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花咲月
「あ。ちなみにこの『明日から入る新人』って春海 くんのことね。で、武田 って言うのは剛志 のことだからよろしく!」
おいぃぃぃ!!
地雷踏んだよ店長!!
てか、地雷踏み抜いたよ!!
あと、そう言うことは満面の笑顔で教えなくていいんだよ!!
嫌われてるの君だよwww! ってわざわざ教えないで!!
草も生やさないで!!
マジで泣きたくなるから!!
てか、それよりも俺が剛志 さんに一方的に嫌われてるのによろしくもクソもあるかよ!!
何をどうよろしくすんだよ!!
ねぇ、教えてイケメン店長!!
俺は心の内でそう絶叫しつつ、軽く目眩を起こしながら残り一枚となったメモへと目を向けた。
【配達 行ってきます。花咲月】
・・・花咲月?
え?
これ・・・この漢字・・・なんて読むんだろ?
普通に読むなら『はなさきつき』だろうけれど・・・。
それにしても・・・綺麗な字だなぁ。
俺はそのメモの綺麗な字に目を奪われ、いつの間にか心の内での絶叫をやめていた。
黒髪ロングの和風美人・・・。
それが花咲月さんに対する俺からの勝手なイメージだった。
「あの・・・店長・・・すみません。これ・・・なんて読むんですか?」
俺はそう言いつつ、その『花咲月』と言う文字を指差した。
「あ? ああ、それか。それで『ヤヨイ』って読むんだとよ。変わってるよな」
そう言ってイケメン店長 笠井 さんは俺の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
『ヤヨイ』さん・・・。
もう美人決定だろ!!
「あ。噂をすれば。その『ヤヨイ』が帰って来たぞ」
イケメン店長 笠井 さんのその言葉に俺は息を詰まらせ、店先に止まった軽のボックスカーへと目を向けた。
「ちなみにお前の面倒は主に『ヤヨイ』が見るから仲良くしろよ?」
「え? あ・・・は、はいっ! もちろん!!」
俺は満面の笑みでそう返事を返し、胸を弾ませた。
その時、バタンと車のドアが閉まる音が聞こえて俺の心臓は更にドクンドクンと高鳴った。
「お~。お疲れ~。『ヤヨイ~』あのよ~コイツが新人の・・・」
「はじめまして! 今日からお世話になる遠野 春海 です! よろしくお願いします!」
俺は『ヤヨイ』さんが店に入って来たことを足音だけで察し、『ヤヨイ』さんのその顔も見ずに深々と頭を下げ、本当に大声で恥ずかしい自己紹介をした。
「はじめまして。こちらこそよろしくお願いします」
・・・・・え?
俺はその聞き覚えのある声に慌てて頭を上げた。
「あへぁっ!? き、昨日の長身細身イケボイケメンさん!?」
俺は目の前にいる黒髪黒縁眼鏡の長身細身のイケメンに目を丸くした。
「んん~? なんだぁ~? お前ら知り合いかぁ?」
イケメン店長 笠井 さんの言葉に俺は首がもげるんじゃないかってくらいの勢いで頷き、その一方で長身細身イケボイケメンさんは合点がいかないと言う表情を浮かべていた。
やはり、平凡な顔の俺の存在など超絶的なイケメンの脳内には一日と留まることもできずに忘れ去られてしまうものらしい・・・。
ああ・・・悲しきこの現実・・・。
「・・・あ。・・・そう言うことか」
無意味に感傷に浸っていると『ヤヨイ』さんのイケボが俺の耳を突いてきた。
そう言うことか?
「ごめん。ちょっとど忘れしてて。花咲月 秋人 です。改めてよろしく。春海 くん」
そう言って優しく微笑んだ花咲月 さんは本当に完璧なイケメンだった。
いや、もう神だった。
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