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第77話
「だからって、こんなところで盛らないで下さい! もう、即物的なのは相変わらずなんですから!」
極力声を潜めながらも語気強く、俺は反論する。
「仕方ないだろう? それが、“俺”なんだから」
開き直った翔琉に俺は大きな溜息をつきつつも、変わらずに俺のことを好いてくれていることが酷く嬉しくて否定できない。
「――分かってますよ。それを含めて俺はあなたのことが、誰よりも好き……なんですから」
惚れた弱みという言葉があるが、本当にそうだと実感し、翔琉の存在を噛み締めるように肩へ寄りかかる。
「パパ! ママ!! るなちゃんのめ、ぼくたちとおんなじいろしてる!」
「グレーの色してるよ!」
突然、二人が俺たちの座るベッドの方へ振り向く。
咄嗟に俺は翔琉から離れるが、子どもたちはその様子を目敏く見ていたようだ。
「あー! ママがパパに寄りかかってる!」
「あおもぱぱによりかかりたい!」
「だったら颯空はママに寄りかかるー!」
二人はベビーベッドから離れると、一目散にこちら目掛けて駆け出す。
「ちょっと、翔琉? ここは俺が引き受けるので、そのご無体なものをズボンの下で鎮めておいてくださいよ」
一言こっそり翔琉へそう告げると、俺は子どもたちに笑顔を向けながら「二人ともママの方へおいでー!」と両手を伸ばしたのであった。
「あお、ぱぱがいいの!」
「パパは、午前中お仕事してきて疲れているから寄りかかるのは家に帰ってからにしようね。それより、今夜もママはここで琉愛ちゃんとお泊まりで寂しいから、ママは碧翔に寄りかかって欲しいなぁ」
オーバーリアクションで俺は碧翔へお願いして見せると、すっかり長子は大きくひとつ返事で了承する。
するとそこへ龍ヶ崎家の次子も名乗りを上げた。
「ボクは最初からママの方がいいもん!」
「わー! 嬉しいなあ! じゃあ、後で順番にママの方が二人に寄りかかろうかな?」
「わーい! やった!!」
二人の声が歓びで一際大きくなる。
「さて。じゃあまずは、ママも琉愛ちゃんの瞳の色を見てみようかな?」
ゆっくりベッドから俺は立ち上がると、双子たちは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねながらその跡を追ってくる。
ベビーベッドを覗いて見ると、微かに開いた右眼はグレーがかっていた。
「――ちょっと、三人共グレーの瞳って……翔琉の遺伝子、どれだけ強いんですか?」
不満の色を露わにして俺は告げたが、今となっては間違いなく好きな人の血が子どもにも流れていることに最上級の幸せを感じる。
「嬉しいだろう? 颯斗が産んだ子どもに、他の誰でもない、俺の血が入っていることがその瞳で証明されているんだから」
遠く背後から翔琉が言う。
「……確かに、言われてみればそうですね。何よりも俺たちが夫夫であることが、子どもたちで証明されるんですから」
妙に納得した俺に、翔琉は「だったら来年の年賀状は親子写真付きでも送るか?」なんて冗談で返してくる。
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