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Lesson1_02
結局、男女共に抱いたけど、北斗への欲情をおさめることが出来なかった。
静かになった部屋。
1人天井を見つめて彼を思い出す。
「理久…おちんちん、怖くないよ…」
彼の言った言葉を思い出して、自分のモノを握って扱く。
「はぁ…北斗、北斗…」
目を瞑って、想像する。
あの子の細い首筋を舐める自分を…。
「あ…理久…やだぁ…」
大丈夫だよ。
すっごく気持ちよくしてあげるからね…
寂しい事も、嫌な事も忘れられるくらいに、気持ちよくしてあげるよ…
愛してるからね…
彼の細い腰を撫でて、滑らかな肌の胸を舐めまくる。
小さな乳首を口に入れて、しなる腰を抱き寄せて、むさぼる様にあの子を舐めて…
あの子の小さなお尻の中に指を入れて…柔らかいお尻を撫でながら、執拗に攻めたい…
「あぁ!北斗!!」
ガチガチに勃起した自分のモノをキツく扱いて、小さなあの子の中を想像する。
細くて白くてスベスベの肌が紅潮して、ベッドに横たわる。
潤んだ瞳で俺を見上げて、ピンクの唇から白い歯と、赤い舌が見える…
あの子のプリプリのお尻の中に自分を埋めて、ゆっくりと腰を動かす。
「あっ!あっ…ああ、りくぅ…やめてぇ…痛いの、痛いのぉ…」
堪らない…!!
両手を伸ばしてシーツにしがみ付く彼の背中を指で撫でて、汗を舐める。
細い腰を鷲掴みして、あの子の小さなモノを握って扱く…
「大丈夫だよ…北斗、痛くないよ、だんだん気持ち良くなるから…このままお利口にしていたら、もっと…もっと愛してあげるよ?」
「…はぁはぁ…ん、ほんと?」
俺の意地悪な言葉に、目を潤ませて口元を緩めて笑う。
純粋で…無垢な…可愛い子が、俺の欲望に従う理由は…自分を見て、愛して欲しい…それだけなんだ。
なんて…官能的で背徳心が揺さぶられるんだろう…!
「本当だよ…愛して欲しいんだろ?沢山愛してあげるから…お利口にするんだ…。」
「……うん」
北斗…!!
堪らないんだ!!
お前だけを見て、お前だけを愛してあげる。
沢山構って、特別扱いして、いつも…いつもお前だけを見ている。
だから…どうかこの思いを…成就させてくれ!
「はぁはぁっ!うっ…!北斗…はぁはぁ…はぁはぁ」
手のひらに吐き出した自分の精液を自分のモノに撫でつけて、扱く。
止まらない…
止まらないんだ…
空想未来科学が止まらない…!!
「理久…」
俺を見て微笑むあの子の顔…怒った顔…泣いた顔…寂しいと言って縋る顔…
手に付いた精液がグチュグチュと音を出しながら、あの子の中を感じさせる。
めちゃくちゃに…犯してやりたい!!
泣いて嫌がる北斗を後ろからガン突きしたい!
なんてことを…
なんてことを…
「うっ!あっああ…」
直ぐに絶頂に行って果てる自分のモノに、
抗えない本能レベルで変態になってしまった自分に…
絶望する。
「どうしよう…北斗…俺、どうしたら良い…」
体を横に倒して、何度もイッた自分の手のひらを見つめる。
目から涙が落ちて、頬を伝ってベッドのシーツを濡らす。
初めて北斗に会った日の事を思い出す。
世田谷の一等地。
細く入り組んだ道を抜けて、真新しい建売住宅の間を通る。
手入れのされた生垣の、昔からそこにある広い土地の広い家。
呼び鈴を鳴らすと、美しい女性が出てきて、俺を見てにっこりと会釈をする。
その後ろに立つ、俺を見つめる幼い少年。それが北斗。
泣いたのか、目元が既に赤かった…
「嫌だ…」
目が合って、開口一番にそう言って、俺を睨む。
「初めまして。」
俺はそう言って、子供相手の表情を作ってにっこりと微笑むと彼に挨拶をする。
フンと顔を逸らして、目の端でジッと俺を見つめる。
どうしたんだ…一体何がそんなに気に入らないんだ。
戸惑いながらも、彼の母親に促されて、玄関を上がる。
そして案内されたのは、スタンウェイのアップライトピアノのある、日当たりの良い部屋。庭に面した大きな窓にレースがかかってヒラヒラと揺れる。
壁に備え付けられた棚には楽譜と教則本が並ぶ。
