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第40話

「――言いたいことは、それだけか?」 眉間に思い切り眉を寄せ、翔琉はこれ以上なく冷ややかな口調で問う。 明らかに不機嫌だと分かる様だ。 嫉妬する以外、今まで決して俺には見せなかった形相に、俺の涙はピタリと恐怖で止まる。 自業自得だと思った。 いくら翔琉が俺のことを好きだと言ってたとしても、さすがに今の言葉たちは伴侶へ投げて良いものではなかったからだ。 「……っァ!」 小さく悲鳴を上げるように俺は息を呑む。 あっという間に辿り着いたキングサイズのベッドの上に、不穏な空気とは裏腹に、翔琉は宝物を扱うような仕草で俺をそこへ降ろした。 ベッドサイドへ独り立ったままの翔琉は、俺を見下ろしながら、再度こう言った。 「言いたいことは、それだけか?」 凄む翔琉の迫力に、俺の全身はガタガタと震える。 極度のストレスはお腹の子どもたちに良くない。と、思いながらもその原因は自分が作っているのだと、更にここで情けない感情が増幅していく。 ゆっくり翔琉はベッドへ乗り入れ、俺を追い詰めるように膝立ちで近付いてきた。 「あっ……」 ぎゅうと目を瞑り、気が動転して言葉が出ない俺は「ゴメンなさい」と心の中で何度も翔琉に謝る。 すると、翔琉は俺をギュッときつく抱き締めた。 「黙ってきいてれば、何、さっきから自虐的なことばかり言ってるんだ」 大きな右手が俺の髪を優しく撫でながら、酷く苦渋した声で言う。 「颯斗は、ただ俺の傍にいてくれるだけでいいんだ」 翔琉は俺の頬を両手で優しく包むと、涙の痕へそっと舌を這わせた。 ビクッと俺の肩は震え、大きく目を見開く。 「可愛い、可愛い俺の嫁に、惜しみなく全権力を使いたいっていう旦那の心理……分からないか?」 グレーの瞳が甘さたっぷりに囁き、その後で俺の唇に触れるだけのキスをする。 「颯斗が、何もしていない訳はない」 額を俺に突き合わせ、翔琉は真剣な瞳をして言う。 「だって――出逢った時から、颯斗は俺の生きる希望だから」 そう言って、今度は俺の前髪を無造作に手で掻き上げ、額にチュッとキスをする。 「な、何でっ……?!」 意味が分からないとばかりに、俺は首を降った。 「何で、も何も、俺は颯斗に助けられて、今があるのだから」 俺たちの出逢いは、今から四年前の夏に遡る。 派手な女性関係で逆恨みをされ、何者かによって暴行を振るわれ公園で行き倒れていた翔琉を、偶然バイト帰りの俺が発見し、助けたのだ。 そこから鶴の恩返しならぬ、翔琉の恩返し計画が始まり、執念で俺を探し回ったらしい。 結局、翔琉が行き付けのカフェで俺がバイトをしていたことで、運命の再会を果たしたのだが。 「そこにただいてくれるだけで、俺は幸せなんだ。だからこの幸せな気持ちを、俺は颯斗を全力で愛すことでしか――そんな一方的な愛の押し売りでしか、いつも伝える術がなくて、本当に申し訳ないと思っている」 俺の背中を優しく擦りながら、懺悔するように翔琉は言った。

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