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第35話
「こちら、俺の番 の桃緯 です。年は俺と同じだけど、高遠君と同じで初めての妊娠なんだ。子どもの月齢が近い同士、これから仲良くしてくれると嬉しいな」
俺よりもだいぶ小柄な、多分身長は百七十もないだろう。童顔も相俟ってか、二十八と言われても、もっと若く見える。
むしろ、俺との方が年近く見えるのではないかとさえ思うほどだ。
それだけ彼は、一目でオメガだと分かる相貌をしていた。
「く、久我原桃緯です!」
背の高い桜雅の横で、緊張した面持ちの桃緯がぺこりと頭を下げる様は、まるで小動物のようだ。
同じオメガだというのに、つい俺までもがその可愛さにキュンとしてしまう。
なんて、可愛い人なんだ……。
これじゃ、久我原様もメロメロなんだろうなあ。
自然と、俺まで顔が緩んでいくのが分かる。
「颯斗?」
怪訝そうに隣りで俺を呼ぶ翔琉に、慌てて顔を引き締めた。
いけない。
断じて浮気とかではないけれど、同じオメガを可愛いと思ってしまうなんて。
そもそも、本来のオメガとは桃緯さんのような可愛いらしい方のことを形容するんだよなあ、きっと。
「こちらこそ! 高遠……じゃなかった、俺、龍ヶ崎颯斗と申します! ハタチです! あのっ、仲良くして下さい!」
頭を下げながら、勢い良く桃緯の前へ右手を差し出す。
クスクスと桃緯は笑い、俺の手を遥かに華奢な両手で包み込むように優しく握った。
「可愛いマタ友さんができて嬉しいな。よろしくね」
細身のブラックパンツに、ビッグシルエットのデニムシャツ。そのインナーは、白いTシャツというファッションの桃緯は、一見すると妊娠しているとは思えない。
オシャレな今どきの若者に見える。
元モデルの桜雅と並ぶと、とても目を惹いてお似合いだ。
ゆっくりと、俺は桃緯の下から上へ視線を滑らせる。俺より早く子どもが産まれると言った彼は、単胎妊娠なのだろう。
体型の変化など全く見られない。
桃緯は、俺のその視線の意味に気が付いたようだ。
「あ、俺たちの子は双子じゃないんだ。男の子、独りなんだよ」
シャツの上からでは膨らみが確認できない腹部を、大事そうに撫でた。
「男性オメガは双子じゃないと、お腹は目立たないから分からないよね。こう見えてもう、七ヵ月で、胎動も激しいんだよ」
フフと嬉しそうに笑った桃緯を、桜雅は黙って少し後ろから愛おしそうに見守っていた。
互いに信頼し合っている、大人の夫夫だ。
俺たちの間には絶対にない空気間が、そこにある。
また、世間へ関係を隠すことなく、堂々と外を歩けることも少し羨ましいと思った。
否、翔琉自身は俺たちのことを隠すつもりがない為、俺だけが必要以上に敏感となっているだけなのかもしれないが。
「――あれ?」
ふとここで、俺は疑問を持つ。
誘われたまま何も気にせず、堂々と大勢の人がいる中へお参りに来てしまったのだが。
まずいよな? この状況。
そもそも、普通の神社に来ているのとは訳が違う。
SNSが発達しているこの世の中。
龍ヶ崎翔琉が、安産祈願の神社へお参りに来ていることが世間に拡散されてしまったら、世の中の翔琉ファンは大パニックだ。
その上、俺たちのことが知られてしまったら、事務所との契約違反になってしまう。
「この状況、まずくないですか?」
声を顰めて俺は言った。
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