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第47話
「だいぶ、大きくなったな」
しみじみと翔琉が言う。
完全にもう、俺が着ていた服はお腹が窮屈で入らない為、全身翔琉の服を着ている。
それでも普通のズボンであるから、チャックは上がらないので、上着でそれを隠していた。
男性Ωの双子妊娠自体があまり多くない為、それ用の服がないのだ。
「……毎日、見ているじゃないですか」
照れ臭そうに俺は返す。
今日はこれから産休前、最後のバイトである。
安定期に入り、悪阻がおさまったタイミングで俺は復帰していたのだ。
最初は今まで通り、フロアで給仕係を務めていた。
妊娠六ヵ月を終えようとしていた頃、とうとう俺は、ギャルソンエプロンでは隠し切れないほど急激にお腹が大きくなり、以前のように動けなくなってしまったのだ。
双子妊娠ということもあり、それ以来、大事をとって裏方であるキッチンへ転向した。
黒のタブリエエプロンは、店長が特別に妊夫の俺の為に用意してくれたものだ。
シャープに見せやすい黒という色の錯覚から、双子がいるこのお腹もそこまで目立って見えることはなく、遠目から顧客に目撃されても、怪しまれることはなかった。
「毎日見ているが、毎日、そのお腹も成長しているだろう?」
翔琉の言う通りだ。
日々、双子の成長と共にそのお腹も大きく変化している。
屈む仕草が辛かったり、足元が見えずらくなったり、ズボンや靴を履く動作が苦労したりするようになった。
決まってそういう時は、翔琉が手伝ってくれるのだが、バイト先ではそうもいかないので、毎回大変な思いをしてバックヤードで着替えている。
今日でそれも最後であるが。
「まさか、こんなにも大きくなるなんて思ってもみなかったですよ」
ぼこぼこと、この瞬間もお腹を強く蹴り飛ばす双子に首を竦め、俺は言う。
そう言えば先月、無事に久我原家のところへ元気な男の子が産まれたらしい。
出産を終えたその日に、産まれたての可愛い男の子を胸に乗せた写真と共に、直接桃緯から報告のメッセージが俺宛てに届いたのだ。
初産だったせいで、予定日を超過したそうだが、それでも安産の方だったらしい。
桃緯のお腹は、結局出産するまで妊夫だと分からないほど体型はスリムのままで、思わずこの理不尽さに俺は愚痴を溢したくなる。
次に妊娠する時は絶対に、双子じゃない方が良いと。
否、そもそも次って何だよ、と俺は独り突っ込む。
運動会でも始まっているのではないかと思うほど賑やかなお腹を、大事そうに撫でながらだ。
「双子だから仕方がない。却って、元気に育っている証拠が分かって安心するだろう?」
物は言いようだったが、確かにそうだなと俺も同意する。
翔琉はそのまま俺の背後へ密着すると、前方へ大きく弧を描いた腹部を優しく撫でた。
心無しか、俺の臀部に硬いモノが当たっているような感触もするが、気のせいだろうか。
いつもであれば、翔琉が触れると双子たちもお行儀良く静かになるが、今日はそれでも酷く暴れている。
「今日は、本当に騒々しいな」
腹を擦る翔琉の手付きが、いつもより酷く厭らしい。
瞬時に俺は変な気分となったが、次いで、腹部の張りを覚え、そこへそっと手を充てた。
思えば、今朝から頻繁にお腹が張っている。
連日、バイトを頑張り過ぎたせいであろうか。
それとも、翔琉との営みを張り切り過ぎたせいだろうか。
安静にしましょう、とイケメン産科医から昨日言われたばかりだったことを思い出す。
いずれにせよ、思い当たる節が多かった俺は、深く行動を反省していた。
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