57 / 82
第57話
それから更に月日は経ち、周囲の多大なる協力により学業と育児、家事を両立しながら、何とか今日、俺は四年で同級生と共に大学を卒業できる運びとなった。
式が終わり桜舞い散る中、皆、共に同じキャンパスで四年間過ごした同胞たちとあちこちで別れを惜しんでいる。
俺、龍ヶ崎颯斗もそうだった。
ちなみに今日、俺の為に仕事をオフにした翔琉に双子を預けている。
「――結局、高遠君は卒業したら専業主夫するの?」
毛先まで綺麗に手入れされたハーフアップの巻き髪に、鮮やかな青みピンクの着物と紫の袴姿で俺に話し掛けてきたのは、この春、有名IT企業へ就職が決まった文学部の月島花凛である。
「えーっと、実は俺……商社が決まって……」
歯切れ悪く答える俺は、就職が決まったことに何処か罪悪感を覚えているのだ。
「えー? よく旦那さんが許してくれたわね」
全力で驚く花凛に、俺も小さく同意する。
幼子が二人もいて、よく翔琉が俺の就職を許してくれたと思う。
桜雅や紫澤と言った顔見知りがいる職場だからだろうか。
もちろん、職場には幼子二人がいることを申告してのエントリーだった。
幸い、働き方改革の一環として子持ちのΩでも気持ちよく働けることを会社が推進していたお陰で、採用されることになったのだ。
もしかすると、そこに次期社長である紫澤の大きな思惑もあったのかもしれないが。
「それにしても……まさか、颯斗が知らぬ間に双子を産んでたなんてな。俺なんて、この四年間で結局誰とも付き合えなかったって言うのに」
独りごちるのは、高校からの親友で今春よりマスコミ系で就職が決まった赤羽 心織 だった。
双子を妊娠した時点で花凛には知られてしまったが、結局その後、度々双子の発熱などで講義を休んだり遅刻早退などしたせいで、心織にもその事実が知られてしまったのだ。
夫が誰かは知らないままであるのだが。
結果、心織には講義のノートの写しなどたくさん助けて貰ったので今では感謝しかない。
今、一歳半となった双子は産まれた頃より手はかからなくなってきた。
それでもやはり、離れていると酷く気になる。
この調子では、来月から二人を保育園に預け長時間離れることになったら、自分はどうなってしまうのだろうかと思う。
働くことは自分の我儘で、このタイミングではなかったのかもしれない。
散々悩んで、その葛藤を傍で見ていた翔琉が、最終的に俺の背中を押したのだ。
この頃、よくぐずっていた碧翔も翔琉がいるととてもお行儀が良い。
思えば、双子が俺のお腹にいた頃、翔琉が触れると決まって穏やかになっていたことを思い出す。
双子もその時の感覚が遺っているのだろうか。
産んだ張本人としては、少し悔しい気持ちもあったが、積極的に子育てに参加してくれる翔琉にそうあっても仕方がないのかなとも思った。
ともだちにシェアしよう!