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第51話

「ほら、挿入れるから臀を出すんだ」 背を向け縮こまっていた俺の後ろで、ベッドが深く沈む。 翔琉が腰を降ろしたようだ。 「何デスか、その言い方は……」 痛みに顔を顰めながらも、俺は厭らしいその言い方に顔を赤くする。 「言い方? ただ坐薬を挿入れるだけだというのに、言い方もナニもないだろう?」 意にそぐわぬと言った怪訝な表情で、翔琉は「ほら」と坐薬片手に入院着のガウンの裾をまくるよう俺に促した。 真っ赤な顔を誤魔化す為、慌てて俺はその全てを枕へ沈める。 背後でクスリと笑う声がして、翔琉が俺の言わんとしたことを察したことに気が付く。 「――もう、颯斗は三人目が欲しいのか?」 意地悪そうに、だが嬉しそうに翔琉は尋ねた。 「……そういう意味じゃ、なくて……」 枕に伏せていた俺は、くぐもったままの声で答える。 「ぃ、痛っ!」 突き刺すような痛みに俺は高い声を上げると、翔琉は手早くガウンを捲り、躊躇なく坐薬を挿入した。 「――俺も、三人目はすぐにでも欲しいと思っている」 ガウンの裾を元に戻した翔琉は、本音を告白する。 俺も、って。 俺はまだ、三人目が欲しいなんて言ってないし。 って、そうじゃなくて俺……。 「だが、まずは颯斗の身体を休めるのが第一だから」 翔琉の大きな手が、また俺の頭を優しく撫でる。 誰よりも俺を、俺だけを大事にしてくれる、やさしい、やさしい、男の手。 「……でも、」 背後を覗くように、俺はチラリと枕から顔を上げた。 すぐ様腹部の痛みで、力尽きたようにその場へ顔を伏せる。 「ムリしないで、もう休むんだ。明日からは授乳も始まるだろう?」 翔琉はそう言うと、俺から離れるように立ち上がった。 「()っ、行かないで下さい! 俺の傍にいて! 翔琉、お願いしますっ!」 情けないと思ったが、俺は啼いて縋るように懇願する。 「可愛いワガママで困ったな」 破顔しながら翔琉は苦笑すると、俺へ寄り添うように横になった。 傍で落ち着くムスクの香りを感じたまま、俺はまた少し微睡み始める。 まだまだ痛みはあったが、少しだけ痛み止めが効いてきたのか、喋る余裕は生まれていた。 「翔琉が傍にいると……俺、安心するから」 翔琉をもっと間近で感じたくて、ゆっくりそちらへ向こうとするが、やはりどうしても身体に痛みが走る。 「無理するなって……」 自ら動こうとする俺を手で制すると、翔琉自らベッドから降り、顔を合わせられるよう反対側へ移動した。 互いの顔と顔が向き合い、翔琉は俺の肩を抱き寄せようとして、その手を下げる。 「……悪い。つい、クセで」 「――ムリ、してるのは……いつも翔琉の方、ですよ」 顔を伏せながら、俺は喋り出す。

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