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第26話
「めずらしく、積極的だな」
成すがままに俺からの甘過ぎるスキンシップを受けていた翔琉の口元は、自然と綻びを見せる。
「翔琉の言う通り、かもしれません」
運転席の翔琉に向き直ると、俺は真剣な面持ちで言った。
「だって、翔琉のことが好きで――すきで、どうしようもないんですもん! 片時も離れたくないんです!」
改まって全力で愛の告白をした俺は、もしかするとマタニティハイがそうさせていたのかもしれない。
しかし、こんな時でないと翔琉に面と向かって溢れ出る素直な気持ちが伝えられない為、この際それに便乗してしまう。
口の端を少しだけ持ち上げ、翔琉は満足そうに小さく笑った。
「もう、家へ着く」
熱烈な俺からの愛を一方的に受けている翔琉は、冷静な口調で告げながら見覚えのある、タワーマンションの地下駐車場へ降りていく。
決して無駄のない、鮮やかなハンドル裁きでバック駐車を決めると、俺より先に急いで翔琉は運転席から降りる。
自身の車の前を急ぎ足で通り、俺が座る助手席の前へ立つと、いつも以上に慎重にそのドアを静かに開けた。
「降りる時、段差へ気をつけるんだ」
目の前へ手を差し出した翔琉は、身重の俺を気遣うように、細部へ至るまで意識を張り巡らせているのが気配で分かる。
「大丈夫ですって。気にしすぎです」
いつも、この男は完璧なエスコートをするが、更に完璧過ぎるエスコートに、つい俺は苦笑してしまう。
「そうはいかない。だって今、颯斗のお腹の中には大切な命が二つも宿っているんだから」
車のステップから勢いよく地面へ降りた俺を、翔琉の大きな腕が優しく抱き留める。
ふわりとムスクの香りが俺の鼻腔を掠め、大きな安心感と共に、どうしようないくらいの好きの気持ちが俺の心を痛いほど揺らす。
あ、もう……家へ着いたから、翔琉に沢山触っても大丈夫なんだ。
逞しい腕に抱き締められていた俺は、そっとそのまま翔琉の背中へ腕を伸ばし、胸へ顔を預けた。
「へへっ。翔琉、すーき、です」
破顔する俺に、翔琉は困惑したように軽く眉根を寄せた。
「ほら、とにかくエレベーターへ乗るぞ」
抱き締めていた腕を翔琉は優しく解くと、ゆっくり俺の手を引き、最上階の自身の部屋へ直通のエレベーターに乗り込む。
ドアが閉まった瞬間、翔琉は壁際まで俺を追い詰めると、その顔の横へ大きな音を立て、手を付いた。
「颯斗。それで……一体先ほどから、どういうつもりだって言うんだ?」
スラックスの上からでももう、その形がくっきりと分かる凶悪な熱の膨らみを、グイグイと俺の下腹部へ擦り付けてくる。
「あ……!」
小さく感嘆の声を上げると、俺は困惑しながらも顔を真っ赤にさせ、俯く。
「俺はもう、長いこと――颯斗の内で一緒になれていないことを忘れないでくれ」
翔琉はそう言うと、激情の中心へ俺の手を導いた。
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