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第73話

「龍ヶ崎様、大変です!!」 個室のドアがノックされるのと、引き戸のドアが開けられるのとはほぼ同時だった。 「千織さん……?」 焦りを滲ませ入室してきた千織は、もう間もなく夜勤が明けて帰れるはずだ。 つかつかと中まで入って来るなり、千織は俺の部屋のテレビの電源をつけた。 「大変なことになってますよ!!」 「大変って、何がですか? 大雪警報出てるとか、ですか?」 深夜から降り続いている雪は、尚も地面を真っ白く覆い尽くしている。 都会では滅多に雪が降らないため、交通が麻痺してしまったのだろうか。 「違いますよ! ケジメ、つけたんですよ!」 テレビの立ち上がりを待ち、千織は朝の情報番組へチャンネルを回す。 意味が分からず困惑していた俺は、それでもまだ眠っていてくれる我が子に安堵し、千織へ尋ねた。 「……ケジメ? って、何の話、ですか?」 そう言っている間に、たくさんのフラッシュに焚かれたよく見知った顔が、画面いっぱいに映し出される。 左上には「LIVE」の文字が出ており、リアルタイムでの会見であることが窺えた。 「……翔琉?」 画面に映るパートナーの名を思わず俺は口にしてしまう。 何か、あったのだろうか。 全身ブラックのスーツに、ネクタイだけが華やかな水色のものを身に付けている。 ネクタイの色から判断するに、取り敢えず不祥事ではなさそうだ。 それでも何も聞いていなかった俺は、寝耳に水だ。黙ってこの中継を見守る他ない。 緊張で、喉が張り付いたように渇く。 『何故、今更の公表となったのですか?』 会場にいた記者の独りであろう男性が自身の所属を名乗った後、翔琉に尋ねていた。 壇上に座る翔琉は、テーブルの上に置いてあったマイクを取ると真摯な表情でそれに答え始める。 『ご質問ありがとうございます。この件に関しては先ほども仰った通り、昨夜遅く、(わたくし)の愛しいパートナーであります一般男性のΩが第三子の出産を無事に終えたことで公表するに至りました』 淡々と告げる翔琉に、俺は画面の向こう側で大きくどよめく記者たちのように動揺した。 え? これって……俺の、こと? ケジメって……まさか。 とうとう、世間に俺たちの夫夫関係が――。 『龍ヶ崎さん、婚姻関係やお子さんの有無を五年もの間隠してきたのは何故ですか?』 間髪入れずに記者が質問を投げかける。 『私の方は隠すつもりなど毛頭ありませんでした。ですが、お相手の方が一般人ということもあり事務所と協議した結果、身を守る意味も含め今日(こんにち)まで公表を控えておりました』 『ではその期間、龍ヶ崎さんとお噂になっていた女優の方々とは一切何も関係なかったのですか?』 鋭い記者からの質問に、俺は固唾を呑んで見守っていた。 『はい。彼と――運命の人と出逢ってからは、間違いなく彼一筋です。誓えます』 画面越しに挑むような視線を送る翔琉は、まるで日本中を相手に誓いを立てているようにも思える。 俺はドキリとした。 『双子の親も、昨夜産まれたばかりの子どもも共にその愛しいパートナーがお腹を痛めて、苦しい思いをして産んでくれました。本当に、感謝しかないです』 翔琉の言葉に、自然と俺の頬へ熱いものが伝う。それが何であるか気が付かずに。

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