レコードとCD、プイレイヤーと大きなスピーカー、ここは、まるで音楽をするための部屋の様だね…
チェロが3つ…バイオリンが2つ。立てかけられている。
北斗の背中に手をあてて、俺の方を見つめる美しい母親。
「この子が北斗です。今7歳です。先生には、この子の音楽教師をお願いしたいと思っています。バイオリン、チェロ、ピアノ…今の所はその3つをご教授ください。実力は、聴いて頂けたら分かると思います。それでは、よろしくお願いいたします。」
そう言うと、北斗を置いて母親は部屋を出て行く。
残された北斗と見つめ合う。
大きくレースのカーテンが揺れて、ピアノの上の楽譜がめくれる。
「…理久と言います。よろしくね。北斗君。」
俺がそう言って笑うと、あの子はツンと鼻をあげてそっぽを向く。
これは…一筋縄ではいかなさそうだ…。
「…じゃあ、ピアノを弾いてみようか…?」
そう言ってジャケットを脱いで彼の傍に行く。
口を開けて俺を見上げて、何がそんなに珍しいんだ…
「ほら、ここに座って、聴かせてくれ。」
俺はそう言ってピアノの椅子の後ろに立つ。
彼は口を閉じてフンとするとツカツカと近づいて来て、ドスンと椅子に座る。
全く、躾けのなってない子なのか…?
こんなに他人に横柄で…どんな育て方をしてるんだ。
「何を弾くの?」
こちらに視線もくれないで、北斗はそう怒りながら言う。
「怒らないで、君の好きなものを弾いて聴かせて?」
彼の肩に手を置いて、優しくさする。
怒りを沈める様に、そうして撫でる。
「…」
項垂れる様に下を向いて動かなくなった北斗に、心配になって顔を覗き込む。
目に沢山の涙をためて、堪える様に体を震わせる。
その様子に、この子が俺の出現に納得していない事を理解する。
前の先生の方が良かったの?
それとも、先生に教えてもらう事が嫌なの?
泣き声を抑えて肩を揺らして泣いてるあの子の背中を撫でる。
感情が落ち着くまで、何も言わないで背中を撫でてやる。
しばらくすると、顔を上げて指を鍵盤に置いた。
…ショパン ワルツ第7番嬰ハ短調
信じられなかった。
こんな…子供の弾く曲じゃないだろ…
ハノンとか…子犬のワルツとか…そういう物が来るのかと思っていたから、度肝を抜かれる。
唖然としながら、この曲を情緒的に弾くこの子の背中を見つめる。
まるで、もう、完成されたピアニストの様だ。
この子の中にはもうこの曲が出来上がってる…
迷いもなく、自分のショパンを弾く子供の後姿に、目を疑った。
一体どれほど練習したんだ…。
ピアノを弾き終えると、椅子から立ち上がって美しい姿勢でお辞儀をする。
まるでそこまでが演奏の様に、自然とそうした。
赤い目元がまるで化粧でもしたかのように、彼の表情を彩る。
凛とした、美しい、人を寄せ付けない気高さを感じて、たじろいだ。
取ってつけたような拍手を送ることも出来ないで、お辞儀をした彼の前で立ちつくした。
これは…凄い子供の教師になってしまったかもしれない。
「北斗君…驚いたよ。凄く美しいショパンだ。こんなに繊細に情緒を込めて演奏が出来るなんて…君は…一体どれだけ練習したんだい?」
俺の問いに北斗は何も言わないで、俺の目の前を通り過ぎると、おもむろにチェロに手を掛ける。
そして椅子に腰かけてチェロを抱えると、俺を見上げる。
「何を弾けば良い?」
「…君の好きなものだ。」
俺がそう言うと、彼がチェロで弾き始める。
体の大きさと比較すると、それはまるでコントラバスのように大きいチェロ。
それを彼はいとも簡単に操る。
弓を引いて、左手を目いっぱい伸ばして体全体で弾くのは、調子のいい鍛冶屋…
「信じられない!」
俺はそう叫ぶと、彼のチェロの目の前に座り込んだ。
「北斗!凄い!」
彼の小さな指が忙しなくチェロの弦を抑えて、軽快に音を抑えていく。
その姿は圧巻だ。
情緒を込めて、まるでチェロの為の曲であったかのように、ピアノの練習でよく使われるこの曲を弾いていく。
「あはは!凄いぞ!お前は自由だな…とらわれないんだな。いいよ、好きだ!」
俺は笑いが込み上げてくるのを抑えられないで、ただただ驚愕して大笑いする。
素晴らしい!
