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第20話

「あの、その前に……聞いて欲しい話があるんです!」 捲し立てるような、それは間違いなく勢いであった。 いつまでも思い悩む俺には、もうそれでしか伝える術がないのだ。 「――話? 何だ、俺の誕生日の件か? 明日ならば、一日……」 「明日はディナーを予約しましたが、その件ではなくて――その、もっと大事な話があるんです」 すくっと俺はその場へ立つと、真剣な眼差しで、近くになった翔琉の顔をじっと見つめた。 めずらしく翔琉は息を呑む。 唯ならぬ俺の気配を察したのだろう。 「その話――明日が終わってからでは、ダメなのか?」 焦りを一切表に出していなかったが、翔琉の手はギュッときつく身体の横で握られていた。 緊張しているのだ。 「ダメです。今じゃ、ないと」 自身にも言い聞かせるように俺は言うと、リビングのロウテーブルへ放り出されていたドラッグストアのレジ袋を取りに行った。 タワーマンションということもあり、一部屋自体の面積がとても広大だ。 だからこういう時、俺は少しの不便さを感じてしまう。 視線が痛いほどその背中に突き刺さり、怪訝そうに翔琉が見つめているのが分かる。 戻って来た俺は、その袋の中から長方形の小さな箱を取り出す。 既にそれは開封済のもので、その中にあるものを俺は翔琉に見せたかったのだ。 不思議そうな顔をして、翔琉は一連の流れ様子を黙って見守っている。 「――それは?」 手早く中に閉まってあったものを取り出すと、翔琉の問い掛けに答えるように眼前へそれを突きつけた。それから俺は、一度すぅと大きく息を吸うと、覚悟を決めたように口を開いた。 「デキた――みたいなんです」 「……え?」 言葉を失った翔琉に、俺はもう一度事実を告白し直してみせる。 今度は、言い方を変えてだ。 「だから、翔琉、が、パパになるんですっ!」 翔琉の右手を取り、俺は言う。 「――あ」 放心状態の翔琉は、この重大な言葉の意味を理解できたのだろうか。 不安を感じた俺は、困惑した表情で見上げた。 「えっと――俺、今朝も言ったが、もう颯斗以外、本当に誰とも寝てはいないのだが……」 真摯に告白する翔琉に、俺は言葉の内容が上手く伝わっていないことを知る。 「違うって! だから、俺たち二人の子がここにいるんですってば!」 握っていた翔琉の手を、まだ何の膨らみもない、だが世界一愛おしいものが宿った腹部へと導く。 「あ、えっと……つまりは……その、颯斗が――妊娠した、ってことか?」 耳から入って来た事実を確認するように、翔琉は一語一語ゆっくりと述べた。 信じられないのも分かる。 俺だって……。 検査薬でくっきりと浮かび上がった縦線を認めるまで、独り葛藤し、信じ難かったのだから。 言葉だけの報告では、父親になる実感など全く持って湧かないだろう。 やはり、翔琉は信じてくれないだろうか。 否、そんなこと……ないよな? だって、俺のことをいつも一番に。 大切に、想ってくれている翔琉なのだから。 きっと大丈夫。 全ては上手くいく。 様々な想いが頭の中を逡巡する。 だが、最終的には幸せな未来をそこへと描き、俺は黙って頷くことで、翔琉の次の出方を待つことにしたのである。

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