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第32話
それから翔琉にお願いして、悪阻対策の巣作り用に、一日着た服を一式ベッドルームへと遺して貰っていた。
当然、翔琉はそれに驚いていたが、かえって自分の匂いで反応するなんて嬉しい限りだと、熱雄を大きくさせていたのだ。
もちろん、安定期まではお預けなので俺が口など別の場所で受け止める。
俺にしか反応しないとは言っていたが、正直この男は超絶モテるのでその気はなくとも、持て余した激情を、何かの拍子で他所様へ吐き出さないか心配だ。
だからこそ、俺は番としての役目を――否、本当は俺自身が翔琉の全てを独り占めしたいが為、積極的に励むのである。
そうして何とか辛い時期を乗り越え、桜の花弁が散り新芽が育ち始めた頃、ようやく俺は安定期を迎えた。
幸い、大学の授業も俺にとっては不自然なサイズである翔琉の服を着ていったお陰で、休まず出席できている。
親友の心織 には不思議そうな顔をされ、オメガバースを俺に勧めた文学部の花凛ちゃんからは、すぐ様その異変を指摘された。
女性というのは、どうしてこんなにも勘が鋭いのだろうか。
俺が妊娠していることも、すぐに知られてしまった。
結局、翔琉は事務所から結婚したことも秋には双子が産まれることも、仕事の関係で極秘にして欲しいと言われてしまった。
だから、この件は極力俺からは話していない。
終始、翔琉は納得がいかない顔をしていたが、夢を売る商売なのだから、仕方がないのだと俺は思っている。
確実に、俺たち二人の身体は双方でしか身体が反応しない、運命の番という強固な絆で結ばれているのだ。
その上、俺のお腹の中には日に日に大きく成長している、二人の子どももいるのだから、わざわざ世間へ公表する必要はないだろう。
正直、子どもたちが好奇の目に晒されてしまう方が俺は嫌だから、その方が都合良い。
出産時期は、運良く長い夏休みが終わる少し前の予定だ。
双子だから、自然分娩となるかどうかも怪しいし、早産になってしまう恐れもある。
だが、どうにかそこまでお腹が目立つことはなく夏休みに入り、双子を産むことができそうだ。
大学の授業の後、服の上からでは分かりずらいが、確実に、順調に。双子が俺の胎内で育っている幸せの重みを感じながら、月一の検診へ独り向かったのである。
生憎、本日翔琉はドラマの撮影で不在だ。
超人気俳優ということもあり、やはり中々毎回の検診に付き添うのはスケジュール的には難しい。
とは言っても、俺が悪阻で辛かった時期は、フレックス制とか無茶苦茶なことを言って、時間差出勤や退勤をしてなるべく傍にいてくれたのだ。
俳優に、そんな勤務形態がある訳などないのに。
悪阻のお陰で、更に俺は翔琉へ惚れていたのである。
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