何て子供だ!
彼の口元が緩んで笑っていくのが見える。
楽しいんだ。
俺が笑うから、楽しくなってきたのか…
まるでピアノの鍵盤を忙しなく動く様に、左手の指を動かして確実に弦を抑えて、弓を巧みに操って、細かい音まで確実に拾っていく…
素晴らしい…何と言う事だ…
こんな演奏が出来るなんて…知らなかった。
美しくて、圧倒される…この選曲センスと、卓越した技巧に恐れ入る。
北斗は華麗に調子にいい鍛冶屋をチェロで弾きあげた。
「ブラボーーー!!北斗!凄いじゃないか!」
俺はそう言って、チェロの隣で澄ましてお辞儀をする彼を抱き上げると、思いきりクルクル回った。
「何て技巧だ!お前は凄い子供だ!なんて素晴らしい!」
そう言って抱きしめて頬ずりすると、ゆっくりと床に下ろした。
俺の顔を見上げて、口を開いたまま目を大きく見開いて、呆然とする彼に言う。
「こんな事、普通の人は出来ないよ?ましてや、手の小さい子供には難しいに決まってる。それをこんなに華麗に弾いて見せるなんて…俺は感動したよ。凄い子だ。凄い子だ!」
頬っぺたが痛くなる位、笑いが込み上げる。
こんな素晴らしい演奏を聴いて、嬉しくならない訳がない!
俺の顔をじっと見つめて、目で追いかけて、口元が緩む北斗の顔が可愛く笑う。
「ほんと?」
初めて聞いた、彼の怒っていない可愛い声。
「あぁ、本当だ!俺は初めて聴いた。こんな素晴らしい演奏を、初めて聴いたよ!」
そう言って笑うと、北斗も一緒になって声を出して笑い始める。
こんな顔が出来るじゃないか…可愛らしい、弾けそうな笑顔が、出来るじゃないか。
北斗は跳ねる様にバイオリンを取りに行くと、首に挟んで弓を構えて俺を見る。
そして弾き始めるツィゴイネルワイゼン…!
何て弾き始めだ…痺れるじゃないか!
俺は急いでピアノに座ると、合わない椅子のまま彼の伴奏を弾く。
それを嬉しそうに見ながら、彼はピチカートする。
「凄い!北斗、傍においで?傍で聴かせて!」
興奮した俺が面白いのか、んふんふ言いながら北斗が近づいて来る。
彼の力強いツィゴイネルワイゼンに合わせて伴奏しながら、バイオリンを弾く彼を見つめる。
驚いたように、緊張した様に、表情をコロコロ変えながら俺の伴奏をじっと見ている。
…音楽家の両親と聞いてる。
こんな風に一緒に演奏する事だってきっとあるはずだ。
なのにどうして…
どうしてそんなに俺のピアノを気にするんだい?
「北斗、ピアノに合わせなくて良い。俺がお前に合わせるから、1人で弾いてる時のように自由に弾くんだ。さっきみたいにのびのびと曲を味わいながら、弾いてごらん。」
俺はそう言って北斗の目を見つめる。
彼は戸惑いながら首を傾げて見せる。
どうしたものか…
伴奏に気を取られて、彼の演奏が台無しになる。
近くに置いてあるヘッドホンを手に取ってバイオリンを弾く北斗の耳に付ける。
そしてピアノを見せない様に後ろを向かせて弾かせる。
この子は慣れていない。一緒に弾くことに慣れていないんだ。
だからそうして耳を塞いで、伴奏を続ける。
邪魔しなくなった音と視界に、北斗の演奏が神がかり始める。
こんな風に弦をならせるなんて…センスなのか…それとも練習量なのか…
いったいどんなことをしたら、子供にこんな哀愁を漂わせるような音色が出せる様になるんだ…
いままで受け持った8歳と違う。12歳でもこんな演奏は出来ない。20歳でも…
もしかしたら…プロでも、無理かもしれない。
痺れるな…
曲のクライマックスになって、北斗の見事なピチカートが響く。
「あはは!こりゃたまげた!」
凄い…
そんな幼稚な言葉しか思いつかない。
驚いて止まりそうな手を必死に動かして、もたつかない様にピアノの伴奏を弾く。
全く、何て子供だ…
飛びぬけて上手い!
見事な技巧とセンス…卓越された演奏は熟練したバイオリニストのそれと同じ、いや、それ以上の安定感を見せつける。
何てことだ…!
