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第68話
そう言えば今回、二人の愛しい子どもたちも同行している。
出掛ける前、台風のように大騒ぎしていたが翔琉のお陰で今はとても静かだ。
ただし、出産前の俺以上に双子は緊張した面持ちで妹の誕生を待ち構えているのだが。
――病院へ行く前の出来事へ戻る。
「まま、だいじょうぶ?」
「ママ! 死んじゃうの?! 死んじゃいや!」
親が突然苦しみ出した姿に可愛いらしい二つの声は、これ以上ない悲愴感を帯び取り乱し始める。
双子たちを怖がらせてはいけないと、俺は静かに痛みに堪えようとするが、我が子が外へ出ようとする強い波に負け、つい大きな呻き声が洩れてしまう。
「ままぁ!!」
碧翔が大きな瞳に涙を溜め、その場で蹲り震える俺の肩をギュッと抱き締めた。
気持ちがとても嬉しかったが、今の俺には言葉をかける余裕がない。
「ママ、どうしたの?」
双子は連動する。颯空も泣きべそをかき始める。
翔琉は、碧翔と颯空の名前を呼ぶと二人の目線が合うようにそれぞれを腕へ抱いた。
「ママは大丈夫だ。前にも言ったが、ママは今、キミたち二人の妹を産む為に頑張っているんだよ」
諭すように翔琉は二人に説明する。
「いもうと?」
きょとんとした顔で碧翔は返す。
確かに世の中の妊婦さんと違い、お腹がそこまで大きく出ていなかった俺を幼子たちはまさか妊夫だと思わなかったのだろう。
妊娠が判明した時に、二人が兄になることは説明はしたはずだった。だが、言葉だけでは今ひとつ理解できていなかったのかもしれない。
「そうだ。もう間もなく、碧翔も颯空もお兄ちゃんになるんだ」
「お兄……ちゃん?」
瞠目しながら翔琉と同じ顔した颯空が尋ねる。
「ああ、そうだ。颯空もお兄ちゃんだ。妹と仲良くできるか?」
すっかり優しい父親が板に付いてきた翔琉は、微笑みながら言った。
「うん。ボク、妹と仲良くできる」
控え目に颯空は頷きながら応える。
「あおも! あおも、いもうととなかよくできるよ!」
両手を上げて、力強く碧翔も主張した。
「そうか。二人共、頼もしいお兄ちゃんだな」
二人を床へそっと降ろすと、翔琉はそれぞれの頭をふわりと撫でる。
「では、これからママは妹を産むためにパパの車で病院へ行くんだが――残念ながら先ほどみたいに大きな声を出してうるさくしてしまう人たちは、お留守番になっちゃうんだが……」
大袈裟に困惑した表情を双子の前でして見せた翔琉は、意外と子どもたちを上手に操る術を知っている。
むしろ、毎日一緒に双子たちといる俺より上手いかもしれない。
「うるさくしない! だからママたちと一緒にびょーいん行く!」
「あおも!」
「では、パパと指切りげんまんしよう。病院ではうるさくしません。あと、ママのことを応援してあげよう」
そう言って自身の小指を子どもたちの前へ差し出すと、二人もそれに飛び付くように小指を絡めた。
一頻り歌を終え約束したところで、翔琉は双子にトイレを済ませておくよう伝えると、唸る俺の腰を擦る。
双子たちがトイレから帰ってきたところで、翔琉は入院用のバッグを肩へかけるとそのまま俺を簡単に横抱きし、家を出た。
「ちょ、ちょっと! 翔琉、はずか……っうああああっ……っ痛ったぁあ!!」
エレベーターは最上階の俺たちの家しかないため、他人と乗り合わせることはないが、駐車場は違う。誰か他の人にこの状態が見られたら恥ずかしい。そう思ったが、強く収縮する子宮の痛みに耐えられず、結局は翔琉の為すがままとなってしまう。
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