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第22話

「ンんん……っ!」 不意打ちのキスに、俺は目を白黒させる。 絡んだ舌が離れ、最後にもう一度唇が離れる間際、レロッと舌がそっと俺の上唇と下唇を舐める。 ゾクゾクとした快感が、そこから下腹部へと直結していく。 だが、今はまだ翔琉との大事な話しの最中なのだ。 変な気を起こしてはいけない。 ましてや、俺のお腹の中には新しい命も宿っている。 「そんなことばかり言ってるから、俺は颯斗を野放しにしておくのが不安なんだ。本当は、この家に閉じ込めて俺だけのものにしておきたい」 俺の顎を掴んで翔琉は上向きにさせた。 「え……?」 驚愕する俺に、更なる翔琉の独白は続く。 「本当は、俺のテリトリーの中で過ごして欲しいし、全ては俺が選んだものの中だけで、生きていて欲しい。絶対に離したくないんだ」 いつも、俺には覗かせることない翔琉の――それは、心の奥底に隠していた確かな本音だった。 一見して、それは黒い欲望にも捉えられる。 以前の自分であれば、それは重く、確実に逃げ出していたのかもしれない。 今の俺には、その執着心がとても心地好く感じていた。 胸が甘酸っぱく、きゅんと疼く。 「だが、それではやはり――俺が好きな “颯斗”……ではなくなってしまうんだ」 悔しそうに翔琉は片眉を寄せ、苦痛に歪んだ表情を見せる。 「好きなところで、好きなことをして、色々なことで、俺のことで、一喜一憂する颯斗が……いちばん、好き――だから」 切なそうに微笑んだ翔琉を、俺はこの瞬間、大変愛おしいと感じた。 十歳も上なのに。 いつも俺を守ってくれた大切な人だというのに。 どういう訳か、この男に対して酷く愛おしいと感じたのであった。 「ありがとうございます。俺のこと、よく理解してくれていて」 満面の笑みで俺は微笑み返す。 「俺も、この子も――翔琉に愛されて、とても幸せです」 俺はまだ、何の変化もない腹部へそっと両手を充て、温かい涙を一筋溢したのであった。 「そうか」 今度は、翔琉も嬉しそうに微笑むと頬へ流れるその煌めきを優しく右手で拭う。 「俺の方こそ、俺たち二人の揺るぎない絆を授かってくれてありがとう。これで俺は、産まれくる子どもの顔を見る度に、颯斗は俺のモノなのだと、確かな絆を確認することができる」 「大袈裟な」 くしゃりと俺は笑ったが、翔琉は真剣だった。 「――颯斗、改めてここで言わせてくれ」 緊張した面持ちで翔琉は言う。 これ以上、何を彼は言うというのだろうか。 張り詰めた空気の中、俺は首を傾げ次の言葉を待った。 「既に、プロポーズは昨年のクリスマスに済んでいる。項も、元旦の夜に咬んで番契約も済んでいる」 真剣な声色で告げるその左手の薬指には、以前俺がプレゼントした安物のゴールドの指環が、相も変わらず光っている。 「一生、幸せにするから――俺と、家族に……なってくれ」 二度目のプロポーズに、俺は「はい、喜んで!」と、涙でびしょびしょの顔を笑顔で歪ませて応じたのであった。

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