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第53話

「わー! 高遠君、本当に双子を産んだんだね。出産大変だったでしょう?」 二つ並ぶバウンサーを、桃緯はそれぞれ覗き込みながら尋ねた。 揺れるその中で、すやすやと双子は眠っている。 その手には、もちろん桃緯自身の子を抱きながらだ。 双子たちが俺と翔琉がいるこの家へ来たのは、大学の夏休みももう時期終わろうかという杪秋(びょうしゅう)の頃であった。 それから間もなくのことだ。 久我原夫夫とこの男が、六本木にあるこのタワーマンションへ共に訪れたのは。 「どちらがお兄ちゃんなんですか?」 俺にそう尋ねた男は、久しぶりに顔を見せた紫澤だった。 紫澤は俺が大学一年生だった時の四年生で、今は桜雅の部下として自身の父親が代表取締役を務めている商社で働いている。 どういう訳か今回、久我原夫夫と一緒に盛大なお祝いを持って現れたのだ。 「えっと、俺に顔が似ている方が兄で、翔琉に似ている方が弟です」 二卵性双生児ということで、二人が似ていないだろうことは事前のフォーディーエコーからでも、ある程度予想はしていたのだが。 実際に産まれてきた二人の顔を見て、まず俺は強い驚きを隠せなかった。 二人とも、翔琉同様、周りを神秘的に魅せるその遺伝子を瞳に持って産まれてきたのだから。 さすがに翔琉はクォーターであるし、俺は生粋の日本人だ。 血の影響は受けないだろうと思っていた。 しかし、ものの見事に双子は俺の予想を良い意味で裏切り、綺麗なグレーの瞳を持ってこの世に産まれてきたのだ。 どれだけ翔琉の遺伝子、最強なんだよ。 クォーターの次の、八分の一って……何て言うんだっけ? 聞いたことないな。 むしろ、そこまで血が薄くなると日本人のはずだろうし。 そんなことを想いながらも、翔琉の遺伝子が色濃ければ、将来、間違いなくこの子たちはイケメンに育つだろうなと察する。 先に産まれた俺似の長男も、瞳の色だけでその凡庸さは誤魔化せるだろう。 翔琉似の次男は言わずもがな、だ。 まだ生後間もないというのに、間違いなく翔琉ジュニアと分かる整った顔をしていた。 「顔は高遠君似なのに、目の色がグレーとか……本当に、二人の……」 悔しそうに言う紫澤は、俺のことを好きだと告白した過去がある。 だから今回、俺が妊娠したことも無事に産まれたことも報せることをしなかったはずなのだが。 どこで、どうして伝わったのだろうか。 久我原夫夫が話したとは思えない。 背後では、どこか苛立ちを隠せない翔琉が遠巻きにこちらを眺めていた。 それでも以前に比べ、俺たちの子どもが産まれたことで、紫澤の前でも余裕な態度を浮かべているように思う。 「当たり前だろう。俺と、颯斗の子どもなんだから」 平然とした口調で、だが、「俺と颯斗」という箇所をヤケに強調した翔琉に、紫澤は苦虫を噛み潰したような顔をした。 「翔琉が言うと、何だか生々しさが含まれるな」 同じく、遠巻きに見ていた桜雅が突っ込む。 「翔琉っ! お客様がいらしている時に、そんな話、しないで下さいよ」 つい大きな声で俺は言う。 「俺はそんな話をしたつもりなど、一切ないのだが桜雅が……」 真面目な顔して翔琉が返したところで、長子がぐずり始める。 「あ、もしかしてミルクの時間かな?」 桃緯が言った。 「あーお!」 本格的に全力で泣き出した我が子の名前を呼び、俺は慌ててバウンサーから抱き上げる。

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