20 / 82
第20話
「あの、その前に……聞いて欲しい話があるんです!」
捲し立てるような、それは間違いなく勢いであった。
いつまでも思い悩む俺には、もうそれでしか伝える術がないのだ。
「――話? 何だ、俺の誕生日の件か? 明日ならば、一日……」
「明日はディナーを予約しましたが、その件ではなくて――その、もっと大事な話があるんです」
すくっと俺はその場へ立つと、真剣な眼差しで、近くになった翔琉の顔をじっと見つめた。
めずらしく翔琉は息を呑む。
唯ならぬ俺の気配を察したのだろう。
「その話――明日が終わってからでは、ダメなのか?」
焦りを一切表に出していなかったが、翔琉の手はギュッときつく身体の横で握られていた。
緊張しているのだ。
「ダメです。今じゃ、ないと」
自身にも言い聞かせるように俺は言うと、リビングのロウテーブルへ放り出されていたドラッグストアのレジ袋を取りに行った。
タワーマンションということもあり、一部屋自体の面積がとても広大だ。
だからこういう時、俺は少しの不便さを感じてしまう。
視線が痛いほどその背中に突き刺さり、怪訝そうに翔琉が見つめているのが分かる。
戻って来た俺は、その袋の中から長方形の小さな箱を取り出す。
既にそれは開封済のもので、その中にあるものを俺は翔琉に見せたかったのだ。
不思議そうな顔をして、翔琉は一連の流れ様子を黙って見守っている。
「――それは?」
手早く中に閉まってあったものを取り出すと、翔琉の問い掛けに答えるように眼前へそれを突きつけた。それから俺は、一度すぅと大きく息を吸うと、覚悟を決めたように口を開いた。
「デキた――みたいなんです」
「……え?」
言葉を失った翔琉に、俺はもう一度事実を告白し直してみせる。
今度は、言い方を変えてだ。
「だから、翔琉、が、パパになるんですっ!」
翔琉の右手を取り、俺は言う。
「――あ」
放心状態の翔琉は、この重大な言葉の意味を理解できたのだろうか。
不安を感じた俺は、困惑した表情で見上げた。
「えっと――俺、今朝も言ったが、もう颯斗以外、本当に誰とも寝てはいないのだが……」
真摯に告白する翔琉に、俺は言葉の内容が上手く伝わっていないことを知る。
「違うって! だから、俺たち二人の子がここにいるんですってば!」
握っていた翔琉の手を、まだ何の膨らみもない、だが世界一愛おしいものが宿った腹部へと導く。
「あ、えっと……つまりは……その、颯斗が――妊娠した、ってことか?」
耳から入って来た事実を確認するように、翔琉は一語一語ゆっくりと述べた。
信じられないのも分かる。
俺だって……。
検査薬でくっきりと浮かび上がった縦線を認めるまで、独り葛藤し、信じ難かったのだから。
言葉だけの報告では、父親になる実感など全く持って湧かないだろう。
やはり、翔琉は信じてくれないだろうか。
否、そんなこと……ないよな?
だって、俺のことをいつも一番に。
大切に、想ってくれている翔琉なのだから。
きっと大丈夫。
全ては上手くいく。
様々な想いが頭の中を逡巡する。
だが、最終的には幸せな未来をそこへと描き、俺は黙って頷くことで、翔琉の次の出方を待つことにしたのである。
ともだちにシェアしよう!