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第16話

眩いショッキングピンクが眼前に現れ、それが昨年、俺が翔琉の誕生日にプレゼントしたパンツであることを知る。 ちゃんと履いてくれてたんだ。 でも、ソレ……! 感激して目を見張るのと同時に、濃い色に染まったソコを目にし、俺は小さく息を呑む。 隠れているのに……厭らしい。 否、隠れているからなのだろうか。 想像力がより掻き立てられる。 今、翔琉のあの中がどんな状態なのか。 隠れたモノが飛び出した後、それがどうやって俺の内を蹂躙するのか。 視覚、嗅覚、聴覚――その全てがはっきりと翔琉自身を記憶しているのだ。 豊かな想像力のせいで胸を高鳴らせ、俺はギュッと目を瞑る。 鬱陶しいとばかりに、翔琉は上に着ていた黒のカットソーも脱ごうと裾をたくし上げていく。 携帯電話の着信音が、それを遮るように鳴る。 一瞬、翔琉の手が止まった。 鳴り止まぬそれは、間違いなく翔琉の脱いだばかりのデニムから聴こえてくる。 「……翔琉? マネージャーさんからの電話、じゃ、ないんですか……?」 今からようやく、というところで邪魔をされた翔琉は、言葉の代わりに憤怒の表情を浮かべていた。 「仕方ない、ですよ。だって、元々今日……仕事でしたよね?」 正直、俺だって残念だ。 だが翔琉は仕事をしている社会人で、ましてや、誰もが共に仕事をしたいと思わせる実力を持つ、超人気俳優だ。 明日はいよいよ翔琉の誕生日で、夜は俺の為に予定を開けてもらっているのだから。 大きく翔琉は舌打ちをすると、頭を乱暴にガシガシと掻き、デニムのバックポケットへ手を伸ばす。 「はい、俺だが」 電話から洩れ聞こえる大声から、慌てふためく真面目な男性マネージャーの姿がはっきりと想像できた。 「否、今日の撮りは遅くても良いかと思って……と言うか、これから」 冷静に返す翔琉は、そう言って俺へ目配せをする。その意味が分からず、俺は首を小さく傾げた。 「少し待って下さい」 翔琉は受話器の向こう側へ断りを入れると、そこを手で塞いだ。 「今更だが、体調――大丈夫か?」 囁き声だったが、明らかに心配そうな声色で俺に問うた。 「病院行くか?」 今であったらまだ、遅刻する旨を伝えられるが。翔琉はそう続けたが、すっかり気分も良くなった俺は、「大丈夫」と笑顔で答える。 むしろ、今、重病なのは翔琉のそのショッキングピンクの中のモノではないのかとさえ、思ってしまう。 「翔琉が傍にいてくれたお陰で、すっかり良くなりました。だから、お仕事頑張って来てください」 中断されたことは残念だが、やはり仕事は大事だ。俺は微笑んで見せる。 「――颯斗」 物欲しそうに見下ろす翔琉に、俺の母性本能は擽られた。 俺、男なのに。 何故? それでも、俺は翔琉をよしよしと宥めるように送り出すことにした。 「それに俺も、お昼からバイトですし。明日の夜は、その――翔琉のお誕生日、一緒にお祝いできるので……今から楽しみにしていますので」 「……颯斗、すまない。俺は、なんてできた恋人を持ったんだろう。嬉しいが、もっと嫌がって引き留めてくれていいんだぞ?」 拗ねるように、翔琉は俺の肩へ顎を乗せる。今度はその頭をポンポンと優しく撫でると、俺は苦笑しながらこう続けた。 「ワクワクして待つ時間が長い方が、もっと当日、楽しみが増えるでしょう? 明日までの我慢じゃないですか。さあ、シャワー浴びて仕事へ行って下さい。俺もその後で、シャワー浴びますから」 名残惜しそうに俺は翔琉をギュッと抱き締める。慌ててその後、翔琉は電話を切り、シャワーを浴び、下で長時間待たせていたマネージャーの元へ降りて行ったのだった。

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