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第38話

「じゃ、高遠君またね」 「はい、ぜひまた。今度は、桃緯さんが出産される前にご飯でも」 戌の神様に安産祈願をし、腹帯やお守り、御札などを頂いた俺たち四人は、神社近くのコインパーキングでそれぞれ別れた。 参拝中も久我原夫夫がいたせいか、特に騒ぎ立てられることもなく、無事に終えることができたように思う。 ソーシャルディスタンスだ何だと、神社側が一度に祈願する人数を二組までと限定していたのも一因かもしれない。 翔琉のエスコートにより、助手席へ座った俺は、少し膨らみがある腹部の上にシートベルトを通過させ装着する。 運転席へ座ったばかりの翔琉は、じっとその様子を見つめていた。 「ここからだと、だいぶお腹が出てきたように見えるな」 エンジンをかけながら翔琉は言う。 「あ……やっぱり、翔琉もそう思いますか?」 脂肪とは違う腹部の膨らみを擦りながら、俺は罰が悪そうに言った。 酷い悪阻に悩まされて以降、俺はずっとサイズアウトの大きな翔琉の服を着て過ごしていたのだ。 安定期に入り、ようやく翔琉の匂いがなくとも、日常生活を送ることができるようになってきた。もうそろそろ、俺はこの服たちから卒業しても良い頃だったが、今度は体型の変化で手放せなくなるのではと、薄々感じ始めている。 「実は……今日の検診で、着実に腹囲が増えてると言われまして。だから、腹帯を着けた方がいいって、そう言われたんです」 「そうか。やはり、双子は早くからお腹が目立つと言っていたからな。帰ったら、早速腹帯をつけよう」 機械で駐車場代の支払いを済ませ、公道へ出た翔琉の愛車は、六本木にあるタワーマンションを目指し、ようやく帰路へと着く。 やがて翔琉の車は、いつも通り地下駐車場の所定の位置へと停車した。 俺の右腕を翔琉は引き、反対側の手で神社で貰った腹帯等が入った紙袋を抱え、最上階までエレベーターで進んだ。 時刻は夕方の四時。 取り敢えず、俺たちはサニタリールームで手洗いうがいを済ませた後、リビングへと足を運んだ。 ローテーブルの上に、翔琉は神社で貰った袋と、外したばかりの高級時計をそこへ置く。 「颯斗、疲れてないか?」 キッチンへ立とうとした俺に、翔琉が尋ねた。 晩御飯の支度をするには、若干まだ早かったが米くらい研いでおこうと思ったのだ。 「はい。今のところは」 本当は、だいぶ疲労していた。しかし、ついいつもの癖で平気なふりをしてしまう。 やらなければならないことは山積みで、はっきり言って休んでいる暇などないのだ。 お風呂の掃除もしなければならないし、乾燥機に入れて出掛けてしまったままの洗濯物も畳まなければならないし。 締め切りが来週までの、大学で出された課題レポートも仕上げなければならないのだ。 あとは、出産までの流れを予習したいところでもある。 とりあえずまずは風呂掃除だな、なんて考えている俺に、翔琉の心配そうな視線が突き刺さった。 「――誤魔化しきれてないぞ。疲れているんだろう? 少し休むんだ」 怪訝そうに言うと、翔琉は俺の足元を慎重に掬い、横抱きでベッドルームへと連行する。

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