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第55話
「颯斗、碧の様子はどうだ?」
哺乳瓶で颯空にミルクを上げながら、翔琉はベッドルームにいた俺と碧翔の様子を覗きに来た。
翔琉の様子からして、颯空も泣いたのだろうと察したが、今はミルクを飲んでいるせいか大人しい。
否、翔琉は何故か子どもをあやすのがとても上手だ。
お互い、初めての子どもだというのに。
「ようやく今、寝ました」
あの後、散々泣き喚いてミルクやオムツなどありとあらゆる手段をとってしても俺を酷く悩ませた碧翔は、ようやく泣き疲れたのか、今仕方ベビーベッドで眠りに着いた。
もう、育児は分からないことだらけだ。
当然だが、まだ双子たちは喋れないから意思疎通が上手に取れない。
ネットで泣き止む方法を色々調べ、片っ端から実行し、その日は成功しても、もう次に泣き始めた時には通用しない、なんてことは、よくある。
むしろ、更に事態が悪化するなんてことも常で、まだ育児は始まったばかりだというのに既に俺は疲労困憊だ。
幸い、本当かどうか分からないが育児休業を取った翔琉がずっと家に居てくれる為、他所の家庭より育児環境も、そこまで大変ではないのかもしれない。
今まで、その露出が途絶えたことはないくらい主演俳優を張ってきた翔琉が、露出を控え、家のことを手伝ってくれている事実が、まず申し訳なくて。
だからこそ、それでも俺が疲労困憊なんて翔琉に知られたくない。
家のことをこんなにも手伝って貰っているのに、俺自身がまだまだ子どもで余裕がないから……。
贅沢な悩みだと分かってはいる。
それでも、他所の家はワンオペ育児なんて当たり前だと、両親学級で知り合った妊夫さんたちは言っていたから。
碧翔独りさえ、すぐに泣き止ませることができない俺自身に、本当は俺の方が泣きたいくらいだというのに。
「颯斗、俺が代わるから少し休むんだ。隈が酷い」
明らかな疲労の色を指摘され、咄嗟に俺は顔を背ける。
せっかく俺のことを心配してくれているのに、感じが悪かったなと俺は思う。
それでもわざと口の端を上げ、平気なフリをして見せる。
「大丈夫です。それより、颯空も泣いたんですか?」
「ああ。だが、すぐ泣き止んだ。桜雅たちも、帰ったから気にせず休んでいい」
どちらかというと、颯空は碧翔より手がかからない。
俺はそれでも手を焼くのだから、翔琉に対して少し悔しい想いも湧く。
本来であれば、そこは「ありがとう」の一言でお互い気持ち良く済むところなのかもしれないが。
敏感な俺の心が揺れる。
余裕など全然ないのに、そうして俺は無理を口にした。
「そんな訳にはいきません。翔琉こそ、ここのところずっと碧と颯空の夜泣きに付き合って眠ってないので、休んでください」
この頃、二人夜泣きが酷い時は、翔琉が眠りに着くまで車に乗せ、遠くまでドライブに連れていってくれるのだ。
その間、つい俺は朝まで寝入ってしまう。
翔琉たちが帰宅していたことに気が付くのは、だいぶ経ってからのことで。
毎回、翔琉は寝て欲しい為だから気にするな、と言うが罪悪感しかない。
では、翔琉は一体いつ寝ているのだろうか、と。
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