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第80話

「あれ……? 碧翔と颯空は?」 「――颯斗」 眉間に大きな皺を寄せ、翔琉は俺の名を呼ぶ。 こんなに不機嫌な翔琉は久しぶりだ。 ドキッとした俺は肩を竦めて、翔琉を見つめる。 「俺の知らない間に女だけでなく、俺以外の男とも関係を持とうとしたのか? こんなにも移ろいだ気持ちが多いヤツだとは思わなかったぞ!」 翔琉は俺を押さえ込むようにのしかかると、本人同様既にご無体過ぎる大きさになっていた熱雄を無防備な俺の下腹部へ擦り付けた。 「ァっ……違っ」 厭らしい雄が触れ合う感覚に、ぶるりと俺の下腹部は震える。 「違う? じゃあ、先ほどの“るな”とやらや、“あおと”や“そら”は颯斗の何なんだ?」 尋問する翔琉の腰付きは淫らで、俺も甘い嬌声がつい洩れてしまう。 「なに、って……っ……ァ」 「俺の名前より先に出てくる名前があるのか?」 密着する二つの雄の先端からは、とろとろとした白い涙蜜が溢れ、混じり合う。 随分久しぶりに俺を翻弄する翔琉のそれをとても愛おしく感じ、滅茶苦茶にして欲しくなっていた。 「ち、がっ……」 「違くないだろう? 俺とそいつら、と。一体どっちが颯斗を満足させられると思っているんだ?」 今度は意地悪く、翔琉は俺の胸の突起をきゅうと摘む。 産後、暫くはその胸も乳を蓄えるために男性Ωでも多少の膨らみはあったが、今は真っ平らで見慣れたいつもの男の胸がそこにあった。 少しだけ俺はその事実に寂しさを感じる。 思えば俺、眠りに着く前に花凛ちゃんから「オメガバース」という男性Ωが妊娠できるBL小説を読んだんだっけ。 まさか、そのせいで……俺? 「……あの、実は」 罰が悪そうに俺は、碧翔たちの話を順を追って翔琉へ喋り始めた。 突然ヒートが起きて、男同士で妊娠して、結婚して、二人に似た可愛い双子をお腹を痛めて出産して。 五年後に女の子を産んで、世間に翔琉が俺たち家族のことをカミングアウトして本当の意味で家族となって、とても幸せだったこと。 最初、翔琉は驚いた顔をしたが決して揶揄することはなく、熱心に最後まで俺の話に耳を傾けてくれたのだった。 「――惜しいな。颯斗の夢の中の、その“オメガバース”という設定で俺たち、子どもを三人も作ったのか」 「はい」 「俺たちの子どもは可愛いかったか?」 翔琉の質問に、俺は大きく頷いた。 「それはもう。双子の弟の方、颯空なんてもう翔琉の生き写しのようでしたよ。きっと将来は間違いなく、翔琉二世でしたね。絶対、世の中の女の子たちを泣かせてしまうタイプです!」 熱弁をふるうように告げた俺に、翔琉は穏やかに微笑んでみせた。 「それはぜひ、俺もお目にかかってみたかったな」 翔琉の言葉に、不意に俺は息を呑む。 そう、これは。 今までの甘かった日々は、全て俺の初夢だったのだ。 残念ながら。

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