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第76話

「五年前、苦しい思いをしたけれど二人を産んで良かったなって」 続けて言った俺に、翔琉は少しだけムッとして隣りへ腰掛けた。そして俺の肩を自身の胸元へ引き寄せる。 「えっ! 翔琉、ちょっと子どもたちの前ですけど!!」 慌てる俺に、翔琉は声を潜めて「言っておくがその種を仕込んだのは俺だ」と耳を塞ぎたくなるような言葉を平然と言ってのける。 こちらの方が羞恥心で顔が赤くなってしまう。 「もう!」 全力で翔琉の胸を押し返すが、それ以上は言葉を噤む。 午前中の会見のせいだ。 眉根を寄せながらも、琉愛に夢中な双子たちの背後で俺は愛しいパートナーである翔琉の顔をじっと見つめた。 「……ありがとうございます」 ポツリと俺はお礼を告げる。 「何のことだ?」 わざと翔琉は惚けてみせた。あれだけ翔琉に強く当たってしまったというのに。 そうしてそのせいで、強行突破の会見を開いただろうに。 「事務所に……怒られなかったんですか?」 申し訳なさそうに俺は尋ねた。 「さぁな。言っておくが、颯斗が双子を妊娠した時から――というか、出逢った時からもう、その人生を背負う覚悟はしていたからな」 何てことないように告げる翔琉に、俺はまたしても会見を目にした時のように、大きく心が揺さぶられる。 「周りは関係ない」 はっきりと言い切った翔琉に、俺自らその胸に飛び込む。 「……おい、颯斗……子どもたちの前だけどいいのか?」 抱き締めるのを寸前で躊躇している翔琉が、俺に確認する。 「俺はいいんです! 俺は翔琉のことが誰よりも一番好きですから!」 無茶苦茶な理論を掲げた俺に、翔琉は苦笑しながらそっと背に両手を伸ばした。 自分でも変なことを言っていることは理解している。 だが今、誰よりも愛しい翔琉にそうしたくなったのだ。 「だったら俺も、颯斗のこと誰よりも好きだから、今すぐチュウしたい」 俺の背を優しく撫で、翔琉はクスリと笑いながら意地悪く言った。 途端、俺の心はドキリと跳ねる。 「ダメ! 翔琉はキス、ダメです!」 反論して顔を上げる俺に、翔琉は「どうしてだ?」と肩を竦めて言う。 「……だって、俺が――翔琉にキス、したいから」 翔琉の耳許で囁くように告げた俺は、子どもたちへ一度視線をやると、チュッと微かな音を立ててキスをした。 グレーの瞳を翔琉は大きく見開く。 「……っ、ヤバいな。勃った」 真顔で翔琉が言う。 「ここが病院でなければ、今すぐ押し倒してた」 「ちょっ! 何、言ってるんですか! 触れるようなキスだけなのに!」 「だって、颯斗が可愛いことを言うから……」 非常に困惑した面持ちであった翔琉の下腹部は、本当に不自然な膨らみができている。

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