かっこいい…
「ブラボーーー!!」
ピアノを弾きながら、ヘッドホンを付ける彼にも届く声で喝采を送る。
弾きならすその音色は、プロ顔負けの素晴らしい音色を響かせる。
一体、お前は何者なんだ…
こんな事、普通、出来ないだろ!
お前は人間じゃないのか?
子供じゃないのか?
バイオリンを握って一体何年なんだ!
曲を弾き終えて、俺はピアノに座ったまま脱力した。
こんな凄いツィゴイネルワイゼン…初めてだ…。
「理久…先生。どうだった?俺、上手く出来た?」
すっかりしなびた俺の肩に手を置いて北斗が聞いて来る。
俺は彼を見上げて、涙を落としていった。
「最高に、カッコよかった…感動した!」
その俺の言葉に、北斗ははち切れんばかりの笑顔になって笑う。
どうして…そんなに嬉しそうなんだ。
こんなに上手なら今までだって褒められた事くらいあるだろうに。
まるで、まるで…初めて褒められたみたいに…
どうしてそんなに喜ぶんだ…。
実際、彼は両親から演奏を誉められたことなど、一度もなかった。
だからあの時、あんなに嬉しそうに笑って…泣いたんだ。
哀しき孤高のバイオリニスト…
いや、哀しいひとりぼっちの子供。
そんなあの子に…欲情して、犯したいなんて…
そんな蛮行…絶対してはいけないんだ。
俺を信用して、俺に縋るあの子に…そんな事、絶対にしてはいけないんだ。
情けない…
自分が情けない。
本能に負けて、抱いてしまえば良かったなんて…犯してやりたいなんて。
寂しい気持ちを利用して…埋められない愛情をあげるなんてそそのかして…
そんな事を思う自分が、情けなくて仕方がない。
次の日
「理久、どうして昨日は帰っちゃったの?怒ったの?」
「違うよ。さぁ、北斗。今日は昨日の続きをしようじゃないか。」
俺はそう言って教則本を手に取って、ページを開く。
俺の体に纏わりついて、表情を見ようと必死に見上げてくる。
怒ってなんていないのに…心配なんだ。
「技巧も、テンポも、完璧なんだよ?あと一つ、情緒が入って行けば、お前の奏でる曲は舞台のように美しく人を魅了できるんだ。分かるかい?大好きな曲を弾くときは、感情がこもるだろ?それと同じで、弾く曲一つ一つに思いを込めて行みよう?」
俺がそう笑って言うと、北斗は俺の表情を見ながら言う。
「…ん、分かった。」
彼のサラサラの髪を撫でる。
少しだけ目を瞑って、俺の手のひらの感触を楽しむように首を伸ばす、この子が愛おしい。
「じゃあ、初めから…」
俺はそう言って椅子に腰かけて、北斗を見上げる。
彼は俺を見下ろして、美しく立つと、バイオリンを首に挟む。
そして俺の目を見つめながら弓を美しく構えるんだ…
あぁ…綺麗だよ。
とっても、愛してる。
そんな感情をひた隠しにして…
羊の毛皮を被ったオオカミのまま、この子の傍にずっといたい。
もう寂しくて泣かない様に…一緒に居てあげたい。
愛してるんだ。
「今のはどんな気持ちで弾いたの?」
椅子に座りながら尋ねると、俺の顔を見て答えた。
「理久の顔が…変な顔だなって思いながら弾いた。」
ぷっ!
「ふふふ…そうなんだ。じゃあ、次は同じ曲を笑いながら弾いてごらん?」
俺がそう言うと、北斗は弓を構える。
そして不自然な笑顔になって笑いながら弾き始めるから、俺は変顔をして笑わせる。
弓を止めないで、俺を見つめて笑いながら弾き続ける。
ね?音色が違うだろ?
