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第52話

「俺の妊娠が分ってから、結局、その……本気でシて……ない、ですよね?」 言葉の語尾と共に、俺はグレーの瞳をじっと見つめる。 「ねえ? 翔琉、性欲強い人だから……こんな長い時期できないなんて……全然、大丈夫じゃない……ですよね?」 つい責めるような口調で翔琉を問うてしまう。 罪悪感と、翔琉のことを心配するが故だ。 「でも! それでも、浮気……しないで下さい!」 俺の言葉に、一瞬、グレーの瞳の奥が驚いたように揺れ動く。 「俺、身体が痛くなくなったら……その、お口ででしたら、できますから」 羞恥した顔を隠すように、俺は翔琉の胸へおずおずと顔を埋める。 返事の代わりに、翔琉はそっと壊れ物を扱うかのように俺の頭を優しく抱いた。 震動を起こさないように。 その優しさが嬉しくて、俺は静かに涙を溢す。 「――だったら、とにかく今はゆっくり休むんだ。俺は浮気などしないし、また早く颯斗との子どもが欲しいことは忘れないでくれ」 妊娠してから、何度となく俺はこのセリフを翔琉に言わせてしまっている。 その事実に、また俺は自分が嫌になってしまう。 でも……。 「俺と同じくらい、颯斗も嫉妬深くなっていて嬉しい。もっと、俺のことを求めて欲しいし……」 俺の顎を静かに捉えると、自身の方へゆっくり向けた。 「俺なしでは生きていけないのだと、ずっとそう思わせていたい。……なんて、ワガママは――言ったらダメか?」 翔琉はズルい。 いつもこうして、ダメな俺もそれ以上のより大きな愛で包んでくれるんだから。 そんなの、俺にとってはワガママなんかじゃない。 ワガママじゃなくて、俺を世界一幸せにする嬉しい言葉だ。 口を尖らせ、俺は翔琉の眼前でムッとして見せた。 「そんなの、俺にとっては――ワガママでも何でもなくて、嬉しい言葉ですから! もっと、言って下さい!」 嬉しそうに微笑む翔琉を視界に認め、俺は突き出した唇を緩ませる。 「だったら覚悟するんだ。俺の愛は重いんだから」 そうして二人で顔を見合わせ微笑むと、幸せな気持ちを抱いたまま、俺は深い眠りに就いた。 目が醒めて、いよいよ本格的な子育てが始まる。 正直、不安しかない。 でも、翔琉と二人だったら大丈夫だろう。 立派じゃなくても、二人とも翔琉みたいに優しい人に育ってくれたら、それだけで俺は十分幸せだ。 それから俺は、予定より早く産まれた双子を病院に残したまま、一足先に退院した。 正直、強く後ろ髪が惹かれる想いがしたが、こればかりは仕方がない。 双子が退院する日まで、毎日俺は可愛い我が子たちに逢いに病院へ通ったのであった。

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