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第33話

「――龍ヶ崎さん、本日で何とか無事に安定期を迎えることができましたね。双子ちゃんたちも順調ですよ」 腹部エコーをしながら説明するイケメン医師の言葉に、取り敢えず俺は安堵した。 無事、出産を終えるまでは心から安心できないのだが。 「そろそろ、腹帯も着けると良いでしょう。男性Ωはお腹が目立たないとはいえ、龍ヶ崎さんの場合は双子です。今回も、前回の検診より着実に腹囲が増えてますので、自身と赤ちゃんたちを守る為にも、着用してみると良いでしょう」 正直、まだ“龍ヶ崎さん”と呼ばれることも、記名する際に自身の名前を書く時も、慣れないままだ。 それでも、確実に俺の身体は日々変化している。 間違いなく、そこに二つの命が宿っており、あれだけで怖いと思っていた体型の変化が、却って愛おしく感じるようになったのだ。 これを母性本能と呼ぶのだろうか。 そう思っていたところで、医師はエコー写真を俺へ手渡しながらこう言った。 「あ、そうだ。龍ヶ崎さん、安定期に入ったので、そろそろご主人との夜の営みも再開して大丈夫ですよ。今まで禁欲、大変だったでしょう?」 こっそり耳打ちされた俺は、羞恥から顔を赤らめる。 「だってご主人、昔は女関係が派手で有名でしたもんね。でも、解禁になったからと言って、無理な体勢だったり激しくするのはダメですよ。お腹の双子ちゃんたちに触りますから」 一瞬、言葉に詰まった俺は、「は、はい」と冷や汗を掻きながら返事をしたのであった。 有名人を旦那に持つと、こういう時、恥ずかしい思いをするのだと俺は知る。 いたたまれなくなった俺に、今度は期待で浮上するような言葉を掛けた。 「これで、本日の検診は終わりです。次回、いらっしゃる時には男女の性が確定する頃でしょう。龍ヶ崎さんは性別告知を希望されておられますから、楽しみですね」 そうだ。 いよいよ、お腹の中の双子が女の子なのか、男の子なのか分かる時期なのだ。 俺の胎内にいる双子は二卵性である為、男女のペアということも可能性としては、ありうる。 病院からの帰り道、新緑の風を感じながら産まれくる子どもたちに思いを馳せ、俺は歩いていた。 どちらに似て産まれくるのだろうか。 否、どちらでも無事に産まれて来てくれたら、それだけでもう十分だ。 自然と俺は、護らなければならない命が宿るそこを何度か撫でる。 すると背後から、けたたましい車のクラクションが聞こえた。 ちらりと音のする方を振り向くと、見覚えのある黒の高級外車がウィンカーを出し、俺の目の前まで滑り込んで来る。 「……翔琉だ」 俺がそう呟いたのとほぼ同時に、運転席の窓が開く。サングラスはかけていたが、名前を呟いた男がこちらへ向かって顔を出した。

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