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第12話

「――顔が青白い。大丈夫か?」 見つめ合ってからの翔琉の第一声は、俺への心配だった。 正直、気分は最高に悪かったが悟られたくなくて俺は平静を装う。 もし、余計なことを口走ってこれ以上の墓穴を掘ってしまったら嫌だ。 翔琉に、捨てられたくない。 花凛ちゃんが貸してくれたオメガバースの話には、一方的にαからの番の解消はできるとあったっけ。 そもそも俺、自分はΩとかそんなのではないと思っていたけれど。 項に咬み痕が遺っているのであれば、いつの間にか俺はΩになってしまっていたのだろうか。 突然変異ということもある。 そう花凛ちゃんは言ってたっけ。 「だ、大丈夫……です」 気丈に振る舞って見せる俺に、今度は翔琉が怪訝そうな顔をした。 「そう言えば、ここのところ俺の誘いに乗らず、すぐにベッドへ入っているな」 身体の変調、翔琉に気が付かれている……。 ハッと俺は息を呑む。 「何故、だ?」 眉間に皺を寄せ、翔琉は俺に迫った。 「そ、そうでしたっ……け?」 内心、酷く焦っていたが乾いた笑みを浮かべ、何とかその場を誤魔化そうとする。 剣呑な表情を浮かべる翔琉に、俺は全てを見透かされているのではと思った。 何を思ったのか、唐突に、俺のルームウェアの前を翔琉は勢い良くめくる。 「うわっ!」 思わず条件反射で声が出る。 本来、男だから恥ずかしいも何もないはずだ。 しかし、太ったと大好きな恋人に言われてしまったら、やはりその醜い身体は見せたくないというのが心情である。 咄嗟に俺は、胸を両手で隠した。 「何故、今更隠す?」 不機嫌そうに翔琉は言う。 「だ、だって! 俺、太ったかもしれないんですもん! そんな身体、好きな人に見せられませんから!」 悲鳴を上げるように、俺は捲し立てる。 目の前の男は、大きな溜息を一つつく。 呆れられたのかな。 俺はそう思った。 「こんなにも長い付き合いなのに、まだ颯斗は俺にそんなことを言うのか? 互いに見せ合ってないところはないくらい、もう隅々まで俺たちは知り尽くしているだろう? 太ったくらいでどうだと言うんだ」 だからほら、と翔琉は手を離すよう優しく諭す。 往生際悪く、胸を隠したまま翔琉のことを唸るように見つめていた俺に、「ほうら」と、再び翔琉は優しく声を掛けた。 ううっと、歯痒さを見せる俺に、 「――颯斗の今の胸の触り心地……俺は、結構好きだけどな」 と、翔琉は告白する。 ようやくそこで、俺は頑なだった心と同時に隠していた手も解いていく。 「……!」 目の前の翔琉の顔が感嘆の表情を見せ、その視線の先が胸の膨らみへと集中するのが分かった。 ドキドキしていた。 本当に、太った俺も――翔琉は愛してくれるのだろうか、と。 だが、息遣い荒い翔琉の反応に、それは杞憂であるのだと俺は知る。 興奮しているのだ。 間違いなく、誰もが憧れる超人気俳優の龍ヶ崎翔琉が、だ。 少し丸みを帯びたらしい俺の身体に、目の前の翔琉は明らかに頬を上気させ、グレーの瞳を情欲でギラつかせていたのだった。

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