北斗が俺を見つめて、目で言う。
音色が違うって目で伝えてくるから、俺はそれを見て、うん。と頷く。
感情は音色に反映するんだ。
だからもっと情緒を育てて、素晴らしい演奏家になるんだ。
楽しい事をもっと経験しようね。
もっといっぱい笑って、もっといっぱい楽しんで、素敵な音色を出すんだよ。
俺の大切な愛する子供。
「理久、明日は何を弾くの?」
「そうだな…パリの特別講演では、コンクールで弾いた曲を弾いて、もう1曲好きなものを弾いて良いらしいから…それを選ぼうか?」
帰り支度をしながら北斗にそう言う。
俺のコートを手に持って離さない北斗を追いかける。
牛歩のように遅いのに、ちょこまかと動き回るから、なかなか捕まえられないで、息が切れる。
「北斗…コート返して。」
「やだ!まだ、いて…。まだ一緒に居てよ。」
そんな事言うなよ…
俺だって…ずっとお前の傍に居たいんだから…。
「また明日来るから、ね?外は寒いよ。コートが無いと帰れない。」
俺がそう言って立ち止まると、じっと俺を見つめて近づいて来る。
まるで野良猫の様に、俺が動かないのを確認して近づくと、そっとコートを背中に掛ける。
そのまま俺を正面から抱きしめて言うんだ…
「帰らないでいたら良いのに。ずっと一緒に居たら良いのに…」
あぁ…北斗
「そういう訳にはいかないよ。干しっぱなしの洗濯物を取り込まなくちゃ…」
俺はそう言って彼を抱きしめる。
「何個も電車に乗るの?」
「そうだよ…何個も電車に乗って、駅から離れた場所の家まで歩くんだ。」
「タクシーだったら近いの?」
「タクシーでも遠いんだよ。」
俺はそう言ってあの子の関心を家から逸らす。
どうしても俺の家に来たがるのはなんなんだ…
家になんて上げたら今の自分は何をするか分からないから、絶対にダメだ。
「どうして?」
「ん?」
「どうして近くに居てくれないの…?」
俺の腹に顔を埋めて、北斗が呻いて泣く。
俺は彼の髪を撫でて、感情が落ち着くのを待ってあげる。
「遠くに…住んでるからね…」
そう言って、優しく髪を撫でる。
愛してるよ。
とっても、愛してるんだ。
「理久なんて嫌いだ…」
そう言って手を握って玄関まで一緒に付いて来る。
電気の付いていないリビングの電気を付けてあげる。
「じゃあ…また明日来るね。」
靴を履いて振り返ると、悲しそうに俺を見つめる2つの可愛い瞳。
愛おしいよ。
このまま連れて帰りたい。
出来る事なら…ずっと傍に居たいよ。北斗。
玄関の扉を出て、後ろに視線を感じたまま歩き始める。
振り返ってはいけない。
心が折れてしまうから、振り返らないで、帰路につく。
自分の頬に涙が伝うのが分かる。
離れたくないさ…俺だって、離れたくない。
愛しくてたまらないんだ。
きっとあの子は今日も1人でご飯を食べるんだ…
暗い部屋の中で、1人で、パンを食べるんだ…
目を固く瞑って涙を落とす。
可哀想だ…俺の北斗が…可哀そうだ。
あの子は寂しがり屋で、甘えん坊なんだ…ずっと傍に居てやりたい。
ずっと世話をしてやりたい…
誰よりも傍に居たい。
きっと泣いてる。
泣いてる…
泣いてるんだ…
パリへ行く当日
「じゃあ、理久先生。よろしくお願いします。」
「はい。着いたら電話で連絡をします。行こう。北斗。」
「ん~。」
大きなスーツケースを持って北斗が俺の手を握る。
冬のフランスはそこそこ寒い。
俺は玄関から彼のニット帽とマフラーを取ると、自分の鞄に入れる。
「では行ってきます。」
そう言って手を繋いで二人で歩く。
「理久?楽しみだね?」
そうだね。
でも、俺は少し不安なんだ…
お前と一緒に泊まるから。不安なんだよ。
いつも1人になると脱いでいる羊の毛皮を脱がずにいられるか、不安なんだ。
「北斗、タクシーで行こう?」
俺はそう言ってタクシーを停める。
タクシーのトランクにスーツケースを2つ入れて、閉める。
後部座席にあの子と一緒に乗って、あの子の為に窓を開ける。
走り出す車の中で、風を顔に受けて北斗が笑う。
可愛い…
「理久?羽田空港?成田空港?」
「羽田だよ。」
俺がそう言うと、北斗は嬉しそうに言う。
「近い!」
まあね…成田に比べると断然、都内からは近いだろう。
そんなに車に乗ってるのが嫌なの?
