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裏切り
「あ・・・」
振り返ったその先にはすこぶる機嫌の悪そうな細マッチョ系爽やかイケメンの剛志 さんが仁王立ちで立っていた。
「お、おはようございます・・・。あの・・・今日から・・・」
「花咲月 にあんまデレデレすんな」
「え? で、デレデレ?」
言葉を遮られ、剛志 さんから言われたその意外な一言に俺は目ん玉をひん剥いた。
「そうだよ。デレデレだ」
・・・・・え?
ちょっと・・・待って?
え?
もしかして・・・もしかしてだけど・・・。
俺はその『もしかして』をどっかの芸人みたく心の内で復唱して目の前にいる剛志 さんを凝視した。
「俺・・・花咲月 を狙ってんだよ」
・・・・・あ、はい。
うん・・・。
知りたくなかったぁー!!
そんな事実情報、微塵も知りたくなかったぁー!!
俺、何て返すべき!?
頑張ってください!! とか簡単に言っちゃっていいの!?
剛志 さんがそれで頑張ったら花咲月 さん、掘られるでしょ!?
「カッコいいよな・・・花咲月 」
・・・・・ちょっとぉ!?
まさか剛志 さんが掘られる側の人間!?
掘るの花咲月 さん!?
もうやめて!?
怖いから!!
俺は心の内で本当にマグマが沸きそうなほど葛藤していた。
「お前・・・ぶっちゃけ・・・花咲月 のこと好きなの?」
「は、はいぃ!?」
俺はそのド直球過ぎる剛志 さんからの問いに青ざめた。
もう嘘でも『嫌いです!!』とか言った方がいいの!?
けれど、それは・・・無理だー!!
口が裂けても言えねぇ!!
俺は嘘が吐けない性分なんだよ!!
かと言って『好きです!!』なんて言ったら簀巻きにされて川か海にぶん投げられそうなんだけど!?
「・・・おい。どうなんだよ?」
ドスの効いた剛志 さんの低い声に俺の緊張はピークに達していた。
ああ・・・ごめんなさい。
本当にごめんなさい・・・。
俺、何も悪いことしてないけど本当にごめんなさい・・・。
「お、俺はっ! 俺は・・・花咲月 さんのことがっ!」
本当にごめんなさいっ!!
「花咲月 のことがっ!! ・・・好きですっ!!」
俺はそう言ってハッとした。
その背中に痛いほどの視線を感じたのと『お、おう・・・』と言うイケメン店長 笠井 さんの戸惑うようなそんな声が聞こえたからだ。
俺はそれに青ざめながらその視線とその声の聞こえてきた方を振り向いた。
そこには無表情の花咲月 さんと苦笑混じりのイケメン店長 笠井 さんの姿があって俺は更に青ざめた。
ああ・・・ヤバい・・・。
この空気・・・本当にヤバい・・・。
そう思いつつ、全身に嫌な汗を掻いていると『あ』と剛志 さんが声を発した。
ヤッタ!!
剛志 さん、きっと俺を助けてくれるんだ!!
俺は心の底から剛志 さんに感謝した。
「俺、配達に行ってきます」
・・・おい。
ちょっと待て・・・。
ちょっと待てよ。
細マッチョ系爽やかイケメン・・・。
この不穏な空気は一体、誰が元凶だ?
せめて何か弁解して行けよ。
俺は心の内でそう静かにキレて、いそいそと店の外へと向かう剛志 さんの背中を恨めしく見つめ見た。
とりあえず、先輩だがふざけるなと俺は思った。
「ま、まあ・・・仲良くやれよ? 花咲月 と春海 」
そう言ったイケメン店長 笠井 さんは明らかに苦い笑みを浮かべていた。
もう本当にお家に帰りたい・・・。
てか、もうこの職場を辞めたい・・・。
今日が初日なのに・・・。
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