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第25話
「どうやら久々に、俺の颯斗は独り思い悩んでいるようだな? 困ったなあ」
俺の思考などお見通しである翔琉は、困惑しているどころか、どこか弾むような声色で言った。
「別に俺は、何も思い悩んでなんていませんから!」
咄嗟に俺は、ムキになって反論する。
「――何だ、俺の気のせいか。元気そうで安心した」
ニヤリと笑う隣りの男に、この瞬間、俺は上手く乗せられたのだと察した。
言葉につまる俺を尻目に、翔琉は運転席のドアポケットに差し込んであったタバコケースから手馴れた様子で器用に片手で一本取り出すと、それを自然な流れで口に咥える。
ハンドルを握っていない左手で、自身のスラックスの横ポケット内を無造作に探っていた。
ライターを探しているのだろうか。
だが、翔琉はハッと思い出したようにその手を止める。
「――悪い。タバコ、颯斗と双子の身体に障るな」
心苦しい顔をした翔琉は、咥えていたタバコを素早く元のケースへと戻した。
「すみません。気を遣ってもらって」
ヘビースモーカーである翔琉の喫煙を止め、俺は少しの罪悪感を感じる。
「何、言ってるんだ? 俺たち、夫夫になったんだからそんなことで、気に病むことはない。旦那が、嫁と子どもの心配をするくらい、どこの家庭でもすることだろう?」
平然と言ってのけた翔琉は、俺にはもったいないほどの、できた旦那だ。
……ヤバい。
翔琉が優し過ぎて、惚れる。
否、とうの昔に惚れてはいるのだが、もっと翔琉に惚れてしまっている。
「それより、今夜のディナーは何時に予約なんだ? 気持ち悪くはないのか?」
心配そうに告げる翔琉に、俺はこくっと頷いた。
「翔琉が傍にいるとどうしてか、悪阻がおさまるんです。番、だからでしょうか?」
「――だとしたら、颯斗はもう俺から絶対に離れられなくなるな」
冗談ぽく言った翔琉のその言葉に、俺はたまらなく、この男への好きの気持ちが胸の奥から溢れてくる。
もちろん、翔琉のことはいつも好きである。
だが、先程から酷く翔琉の言葉が。
翔琉という存在自体が。
とにかくカッコ良くて、愛おしくて、好きで、好き過ぎて、仕方がないのだ。
どうしよう……。
今すぐ甘えたいし、手を絡めたいし、キス……もしたいし、その……ドクターストップかかっているけど、俺の方が、翔琉と――シたくなっちゃった。
かあっと顔を赤らめると、さり気なく俺は運転する翔琉の上着の裾を、物欲しそうにちょこんと掴んだ。
「颯斗?」
軽く驚いた視線を、翔琉は俺のその手へと落とした。
もどかしいこの気持ちを、今度は素直に言葉で現す。
「翔琉――好、き」
それからはもう、俺は翔琉の思惑通りだった。
酷く、離れ難くて。
シートベルトのせいで縮められない距離がもどかしくて、赤信号で隙あらば、俺から翔琉に手を絡めようとしたり、キスを仕掛けたりしようとする。
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