全く…可愛いな。
俺の手を握って、窓の外を眺め続けるあの子の後姿を見ながら、ずっとこうしていられたら良いのにと、願ってしまう、変態の俺がいる。
「理久?スーツケース預ける?」
子供の癖に良く知ってるな…
「うん。そうだね。」
俺はそう言ってチェックインカウンターへ向かう。
北斗の航空券と一緒に出して、スーツケースを預ける。
彼の赤いスーツケースには変なステッカーが貼ってあって、ドイツ語で“原発?要らないよ”…って書いてある…
何てパンチの利いたステッカーを張ってるんだ…というか誰からもらったんだよ。
「理久~?見て見て~?」
そう言って彼からパスポートを受け取る。
「北斗、航空券も俺に渡しておいて…無くしたら大変だから。」
俺はそう言って、彼から重要なものを全て預かる。
飛行機が到着するまで空港のラウンジへ行く。
「理久!あれ、食べても良いの?」
北斗が食べ物に反応して走って行ってしまう。
俺はそれをトボトボと追いかける。
こんな平日はビジネス客か、観光を終えた海外のツーリストくらいしかいない。
そんな中、不自然な組み合わせの俺と北斗…
俺達は、親子にでも見えるんだろうか…
「理久。ラーメンが食べられるよ?」
そう言って、ラーメンを持って歩いて来るから、近くの席に腰かけて彼の為にお水を用意してあげる。
「これ、全部タダなんだよ?」
やめなさい…
全く、食い意地が張ってるんだ…
「ほどほどにしなさいね。」
俺はそう言ってコーヒーを取りに行く。
パリか…
どこのホールでやるんだっけ…
知り合いに会うかもしれないな…北斗を紹介してやろう。
きっと驚くに違いない…。
俺がコーヒーを持って席に戻ると、彼は2杯目のラーメンを食べていた。
「もう、それくらいにしておきなさい。」
俺はそう言って注意して、北斗を見る。
彼はニコニコ笑いながら言った。
「これ、3杯目~!」
全く…
何しに空港に来てるんだよ。
預かった大切なものを鞄から取り出して、確認する。
「北斗、パスポートが分厚いの何で?」
「ハンコがいっぱいだから。」
ハンコ?
俺は彼の分厚くなったパスポートを開いてみる。
写真の彼は今よりも幼くて、可愛らしい。
でも、既に美しかった。
中を開いてみると、出入国する際に押されるスタンプのページが増やされている…
「何だ…お前は海外に行き慣れてるのか…」
俺はそう言って、口を開けて北斗を見る。
彼はラーメンを食べながらニコニコ笑顔で言う。
「お父さんの友達とか、お母さんの友達の所に行く~。」
「家族で?」
「ん、1人で。」
全く酷い物だな…
彼のパスポートに航空券を挟んで鞄にしまう。
北斗は3杯目のラーメンを食べ終えると、俺の顔を見て言った。
「ちょっと小さいんだ、だから3杯も食べたけど、本当は1杯分くらいしか食べてないよ~?」
そう言って眉をあげて見せる。
全く…
「今日は随分と機嫌が良いじゃないか…?」
俺はそう言ってあの子の頬を撫でる。
滑らかで柔らかい頬。
北斗は俺を見るとにっこりと笑って言う。
「だって、理久と行くの、楽しみにしてたんだもん~!」
そうか…それは光栄だよ。
「まだ時間があるから、ゆっくりしていよう?」
そう言ってソファの席に移動する。
俺の後ろを楽しそうにスキップして付いて来る北斗がかわいい…
どうしよう…こんな可愛い子。どうしよう。
変態が疼きそうになるから、俺はなるべく前だけを見た。
ソファに腰かけて携帯を弄ると、隣に北斗が座って俺の膝に寝転がる。
「靴を脱いで?」
俺がそう言うと、足で靴を脱いでクッタリと甘え始める。
可愛いんだ…
「理久?寝ても良い?」
「良いよ。」
俺はそう言って北斗の髪を撫でる。
まるで可愛い猫を撫でるみたいに、優しく撫でる。
目を瞑ってスースーと寝息を立てる北斗を見下ろす。
手に持った携帯を下ろして、彼の頬を撫でる。
髪を掻き分けて、おでこを撫でる。
「可愛い…」
声に出して呟いて、ハッと我に返る。
こんな無防備な北斗をじっと見つめるのは危険だ…
俺は携帯で意味もなく、現地の天気予報を入念にチェックする。
このままフランスへ一緒に行くんだ。
愛しの北斗と…二人きりで。
それは楽しい旅行の様で、今にも叫びたいくらいに高揚する気分を必死に抑える。
この子と二人で…
彼を見下ろす口元が自然と緩んで、微笑んでしまう。
搭乗ゲートから飛行機に乗る。
コンクールの1位を取った特典で、ビジネスクラスでフランスまで行けるなんて…
飛び立った飛行機の中、隣のシートをゆったり倒して、ゴロンと寝転がる北斗を見る。
「理久、映画見たい~。」
俺にそう言ってリモコンを渡す彼。
自分で出来るだろうに…全く
「何を見るの?」
俺はそう言って彼の為に映画を選んであげる。
フランス、シャルルドゴール空港まで羽田から大体13時間…
俺は寝るとしよう…
俺がシートを少し倒して寝る体制になると、北斗が俺を気にし始める。
「どうしたの?」
そう聞くと、北斗は手を出して言った。
「握ってて…?」
なんて…可愛いんだ。
「良いよ。」
俺はそう言って、彼の小さな手を握る。
あぁ…なんだこの高揚した気持ちは…
寝れない…寝られないよ。
こんな可愛い手を握ったままでは、寝られない。
毛布を受け取って、自分の体に掛ける。
「理久?ねぇ…理久?」
目を瞑ったばかりなのに、体を揺すって起こされる。
目を開くと目の前に北斗が居て、俺を見つめている。
「どうしたの…映画は?」
「やだ…寝たらやだ…」
何てことだ…
昨日興奮して何回も抜いて、あまり眠れていないのに…
寝てはいけないだと!?
