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第72話
第三者に翔琉との仲を、絆のことを言われ、過去のことを思い出すなんて。
まだまだ、パートナー失格だと思った。
だが、確実に翔琉との絆が。
距離が五年前より縮まっていたことは間違いなかったのだ。
「颯斗……」
分娩台まで近寄った翔琉は、俺の手を取り真剣な表情で名前を呼ぶ。
「お腹の子が産まれたら、俺なりにケジメをつけてくる」
痛みに咆哮する俺の傍で翔琉は言った。
産むことに必死な俺には、もうその言葉も耳に届いていなかったのだが。
「だから、これからも俺の一番大切なパートナーとして傍にいて欲しい」
もちろんこの言葉も、だ。
そうして俺は、今回も翔琉の温もりを隣りで感じながら、無事、三千に少し満たない程の可愛い女児を出産したのであった。
雪が散らつき始めたクリスマスイブの夜が終わる少し前の出来事である。
カーテンの隙間、それはベッドの上から見えた。
流れの速い雲の隙間、気まぐれに顔を出した満月。しんしんと天から降り注ぐ雪は月に照らされ、酷く神秘的であった。
もしかするとそれは朦朧とした意識の中で見た幻だったのかもしれないし、二人で決めていたこの子の名前が魅せた奇跡、だったのかもしれない。
とにかくその光景が美しくて、酷く印象に遺った。
この時にはもう、翔琉も双子たちを連れ帰宅しており、個室には前回の出産時とは違い、俺と産まれたばかりの子ども、二人きりだ。
パートナーの不在に一抹の寂しさを覚えつつ、そう言えば翔琉は出産時に何か話していたなと思い出す。
必死に思い出そうとして、結局何も思い出せず、小さなちいさな我が子に意識が向く。
力強く泣き叫ぶ我が子の瞳はまだどちらも開かないが、今度はどちらの瞳の色を持って産まれてきたのだろうか。
今度こそ、俺の瞳と同じ色していたらいいなあ、など思いを馳せながら、その晩は産まれたての我が子との初めての夜が更けていったのだった。
翌朝のこと。
午後から碧翔と颯空を連れて面会に行く、と翔琉から写真付きのメッセージが届いた。
写真には先に産んだ俺の二つの宝物が、それぞれ欲しかったクリスマスプレゼントを貰って、上機嫌な様が姿が映されている。
無事にプレゼントは渡せたのだと知り、俺はもう独りの我が子を胸に抱きながら、つい笑みを溢した。
「お兄ちゃんたち、早速逢いに来るって。良かったな」
ミルクを飲んだばかりの龍ヶ崎家初めての女児は、また俺の腕の中ですやすやと眠りに着く。
まだ外の世界へ産まれ落ちてから一日も経っていないが、お転婆だと言わしめた胎動時より大人しい。
お陰で、身体をゆっくり休めることができる。
自分ももう一眠りしよう。
そう思った時のことだった。
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