…また会えるかな…なんて二度と言わないで。」
まもちゃんはそう言って目の奥を揺らした。
そうか…それが引っ掛かっていたのか…。
俺は彼の髪の毛を撫でて、微笑みながら言った。
「分かった。言わない。それに、あれは…しょっちゅう海外を、行ったり来たりしてる彼らに向けて言った言葉なんだよ?」
俺の言葉を聞いても、まもちゃんの表情が晴れることが無かった。
苦しそうに、辛そうに、瞳を潤ませて言う。
「もう言わないでくれ…」
そう言ってシクシクと項垂れて泣き始める。
俺は彼の頭を抱きしめて、背中を強く引き寄せた。
「…言わない。もう、絶対に言わないよ。」
そう言って、まもちゃんを強く抱きしめる。
俺達は…似た者同士なのかもしれない。
そう思えるくらいに、彼の気持ちだけは分かる。
また会えるかな…なんて、悲しすぎたんだ。
こんなに大好きなのに…そんな突き放すような言葉…言われたくないよね。
分かってる。
分かってるんだ…
でも、俺の状況はそんなに簡単じゃないんだ…。
大人の様に自由じゃない。
いや…他の子供の様に…自由じゃない。
自虐的につぶやいた言葉…
そうだ、あれは不自由な自分を憐れんで言った言葉。
ダサいな、俺。
「ま~もちゃん、お馬に連れてってよぉ…」
俺にしがみ付いてメソメソする大人に言う。
彼は俺の胸から顔を上げると、ノソノソ這いずり上がってきて、俺にキスをした。
熱くて、トロけちゃう甘いキスをして、口を離すと言った。
「今日は、まもちゃんというお馬さんに乗りなさい。」
馬鹿かな…
こいつ…馬鹿なのかな…
俺は白けた顔をして言った。
「もう遅いの?今からじゃ、間に会わないの?」
俺がそう聞くと、まもちゃんは真面目な顔をしたまま、コクリと頷いた。
俺は体を落として仰向けに寝転がった。
あぁ…そうだよな…もう外は夕方になりかけてる…
「じゃあ…また今度、連れて行ってよ。」
俺がそうポツリと言うと、まもちゃんは俺の方を見て、頷いて言った。
「行こう。今度、連れて行こう。」
そうだよね…そうしよう。
俺の“今度”は、いつになるか分からないけど…
あぁ…
苦しくて…押しつぶされてしまいそうだよ…まもちゃん。
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