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第21話

「もう、病院には行ってきたのか?」 グレーの瞳がやや動揺して尋ねた。 仕方がない。 それはそうだ。 俺と違って、身体でその異変を感じていなかったのだから、あんな検査薬の結果一つで、子どもができたなどとは、やはり信じ難いのではなかろうか。 翔琉に気が付かれないよう、小さな溜息をこっそりついてから喋り出す。 「明日、午前中に病院へ行って来るつもりです」 「……そうか。では、俺もそれに付き添わせてくれ。で、間違いなくそれは、俺の子を産んでくれるという意味に受け取って――いいんだよな?」 食い気味に言った翔琉の反応は、予想外のものであった。 「否、産む以外の選択肢は他にないだろう?」 「え?……俺、翔琉との子ども、産んで……いいんですか?」 とにかくそれが一番の心配ごとだった。 幾ら俺たち二人が愛し合っていたとしても、それはあくまで俺たち二人だけのことであって。 子どもがいないからこそ、成り立っていた蜜月の関係だったかもしれないのだ。 「何、言ってるんだ? せっかく授かった奇跡の命なんだ。それ以外の選択肢があって、たまるか。それに俺は兼ねてより、颯斗との子どもは双子が欲しいと言ってただろう?」 とびきりの笑顔を見せた翔琉は、俺の不安を全て消し去るように、ギュッと肩を抱き寄せた。 喜んでいる。 翔琉が、これ以上なく喜んでいるのだ。 「まあ、正直驚いたが、こうして俺の誕生日に良い知らせが聞けるなんて、最高のプレゼントになったなあ」 顔の至るところに、翔琉はキスの嵐を降らしていく。 擽ったくて、嬉しくて、甘酸っぱくて。 とにかく俺は、これ以上ない幸せを翔琉の腕の中で感じた。 この人だったら大丈夫。 やっぱりずっと俺を、幸せにしてくれる。 否、俺が――これからは翔琉と産まれてくる子ども、二人を両方ともこの世で一番、幸せにしていくのだ。 もう、一方的に愛されてばかりの子どもではないのだから。 「――正式に、俺たち――結婚しようか」 俺の頬を掴み、翔琉は鼻と鼻が密着するほどに顔を近付けた。 ドキドキが止まらない。 いよいよ、翔琉と俺が本当の意味で家族になるのだから。 「……でも、翔琉……大丈夫なんですか?」 「何が、だ?」 水を差すような俺の言葉に、翔琉は怪訝そうな顔をした。 「今まででしたら、俺とのことだけだったので世間へは隠し通せてましたが――子どもが産まれるとなると、それも、隠し切れなくなってしまうかもしれません」 悲しそうに顔を歪める俺に、何だそんなことかと、翔琉は笑って言い飛ばした。 「隠す必要などないじゃないか。俺にとって、颯斗はもうずっと大切な人なんだから。……あ、でも本音を言うと、颯斗が可愛い過ぎるから誰の目にも触れさせたくないのだが」 真剣な面持ちで翔琉は言う。 「は? 俺がいつ、可愛いくなってしまったんですか? 三十にして、超早過ぎる老眼が始まりましたか?」 焦りながら俺は返す。 「――否、だって……大抵、颯斗と一緒にいる人間は、大方颯斗のことが好きになってしまうだろう?」 拗ねた子どものように翔琉は言った。 「そんな訳! あるはずないじゃないですか! そんなもの好き、この世に翔琉しかいないんですから!」 翔琉のことを一蹴する。 「だいたい、俺は日本人の平均男性より背は高いし、本来であれば女性にモテても良いくらいなんですよっていうか、翔琉に出逢わなければそうなる未来だと思ってましたし!」 頬を膨らませ、言葉を続けた俺に、口封じとばかりに翔琉はその唇へ噛み付くようなキスをチュッとした。

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