それは…どんな縛りプレイなんだ…はぁはぁ…
はっ!
いけないいけない…!
「…北斗、少し寝かせてくれよ…頼む…」
俺はそう言ってまた目を瞑る。
「理久…理久…」
北斗は俺の名前を呼ぶと、俺の膝の上に跨って、体を落としてくる。
そして、斜めに寝る俺の体に、脱力して、ぴったりと体を密着させた。
「北斗…」
「じゃあ…俺も一緒に寝るもん…。」
なんて…事だ…
少し余裕のあるビジネスクラスのシートに、俺と向かい合う様に抱きついて、眠り始める北斗。
それは一歩間違えれば騎乗位…いや、言い換えれば騎乗位だ!!
毛布を貰っておいて良かった…
彼との間にある1枚の毛布が、俺の理性を繋いでくれた…
「理久…俺もお布団被りたい…」
そう言ってゴソゴソと俺の毛布を剥ぎ取って、自分の体に掛ける。
そのまま俺の体に落ちて、俺の胸に頬を添わて、俺を見上げて…
にっこり笑わないで…!
北斗の体の熱が俺に伝わって、俺のいけない部分が興奮し始める。
両手をわななかせて耐えるけど、北斗の口から洩れる熱い息が、俺の胸に掛かって熱くする。
「自分の所で…寝なさい…」
精いっぱいの理性でそう言うけど、胸に顔を置いた北斗は知らん顔する。
俺の胸に手の平を置いて、優しく撫でて、頬で俺の胸を撫でる。
可愛い…ダメだ…
俺は両手でシートを掴んで、顔を仰け反らせる。
見ない!触らない!感じない!
俺は石になったんだ…石になったんだ!
「理久…あったかい…」
やめてくれ…!!
どんどん脱力していく北斗の体が横に落ちていきそうになる。
「おっと…」
咄嗟に手で受け止めて、抱きしめる。
あぁ…なんて事だろう。
俺の胸の上で、すやすやと寝息を立てて可愛い寝顔で眠る北斗…
これは…慈愛なんだ。
邪な物じゃなくて…子供への慈愛なんだ…
そう言い聞かせて、北斗を胸の中で抱いて目を瞑る。
丁度いい位の圧迫感と重さを体に感じて、あの子の髪を優しく撫でる。
母親と同じように子供を抱いて、寝ているだけなんだ。
そうだ、お母さんだ。
お母さんは子供に欲情したり、しない。
寝顔を見て、欲情するよりも先に優しい気持ちになった。
まだ、自分は思ってる以上に、彼を慈愛の心で見ているんだ…
だから、きっと、大丈夫。
オオカミは出てこない。
羊のままで、この子を胸の上で寝かせてあげられるだろう…
そうだよね…
頭の中に流れ始める、調子のいい鍛冶屋…
なぜ今、この曲なんだ…
ただ、そのピアノの旋律を目を瞑って、追いかける。
頭を空っぽにして、細かく動く旋律に集中して、音を追いかける。
頭の中に、軽快に働く鍛冶屋が現れる…
トンテントンテンと鍛冶を打つ。そのリズムはこの曲と同じで、まるでこの曲を彩る楽器の一つの様に、音を鳴らす。
その隣に可愛い北斗がトコトコと歩いて現れる。
「俺は鍛冶なんて打たない!代わりに、ピアノを弾こう。」
なんて奴だ…頭の中でも言う事を全然聞かないんだ…
そうして、鍛冶屋の隣、突然現れた木目の美しいアップライトピアノで弾き始めるのは、調子のいい鍛冶屋。
悪夢の様だ…
幾重にも重なった調子のいい鍛冶屋が頭の中でグルグルと回る。
目の前でピアノを弾く北斗の隣で、鍛冶屋が鍛冶を打つのを止める。
おもむろにピアノの椅子に腰かけて、俺の北斗を抱きしめる。
だめじゃないか…その子に触れてはダメじゃないか!
