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第39話

「あ、でもお風呂の掃除とか夕ご飯の支度をしないと!」 「そんなのは俺が後でやるから、休むんだ」 やんわりと俺の提案を拒否する。 妊娠が分かり、正式に俺がこの家で暮らすようになってからの生活費や妊夫検診など、学費以外の全てのスポンサーは翔琉だった。 当然のように、俺名義のブラックカードを手渡したり、検診に行く日などは知らぬ間に安物の財布へたくさんの諭吉が並んでいたりする。 超人気俳優として億稼いでいるらしいこの男には、全てどうってことはない金額らしいのだが。 だからと言って、俺はそれを全て黙って受け入れることはやはりできない。 性分なのかもしれないが、できる限り翔琉へ貢献し、タダ飯喰らいの居候からは回避したいのだ。 それでも翔琉は、無事に俺が出産するまで、ただ傍にいて、元気な顔を毎日見せてくれさえすれば良いのだと。神のようなことを告げるのであった。 夫夫って、こんな……一方的に甘やかされてばかりでいい……訳、ないよなあ。 十も年が離れているせいもあるけど、夫夫って対等で、支え合うイメージだけど。 今の俺って、翔琉を支えるどころか心配ばかりかけているだけのような……。 まさか俺自身、妊娠するなどと思ってもみなかったので、それまでは早く社会へ出て、少しでも翔琉と対等である為に、たくさん稼げるようになりたいと思っていたのだ。 これじゃ、俺……完全に、翔琉の奥様じゃなくて、番じゃなくて、ヒモだよ。 ヒ、モ!! 酷く悲しい気持ちから俺は翔琉の胸に顔を伏せ、ぐすんと泣きべそをかく。 「おい、何泣いてるんだ?」 俺の葛藤など知る由もないだろう翔琉は、驚いた顔して尋ねた。 「だって、俺……翔琉に、何も貢献できてないんですもん」 無意識に俺の泣き声は、鼻にかかった甘い声で出てしまう。 余計にそれが情けなくて、俺はもっと涙する。 一度崩れた感情の波は非常に大きく揺れ、俺はわあっと子どものように激しく泣いてしまう。 「そんなことないって」 困惑したように、それでも落ち着いた声色で翔琉は言った。 ああ、参ったな。 俺、翔琉を困らせたくないのに、余計困らせているよ。 そう自覚しながらも、箍が外れた俺の感情は止まることを知らず、行くところまで行ってしまう。 「そんなことあるって! 俺、翔琉と結婚したのに――否、そもそも子どもがデキたから俺たち入籍した訳で。何一つ、家事もろくにできないで、ただお金ばかりがかかる存在だなんて、迷惑しかないだろう!」 敬語などすっかり忘れ、感情剥き出しで翔琉にぶつかる。 ごめんなさい、と心の中で謝りながら。 それでも尚、走り出した感情は止まらない。 傷つけたくないのに、翔琉をどんどんいらぬ言葉で傷つけてしまう。 ねぇ、どうしたら止まる? この感情、どうしたら止まる? ぽろぽろと、大粒の涙を流しながら俺は溢れ出る感情を、意に反して刃のような言葉で捲し立てていたのだった。

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