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第11話
「――と、俺が言うとでも思ったか?」
布団ごと、翔琉は俺自身をそっと背後から優しく抱き締める。
「えっ?」
布団の中で俺は、翔琉の耳へ届くか届かないか程度の小さな驚きの声を上げた。
「生憎、今日の撮影は遅れていっても大丈夫なシーンなんだ」
優しく俺の手を解き、翔琉は布団をめくると剥き出しとなった項へ――以前、番の契約を結んだ証が遺っているだろう場所へとキスをする。
くすぐったいその感覚に、俺の肩はびくっと大きく上下した。
だが、翔琉は構うことなく歯型の痕をなぞるように、ピチャピチャと舌を這わせていく。
自分で見たことはないが、もしかすると本当にそこへ痕が遺っているのかもしれない。
躊躇うことのない翔琉の舌遣いに、俺はそれを察する。
「ひゃん……!」
生温い舌の感触に、ようやく俺の身体はゾクゾクと快感が芽生えていく。
「それに今日はホワイトデーだ。颯斗からのお返しを期待しても――」
舌を這わながら尚も、翔琉は平然とした口調で言葉を続けた。
「いい、だろうか?」
いつの間にか、翔琉の両手がルームウェアの裾から侵入し、俺の胸の突起を弄ぶ。
「あっ……ァああ」
ビリッと甘い衝撃がそこへ走った。
何だか、いつもより刺激に敏感なような気がする。
ど、どうして……?
独り困惑していると、翔琉はいつもと違う触り方をしてみせた。
まるで俺の胸が隆起しているように掴み、やんわりと揉む。
「ひゃっ……ン……やっ……ァああ」
翔琉の手の動きに合わせ、俺は喜悦の声を上げる。
「――颯斗、もしかして……太った、か?」
弄るような手付きで俺のソコへ触れている翔琉が、申し訳なさそうに言った。
「……え?」
予想外の指摘をされ、俺は訝る。
俺、太った……の、か?
全く自覚症状はなかった。
翔琉と共に過ごすようになり、贅沢を覚えたから?
甘やかされていたから?
それともここ最近、自転車に乗らなくなったから、身体が弛んだ?
太った俺は――もしかして、翔琉は嫌い?
次第に俺は、青ざめていく。
「……何だか、颯斗の胸――いつもより柔らかくて、その……少し、ふっくらしているんだが……」
俺自身も感じていた具体的な変化を口にされ、疑惑は確信へと変わる。
嫌だ。
どうしよう。
元々、翔琉は女性の方が好きだったし。
こんなにもだらしない男の身体なんて、翔琉は絶対に好きじゃ、ないよ……な?
こと、体型に関しては特にストイックな翔琉がこんな俺に、欲情などしてくれる訳はないだろう。
俯きながら嘆息した俺は、不意に仰向けにされる。
翔琉に押し倒されたのだ。
透き通ったグレーの瞳に射抜かれるように、俺の目と翔琉の目が合致する。
ドキッとした。
いつ見ても美しい、外国(よそ)の国の血が混じったそれは、最高級品の瞳だった。
だが、同時にその瞳の奥は今、何を思ってこちらを見つめているのだろうか。
緊張から吐き気を催す。
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