鍛冶屋なら一生鍛冶でも打ってれば良いのに、なんでその子に触るんだ!
「理久…触られた…でも、凄く気持ち良かったの…」
そう言って俺の目の前に現れて、触られた胸元を見せる。
あぁ…何てことだ。
俺は手を伸ばして、彼の胸を撫でる。
指先に触れる彼の素肌が吸い付く様にしっとりと濡れる。
「北斗…良いのかい?」
俺がそう聞くと、彼はにっこりと微笑んでブラウスのボタンを開け始める。
あらわになった彼の胸に可愛い乳首が見えて、俺はそれを指で撫でる。
まるで感じてるみたいに体を捩って、俺を潤んだ瞳で見下ろすと、腰をゆるゆると動かし始める。
なんで…そんな事知ってるの…
そんな疑問はどうでも良くて、ただ、目の前で俺を挑発する可愛い天使に、目を奪われる。
膝に彼を乗せて、彼の腰を掴んで、離さない覚悟をする。
自分の勃起した股間に押し付けて、ゆるゆると動く彼の股間で自分のモノを刺激する。
口から洩れる喘ぎ声がミュートなのはどうして…
でも、口を歪めて気持ちよさそうに体を仰け反らす北斗は、美しい。
そして、うっとりした顔を俺に寄せて言うんだ…
「理久~!お肉とお魚どっちにする~?」
ん?
目を覚まして体を起こす。
北斗は自分のシートに戻って、ちゃっかり肉の機内食を摂っている。
俺の目の前でしゃがんで微笑む搭乗員。
ぼんやりした顔のまま彼女に言った。
「魚で…」
なんて夢を見たんだ…
夢から覚めたのに、調子のいい鍛冶屋が頭の中をぐるぐる回る。
「理久はいびきはかかないけど、変な笑い声を出して寝ていた。不気味で面白かったよ?」
北斗はそう言って俺の顔を見てケラケラ笑う。
冗談じゃない。あんな試練に耐えたんだ。
褒められるべきだ。
俺は北斗から視線を外すと、ぼんやりしたまま機内食を摂る。
時計を見ると、飛行機に乗って10時間は経過してる。
そんなに寝たのか…普段でもそんなに寝ないのに。
昨日張り切ったから…疲れていたのかな…
そう思いながら機内食を口に運ぶ。
隣の北斗が俺の料理を覗き込む。
全く…彼はラウンジで3杯もラーメンを食べてるんだ。
なのに、こうやって人の食べ物を欲しがるんだ…
「どれが食べたいの?」
俺がそう聞くと、にっこり笑って言う。
「ポテトちょうだい?」
俺はフォークで差してあの子の口へ運ぶ。
「はい、あ~ん」
俺がそう言うと、嬉しそうにんふんふ笑って口を開ける。
可愛い…
この笑い声も、甘ったるい話し方も、幼稚な物言いも、全て愛おしい。
「美味しい?」
俺がそう聞くと、大きく頷いて、視線は次の食べ物を探す。
全く…食い意地が張ってるんだ。
「次はどれが食べたいの?」
「…お魚」
メインディッシュだぞ?
俺は彼の為に魚を小さく切って、口へ運ぶ。
「はい、あ~ん」
俺がそう言うと、んふんふ笑って口を開ける可愛い北斗。
夢の中のお前はめちゃめちゃエロかったよ…北斗。
きっとバイオリンを弾いてる時の、凛としたお前が現れたんだ…
その目つきは凛として、美しかった。
甘くてとろけるお前も好きだけど、俺は壇上でバイオリンを弾く華麗なお前も好きなんだ…
孤高のバイオリニスト。
その陰に強さと努力があることを俺は知ってるよ。
才能じゃない。センスなんてフワフワした物でもない…
それはお前の血と汗と涙の結果なんだよ。
だから自信をもって、自分を誇りに思うべきなんだ。
誰よりも努力し続ける自分を好きになるべきなんだ。
つまみ食いに満足したのか、北斗は映画に戻った。
彼の横顔を眺める。
強くなるんだよ…北斗。
俺の愛しい、北斗。
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